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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第6章:凍った心
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雪原の街へ①

 カイルから魔力供給を停止する許可を得たディアンは、氷の精霊についての伝承があるといわれる北方のソレクに向かうパーティーとして同行した。

 一行は来た道を戻りネストラスの森を出ると近くの港から海路を利用し、再びトール方面へ北上した。

 冒険者ギルドの生業の一つである辻馬車を御者を付けずに借りて、ここより北部に位置するソレクという街に向かっていた。


 冒険者ギルドは各地に存在しており、その運営に国境は無い。御者なしの辻馬車は、馬車や馬自体に発信機をつけられており、別のギルドに返却しなければ冒険者の旅券が剥奪されるので、この商法は多くの冒険者たちの役に立っている。

 今の手綱はレイラが担っている。彼女を除く四人はござが敷かれた後ろのスペースで寛いでいた。


「寒いねぇ」

「そうか??」

「アレフくんズルいって、熱耐性持ちで平熱高いとか。寝るとき湯たんぽしてよ」


 レムは困ったような笑みを浮かべながら手元の毛布をさらに手繰り寄せた。


「街についたら部厚い外套買いたいね……アレフの半そでは見てるこっちがこっちが寒いから景色とすごく違和感」

「レム、毛布全部持っていくなよ。ほらリマ、これ使って」


 寒さに強い様子のアレフを見ながら無意識に腕を擦っていたらディアンがリマの肩に毛布を掛けてくれた。比較的暖かい気候で育ったリマとレムにはトール地方の気温は寒すぎる。

 これから向かうのはトール都心部より北方なため、すでに道には雪が積もっている。火の精霊の子であるアレフは基礎体温が高いのか平気そうで、他二人は旅慣れている。


「ディアンは寒くないの?鎧が冷たそう」


 ほら、とリマがぺたりと手のひらを肩のアーマーにあてがう。


「冷たい!」

「当たり前だろ?でも中は平気なんだ」

「それならよかった…………」

「リマ?」


 そんな話をしながら、リマは毛布を首元まで手繰り寄せカイルに言われたことを脳内で反芻していた。


『死ぬ可能性だってあるのに?まるで集団自殺だ』


 リマがこの旅をしている理由。自分がなぜ精霊の子として生まれたのか。ウンディーネはリマに何をしてほしいのかを知ること。

 シルフィたちが教会に言いつけられたことがあまりにも理不尽だったから。理由もわからずに身体の自由を奪われるなんて理解しがたいものだから。でもそれが、全て理に適ったうえで精霊に身体を差し出すことが真実なら。

 今一度その可能性を正面から突き付けられたのなら、その時自分は正気を保てるのだろうか。


「カイル博士に言われたこと思い出してた。私ディアンに嘘ついちゃったかも」

「誰しも命を懸けて全うしてるわけじゃないだろ。知らない間に役割を与えられて、その時になって“ここであなたの人生は終わりです”って告げられるより、ギリギリまで足掻いた方が生きた心地ちがするよ」

「知らないことがいいこともあるって、こういうことだったんだね」


 ディアンを唆したのは自分だ。彼にとっての“知らなくてよかったこと”を暴いてしまった。身分の違う幼馴染との再会は、皇女の意識が戻った時に良い方向に転ぶとは限らない。


「ステラ皇女も、きっとわかってくれるんじゃないかな」

「城の中で話しかけてもらったんだけど、メイドにも丁寧に接してもらったから、きっと優しいお姫様なんだね」

「ああ、幼い時も優しい人だったよ」


 ディアンは目を伏せてふっと微笑んだ。



「仲良いよねあの二人。料理も仲良く作ってくれるし」

「色もなんか似てんだろ」

「色素薄い系?寒そーだよね。だから僕はアレフに抱きついててあげるね」

「やめろよ鬱陶しい」

「やだ!!湯たんぽして!!」


 レムがアレフにしなだれかかったところで前方から怒声が聴こえてた。


「後ろうるさいわね!!雪崩が起きるわよ!?」

「レイラさんが一番うるさいよ〜」

「おだまり」

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