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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第6章:凍った心
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神託をもう一度

「それをマナフィラーである精霊の子に身に付けさせていたとあれば、ボクには利用されていたという意味にしか聞こえないな」


 淡々と告げたカイルは皮肉めいてそう付け加えた。


「問題は教会の目的_『精霊の復活』の明確なゴールが見えていないことよ」

「だから精霊の子を探してるの?」

「はい…」

「……私たちには知る権利があると思う」

「それには多少同意するけど、結果死ぬ可能性だってあるのに?まるで集団自殺だ」

「………」


 カイルの言葉がリマの胸に刺さった。最悪の結果ではそうなってしまうかもしれない。

 しかしリマはこれまで旅をしてきた中で感じた違和感を取り払いたかった。そのために「真実」を見つけようとしていた。何も知らされず、利用された結果死ぬよりは、抗えるだけましなように思えたのかもしれない。


「キミたちの意思で精霊とコンタクトは取れないの?」


 黙ってしまったリマたちに、言葉が落とされた。


「現に“喋った”んでしょ?あの姫を通じて月の精霊が。なら死んでないかもよ?」

「死んではいない、と思います。私の__シルフの神託というのは恐らくステラ姫と同じ状態のことでしょう」


 その疑問にシルフィが答えた。確かに彼女は祭典の中でこれまで何度も近い状態を経験している。


「リマちゃんもプールで同じようになったことあるよね。アレフはどうだった?」

「俺は無い。夢でしかアイツと会ってないからな」

「じゃあ、あと三人か…」


 そこまで聞いてカイルはポツリと呟いた。三人というのは、おそらく精霊の子の人数だ。

 ティルナ教の信仰する『精霊復活』に登場するのは、魔力の属性と同じ「地、水、火、風、光、闇、氷、雷」である。


「あとの精霊の情報は?」

「氷の精霊『フラウ』がトール地方北部の氷山地帯で情報があったわ。これはなんとなく想像はついていたけど。闇と雷はさっぱりなの、信仰の跡すらない」

「ふーん。じゃあやることはひとつだね。能動的に精霊が喋った時と同じ状態にすればいい」


 言ってる意味わかるよね?という言葉に反応したのはシルフィだった。


「私がやります」

「シルフィ!!」

「今までもたくさんやって来ました。私が一番慣れています」


 精霊の子にとって精霊との交信はとても曖昧で、夢で見る幻想にも近い。そのわずかな繋がりを一番持っていたのは他でもない彼女だ。


「それなら僕が…!」

「レムいいんです。私にやらせてください。以前までは増幅器のせいだったんでしょう?今なら大丈夫な気がします」


 止めるレムの腕をやんわりとつかんで、シルフィは微笑んだ。

 これまで『祭典』という形で身体に負荷をかけられ続けた二人にとっては不安なことなのだろう。そしてレムには代わってやれる術がないのだ。ある日を境に交信が途絶えているのだから。


