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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第6章:凍った心
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ある研究者を探して

一行はアーノルド皇子の手助けでトールから逃げるように発った。その後ランティス王都にあるレムの屋敷で、身体を休めて次の行き先を決めていた。

 ステラの容体を診るために、レイラはマナフィラー研究の筋を頼っていた。ようやく居場所を突き止めたその人は、ランティス保護下の森林地区に住まいを移しているらしい。


 リマたちはランティス王都を南下した場所にあるネストラスの森へ向かっていた。大陸の山脈をまたぐように群生する深い森の奥には、エルフたちが集団で暮らす集落が、国の直轄で保護されている。

 レムの協力を得て森の捜索許可をもらい、万が一秘匿されたエルフの生息区画に足を踏み入れても問題が起こらないように手筈を整えた。


「マナフィラー研究の権威って誰なの??」


 道中、誰も触れなかった話題にレムがようやく触れた。


「あたしも会ったことないから知らないけど、ベルフォード博士というらしいわ」

「そんな人がどうして森にいるのでしょうか?」

「なんでも人付き合いが嫌いみたいで、一ヶ所に滞在しないらしいの。いろんなところを渡り歩いて最後の所属はランティスの軍研究機関」


 あくまで噂だが、ベルフォードは気まぐれで変人、というのが研究者の間でささやかれていた。レイラの返答にまだ疑問が消えないシルフィは首を傾げた。


「今はネストラスの森にいる、と。思ったより変人かもね。ベルフォード博士なんて聞いたことないな~」


 レムは貴族だから有名な研究者とは知り合う機会もあるのだろう。実際、貴族から支援を受けて研究を続ける研究者もいる。

 レイラですら見たことのないマナフィラー研究の権威とはどんな人物なのだろう、とリマは足元の木の根を避けながら思った。


「薄い暗いな。空が曇ってるわけじゃねえのに」


 パキリと枝の折れる音がアレフの足元で鳴る。

 ネストラル森に道という道は無い。出入り口と呼ばれる付近こそ樹々が密集していないだけで、基本的に『ネストラスの森』とは、ランティス領土とトール領土を隔てる山脈を唯一横断している人を寄せ付けない巨大な森である。

 レギア洞窟が開通するまで、両国を行き来できる最短距離の陸路ではあったが、リスクが高いことでも有名だった。そのためほとんどが海路かリマたちが利用したブレイズランドを経由する迂回路である。


「こんな森に人なんか住めるのか?」

「魔物も多そうだね……。ステラ姫は大丈夫?」

「あぁ。まだ目を覚まさないけど。リマこそ、手甲持って貰ってごめんな。重たいだろ?」

「大丈夫!みんなそれぞれ荷物あるし。ディアンはステラ姫背負うのに集中しなきゃ」

「ありがとう」


 暫く歩くと、レイラがふと足を止めた。


「サイモンからもらった情報によれば…このあたりなんだけど…」

「左右は茂みですよ?奥はもっと暗いですし……」

「……燃やすか?」

「ダーメだってば~」


 止まったのは多くの人が通った跡という割と細い道の途中。広いところも見えず、陽が落ちていないはずなのに生い茂る木々で先ほどよりも暗い。


「多分この先よ」


 とレイラは茂みの方を指差して、爪先で何かを蹴って音を鳴らした。コツコツと鳴るのは土に半分ほど埋まった硬いものだった。


「なんだこれ?」

「コアの探知器かしら。多分魔力を込めると光るはず…」


 レイラが手をかざすと、探知器が淡い黄色に光り出した。茂みを除けたその先にも、共鳴するように発光するものが続いていた。


 探知器の光る跡を辿ると、小さな小屋が見えてきた。辺りはもう陽が射さず、少し肌寒くなってきてる。


「本当に人が住んでるのかよ」

「薄っすら灯り見えるもん。ごめんくださーい!」


 訝しげな表情のアレフとは逆に、レムは呑気な声でドンドンドンと扉を叩き出した。中からの応答は無かった。


「お留守なのでしょうか?」

「こっちは急ぎだ」


 首を傾げるシルフィの後ろからアレフが割って入りドアノブに手をかけてみると、不用心にも扉が開いた。


「ベルフォード博士?いらっしゃいますか??」

「奥に灯りがあるよ。……!!」


 とりあえず全員が中に入り、恐る恐る声をかける。光源を見つけたリマが一歩踏み出したその時、周りの空気が変わったのを感じとった。


「……どろ、ぼう……?」


 ピリピリと張り詰めた空気を肌が物理的に感じる中で、小さくまどろんだような声が聞こえた。部屋の奥から影がむくりと起き上がる。


「……っ、出て行けっ!!!!」


 細い紫色の閃光がスパークしたのが一瞬見えた。


「リマちゃん下がって!!!」


 とレムが言うが早いか、前へ出てリマの腕を引っ張り自分の後ろへ押しやると同時に、「伏せろ!!!」と叫んだ。大きな爆発音と足元の床板が割れるような音がした。


「な、何!?」


 土煙のような埃っぽさを感じながらリマが目を開けてみた光景は、膝をついて魔術を発動させているレムの背中だった。床を突き破って一枚岩が波打って盾のように出現している。


「レム!大丈夫??」

「うん。びっくりした~」

「助かったわ…ありがとうレム」


 レイラですら反応が遅れたようで、彼に感謝を述べる。当の本人は何ともないような顔をしているが、とても素人のできる技ではなかったので、改めて彼が魔術に長けていることを知る。

 レムが魔術を解除するとバラバラと岩は壊れ、改めて小屋の中を見た。爆発で倒れた本棚から本や資料が溢れ、あまつさえ壁や床に穴が空いているのに、家主とおぼしき人物は見当たらない。障害物を乗り越えて先ほど人影を見た奥を覗くと、毛布の塊からはみ出るクリーム色を発見した。


「この人??」

「顔は見たことないけど、多分ね」


 とレイラは毛布を剥ぎ取った。


「ぅ……んん……」


 そこには、よれて少し古くなった白衣に身を包んだクリーム色のプラチナブロンドの髪を持つ美しい顔立ちの子供が丸くなって寝ていた。


「子供!?」

「ベルフォード博士は?」

「ちょっと!!起きなさい!!」


 驚くまわりを置いてレイラは少年をペチペチと頬を叩いて、文字通り叩き起こす。


「ぁ?痛い痛い痛い!」


顔を守るようにしてレイラの手首を掴み、寝起きの機嫌の悪そうな碧翠色の眼が覗いた。

碧翠を長いまつげが縁取っていて、くりっとした印象を余計に与える。



「ベルフォード博士はあんた?」

「だったら何なわけ?あんたら誰?」


不機嫌を隠そうとしない少年が口を開いた。


「レイラ・ローレンスよ。ウェルス出身の研究者なら聞いたことないかしら?」

「あぁ……宮廷の。そんな大層な肩書を持った御人がボクに何の用?」

「助けて欲しいの。あなたしかいないわ」

「??」

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