月光の化身
「ディアン!!大丈夫?」
「水の精霊の子じゃないか。キミもオレの声がまた聴きたくなったの?」
「そこを退け!!」
「ハッ!オレの任務は儀式を見届けること。それに、見逃してやったのを忘れたのか?」
嘲笑ったデトラスにアレフが炎を纏った蹴りを入れた。吸い込まれるようにアレフの足がデトラスの手のひらでピタリと止まる。否、止められた。
「ノーム様が何をコソコソしてるのかと思えば、そうか、お前は火の精霊の子か。どうりで馬鹿の一つ覚えな蹴りだ」
ニッコリと笑顔を浮かべたまま両手で足を捻ってアレフの体もろとも弾き飛ばした。魔族という種族が成す驚異的な怪力なのだろう。
今度はディアンの方に向き直おると、袖からナイフを増やす。
「どうやらお前、たいした魔術は使えないみたいだなぁ。ただの人間にしては魔力を感じるが」
「それがどうした!」
怯 まずにディアンはナイフでは防ぎ難い突きを繰り出す。しかし、ナイフの間に滑り込ませたデトラスは剣先が届く手前で剣の動きを止めた。
「言っておくが、“剣”でオレは倒せない」
「…っ!」
(どうすればいい。力技だと限界がくる…)
「さて、そろそろ完成するかな?」
その言葉にディアンはハッと顔をあげると、目の前のデトラスがふわりと後方に跳んでステラの前に立った。 結界のように張った光は未だ消えず、それ越しにデトラスは姫を覗き込む。
「へぇ。これがトールの皇女なのか。上層部がなかなか会わせてくれないからどんなかとおもえば…」
美味しそうだねぇ。と真っ赤な舌を少しだけ覗かせた。
(“剣”じゃ、ダメなのか…!)
ディアンは唇を噛み、グッと剣を握りしめる。自分の無力さに、越えられない壁に光が失うような感覚になった。
追撃する他の仲間を傍観していると、ふと後ろから首元に温かいものが触れる感覚がした。
『僕の力を貸してあげる』
頭に直接声が響く。後ろから首に回されたそれは子供の__アルテミスの腕だった。
『お姉ちゃんを助けて…』
半透明な腕が、光の粒になって細く形を変えていく。目の前に集まって現れたそれは、月白色に輝く細身の剣だった。
「確かあの人、火が弱いんじゃなかったっけ?!」
「攻撃が当らないんだよ!魔術のせいで!」
「僕たちじゃ相性が悪いみたいだね……とりあえず儀式さえ邪魔できれば…!」
「うるさいなぁ…もう黙っててよ」
ギラリと目を光らせたデトラスは足元から黒い影を展開させた。それは壇上側
にいたレイラたちまでに広がり、足元を地面に縫い付ける。
「なんだ、これ?!」
「動かないっ!」
「やっぱり対魔術師用兵器は凄いなぁ。あのレイラ・ローレンスをここまでにするとはねぇ。他はまだ子供みたいだし……」
そう言いかけてデトラスはある一点で目を見張った。
「お前、なぜ動ける!?」
動けないはずの人間が足を動かしている。その足元に影は無く、手に握るレイピアが強い光を放っていた。
「“剣”で、守る…オレは騎士だ!!」
振り上げたそれで空間を断つと、その衝撃波がデトラスを通過してポーラとステラを繋ぐ光にぶつかる。眩い光がその場にいた全員の視界を奪った。
いくつものガラスが割れるような大きな音を立てて魔力の繋がりが断たれた。皇女を隔離していた魔力の壁は消え、彼女が倒れる寸前にレイラが抱きとめる。
それと同時に、目の前に月白色の破片が飛び散るのをディアンは捉えた。
「アルテミス!!!!」
自分の握る剣の刃が折れていたのだ。地面に散らばるそれは、間も無く光の粒になって空中へ還元されていく。
狼狽えるディアンの頭に再び声が聞こえてきた。
『助けてくれて……あり、が、と……』
「アルテミスっ…!!」
か細いその声は、光が消息すると同時に途切れた。
「っ…お前ぇ……光の精霊か!!?」
憎しみの籠った声色で話すその先は、顔を歪ませたデトラスだった。黒い爪が伸びたままの右手で顔を覆い、片目から薄っすら血を流している。
闇の種族である魔族には光の魔力ほど相性の悪いものはないのだろう。先ほどの魔力でダメージを受けつつも、片腕にぐったりしているポーラを抱えていた。
「“跪け”」
黄金色の目を見開いて短くそう言い放つとその場にいる全員の膝が地面についた。
「え!?」
「抵抗できない…!」
「言っておくがこれは魔力じゃない。礼を言うよ、レイラ・ローレンス。こんなにたくさんの精霊の子を見つけてくれて。ただこれ以上騒いだら、この国で動きづらくなる。いくらティルナ教会本部が自治区だとしても。だからステラ姫はあげるよ。動くかどうかわからないけどね」
「その子を離しなさい!!」
「いいじゃないか。ニセモノの精霊の子ぐらいくれよ。ホンモノはあげるんだからさ」
またね。とレイラに言い残して残してデトラスはポーラを連れて消えた。