「……辛そうだったらすぐ止めるからね」

「はい」


 シルフィから全員が少し離れ、彼女は床に両膝をついた立て膝の状態で祈るように手を組んだ。


「……おねがい」


 彼女が目を瞑ると、ふわりと風が舞って魔法陣が展開された。全身に淡い光が纏って強い風が一瞬だけ突きあがった。


「前はこんなに強い風は起きなかったのに……」

「大丈夫なのかな?」

「魔力は安定しているわ。任せましょう」


 ようやくシルフィが顔を上げる。ゆっくりと目を開くと、そこにいたのは彼女ではなかった。


『我が名はシルフ。はじめまして、シルフィの友人』


 そう口に出したしたのは、確かにリマが最初に見た彼女の様子と同じだった。 


「シルフ、なの?」

「へー。本当に喋ってるんだね」

『私の意識がオパールからこの子のコアを伝って身体を借りています。度々予言のために呼び出されてはいましたが、今回は違うようですね…』


 と、シルフィの身体を借りたシルフが辺りを見渡した。


「聞きたいことがあるの。精霊の子の居場所を知らないかしら」

「今までもシルフィの予言で助けられていたから」

『私には予言の力がありますが、彼女にはありません。正確には私の影響で予知夢の力がある程度です。この身体を借りての予言は不可能なのです』

「じゃあ、今までのは…」


 レムは目を見張って思わずそう言った。


『予知夢の内容を私が言葉にしました。断片的なのでこの力に見切りをつけられてたらこの子の命が危ういと感じたのです。ですから内容に偽りはありません』

「僕からも聞きたいことがあるんだ」


 一歩前に出たレムがシルフに言うと、「彼女」はなんでしょう?とそちらを向いた。


「あなたは、精霊の子の__僕らの存在意義を知っているの?今までシルフィが苦しみ続けていたことは彼女を通して知っていたはずだ」


 彼は普段とはかけ離れた堅い表情と声でそう言った。


『「精霊の子」、そう呼ばれているんですね』


 と、シルフは目を伏せて少しだけ悲しそうな顔をした。


「あなたには違う呼び方があるの?」

『私にも他の精霊たちにもきっとわからないでしょう。ただ一つ言えるのは、私たちは一度死にました。それを再び、意識としてこの世に産み出してくれたのは彼女です。それだけ大きな存在なのです』


 自分の身体を抱きしめるように腕を交差させた。おもむろに撫でるようなしぐさもみせる。


『彼女が苦しんでいたことはもちろん知っていました。でも私は意識だけしか存在していません。なので物理的な干渉はできません。最低限しか守ってあげられないのです』


 レムの方を見直してそう言うと、彼は神妙な顔で黙ったままだった。


「教会の儀式はあなたに何か影響した?」

『私には特に何も。この子の身体の方が、影響は大きかったのではないでしょうか。伏せっていることが多かったように思えます』

「教会が欲しかったものが、抵抗しない躯ってことなのか、それ以上の何かかハッキリしないね」


 カイルがペンを顎に当ててつまらなさそうにしていた。自分の知りたいことが知れずに不満気のようだ。


「ありがとうシルフ。シルフィの身体が心配だから、彼女に意識を戻してもらえる?」

『はい。でもその前に…』


 ふわりと浮いてシルフはリマとレムの手を片方の手でそれぞれ取った。


『この子のために泣いてくれてありがとう。いつも守ってくれてありがとう』


 これだけは言いたかったのです。と緩く笑って『彼女』は目を閉じた。魔法陣が消え、ゆっくりと浮いていた足が床に着いてシルフィが目を開けた。



「シルフィ!大丈夫!?」

「…………ぁ」


 すぐには焦点が合っていなかったが、レムの声を聴いてハッとなった。ゆっくりと声の方を見上げて、重たそうに口を開いた。


「レム……私」

「シルフィ!」

「すごく…眠いん、です……」


 レムは傾いた体を受け止めるとそのまま寝てしまったシルフィを抱き上げた。


「よかった、前のような状態じゃなくて…」

「やっぱり魔力の消費は大きいのね」

「さぁ、これでやれることがわかったね」


 カイルが机を叩いて立ち上がった。


「精霊は教会の目的をわかっていない。精霊の子には特別な感情を抱いていて死なれたら困る、と。君たちも教会の目的はわからないから、手探りの中でおそらくあと三人、精霊の子を集めないといけない」


 それに身体を欲する教会に身柄を拘束されてしまっては元も子もない。『器』というものがどのようなモノかはっきりしない限り、防ぐこともできないのだ。

 教会の教えに逆らわず全てを肯定する精霊の子をそう呼ぶのなら、ポーラは完璧であっただろう。


「三人とも生まれてない可能性はないのかよ」

「この様子じゃ平均年齢は十七だ。その可能性が低いことを祈るしかないね」

「じゃあ、探しに行きましょう。氷の精霊の子を」

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