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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第5章:月の裏側
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異変

 大舞台の上で祈りを捧げるポーラは、体から何かが放出される感覚に襲われた。組んだ手が震えて祈りに集中できない。手に力を籠めれば込めるほど、意識を持って行かれそうになる。

 ポーラは本格的な魔力行使の経験がない。祈りを捧げれば奇跡が起きたから発動条件を理解していないのだ。しかしこの感覚と足元で光る魔法陣が、震える魔法石が何よりの証拠。


「もうすぐ…もうすぐだ」

「ティルナ様……」


 身体中に力が籠って額に汗が浮かぶ。教皇が期待に満ちた表情で何かを言っていたが、ポーラの耳に届くことはなかった。

 明らかに歪んでいく彼女の顔に、横で見ていた皇女:ステラが皇帝である父へ問いかけた。


「お父様、ポーラは大丈夫なの?なんだか顔色が悪そうよ」

「精霊に生まれ変わるのだ。彼女も覚悟の上だろう」

「でも!」


 従姉妹の辛そうな様子に皇女は心を痛めた。ポーラから面と向かって『精霊になる』と告げられた時は、素晴らしいことだと信じていた。()()()()()()()()()()()

 ふと生まれた疑問に答えられる者はいなかった。




 膨大な魔力の収束に離れたところにいたレイラ達は、彼女の右腕の異変に気が付いた。


「リスレットが!」

「教会が用意したものならあれは増幅器のはず。ゴブリンの作品はそう簡単に壊れるものじゃないのに」

「増幅器が持たないってこと?」

「キャパオーバーの増幅器を付けるなんて危険過ぎる。下手したら腕が吹き飛ぶわ」


 ディアンは目を凝らして見ていると、突然頭に刺さるような痛みが走り、耳鳴りに襲われた。


「うっ!」

「ディアンくん?大丈夫?」

『たす……け、て』


 いきなり頭を押さえて呻いたディアンに、周りの心配する声は聴こえない。キンと高く遠くで鳴る音の中に別の声で言葉が響いた。


『お姉、ちゃんが……!』

(アルテミス、なのか?)


 ふらつく足で立ち上がり、ディアンは急いでポーラの方を見る。その刹那、祭壇の様子が急変した。

 ポーラの悲鳴と共に完全に破壊されたリスレットの破片が飛び散った。魔法石が落ちる音がいやに響く。先ほどまで強い輝きを放っていた魔法陣とムーンストーンから輝きが消えた。


「セレーネ様!!いかがされました!?」

「危険なので下がって!!」

「な、なにが起きてるの?」

「終わった、のか?」


 リマたちは後ろに下がってくる流れに必死で逆らって前方を見るがポーラの様子がよくわからない。立ってはいるが顔は俯き、意識があるように見えない。彼女の前にムーンストーンが浮遊している。

 来賓の貴族たちでさえ混乱していた状況だった。ただ一人、祭壇の後ろで傍観していたデトラスを除いて。彼はにやりと口角を上げると、ポーラの足元の魔法陣を見た。



「始まった」



 溢れるばかりの青白い光で浮かび上がる、圧倒的な魔力の放出は魔術を使える者にしか見えていない。

 焦った様子のディアンが人をかき分けている腕をリマは掴んだ。


「どうしたの?!」

「セレーネが危ない!!アルテミスの声が聴こえて、警告してる!!」

「何ですって!?」



 ディアンの異変に気づいたが、すぐに人混みに消えた。レイラはリマの銀髪も見失う。


(アルテミスの声はオレしか聴こえなかった。だからオレが……)


 人を押しのけるようにして最前列に出ると、ディアンは魔法陣から地面に伸びる一筋の光を見た。大衆は相変わらずなにが起こってるのかわからないようだ。“視える”者だけが空間を眺めているので視線が上を向いている。


 その光の先の光景にディアンは驚きで目を見開いた。ふいに記憶の中でソエルの言葉が反響するように差し込まれる。


『あなたは既に会っている』

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