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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第1章:眠れる力
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アクアマリン

 城のとある部屋の前でサイモンがノックをすると短い返事があった。中に入ると、部屋は本や資料で埋め尽くされて、本棚がびっしりと壁を囲っている。

 窓からの差し込む日光が室内を覆う暗色系の家具や分厚い本たちに吸収され、日中にも関わらず薄暗い印象を受けた。


「適当に座って」

「片付けられない女なんて俺やだ」

「――じゃあ、わかるように話をまとめましょうね」


 空いている椅子にどかっと座って言ったサイモンを無視して、レイラがリマの前に魔宝石を取り出した。



「今朝のでわかったけど、あなたは“水の精霊の子”ね」

「……はい」

「アクアマリンだろ?」


 サイモンが頬杖をつきながら机の上の宝石をちょんとつついた。綺麗な曲線に光が反射して、美しい水色が輝いた。


「まぁ銀髪でおおよその検討はついたんだけど」


 と、リマを観察するようにレイラが言った。



「なぜですか?」

「伝説上だけどウンディーネは銀髪と海色の瞳を持った、絶世の美女なの。いいものもらったわね」



 クスリと笑いながら言う彼女も、端から見れば美女である。


 エルフという種族はヒトという意味では人間と変わらないものの、見目麗しい容姿をしているという認識は常識で、独特の雰囲気をしているらしい。

 人前に現れない彼らは、どこかで集団で暮らしていると聞いた。

 よって魔術師はエルフの血を引くハーフエルフという認識が世に染み付いているのだ。

 サイモンもハーフエルフと言っていたし、彼女本人の口から聞いたわけだはないがおそらくそうだろう。



「そういえば、あなたの家は教会だけど信者なの?」

「いえ…私は出産に司祭がいなかったので、洗礼は受けてなかったんです」



 ティルナ教は生後24時間以内の洗礼が必要だ。

 ゆえに国教になっている国では、自動的に洗礼されるシステムになっている。それ以外では”信者”というほうが正しいだろう。

 今では誰もが精霊の子の誕生を待ち望んでいるのだから。



「わかったわ。じゃあ、まずはこれを制御しなきゃ」


 レイラはアクアマリンを指差し立ち上がった。



「今のリマは体内のコアが飽和状態だから、今朝みたいに溢れてきたの。それを手伝ったのがアクアマリン」

「じゃあアクアマリンが触媒になって、コアを魔術に変換してるのか」

「コアが飽和状態?それと、触媒って何ですか?」



 魔術に詳しくないリマには、いまいち魔術発動の原理を理解していない。

 人間の自分には生涯必要ないことだと思っていたから。


「簡単にいえば、今のあなたは普通の魔術師と同じように『魔力』をもっているの。体内のコアが何らかの影響で身体に収まり切らないみたいね」

「『触媒』は俺たちでいうエルフの血のことだ。それを通さないとコアを魔力に還元できないからな」



 サイモンがレイラと同じように説明する姿が、やはり研究者なのだと今更ながらにリマは思った。



「じゃあ…私は人間なのに魔術が使えるってことになるんですか?」

「現に今朝使ったことになるわね。無意識だけど」

「おいおい、まさか使う度に暴走するんじゃないのか?」

「魔宝石の魔力に身体が追い付かないのね。この様子だと、消費する魔力も大きいのかもしれないわ」


 うーんと腕を組んでレイラは唸った。

 あいにく今のリマが考えても答えなど出せる知識が無い。

 身に覚えのない自分の「力」が制御不能だった暁には、どうすればいいのだろうか。



(……怖い…)


「コアが溢れる……飽和だから……放出、じゃなくて……」



 レイラが何やらぶつぶつと唱え出した。

 腕を組んで目を瞑ったまま、その場をうろうろしているため、脚にぶつかった小さな本の山が倒れていく。


「触媒間での調節を……外部干渉す、れ、ば……?」

「ん?なんだその理論。()()()()()()じゃ…」

「それよ!!確かこの辺に…」


 サイモンがそう言いかけるとパチッと翠色の双眼が大きく見開いた。すると彼女は弾けるように探し物をし始めた。がさごそと紙が落ちる音が部屋中に響いて、いたるところの資料の山が崩れ始める。

 サイモンはこの情景に慣れているのか、流れるような手付きで彼女の後ろから散らばった物を回収していく。


「なんだよレイラ。また散らかすなよ」

「どこにやったかしら…?」


 やや考えたあと、レイラはおもむろに手を頭に持っていき、少し髪の毛をいじると小さな鍵を取り出して、部屋にあった金庫のようなものの前に行った。


(え、鍵!?あんなところに?)

(こっち見るな!俺だって初めて見たっつーの!)


 その異様な光景にリマとサイモンは目で会話するしかなかった。

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