受けた傷
「どうですか?彼の容態は」
姫の御前から移動した一行は、教えられた通り無事に城の外へ出ると、すぐさま宿に転がり込んだ。宿の主人に医者を呼んでもらい、アレフの容態を診ている。
「随分と珍しいケースだからね。キミは医者だから知ってると思うけど、【石化】は予防するものだから、この状態から治すのは時間がかかるよ」
「……そうですね」
これまで生きてきた中で、レイラは石化死体も見てきた。自分も喰らいかけたことがあるが、本来そういう危険がある所に行く場合、予防のための薬を摂取する。
「脈が少し弱ってはいるが、大事な動脈には達していないし、患部を破損させなければ大丈夫でしょう」
的確な応急処置で命拾いしたね、と医者が言うと、全員ホッと息を吐いた。
「キミたちは冒険者のようだけど…この地方で【石化】の患者は初めてだ。この中に解除師はいないのかな?」
「解毒は多少できますが…人並みです」
「そうだねぇ……解毒よりも【解除】に近いからね」
全身が石化していると人間では手の施しようがなく、唯一の手段は治癒術師や解除師による強力な術である。死亡と判断されるのは全身や頭部が粉々に砕かれた時が一般的だ。
「では、先のやり方で治しましょう。左腕は安静にさせなさい」
「ありがとうございました」
医者は静かにそう言うと、重たそうに腰をあげた。すかさずディアンが出口へ見送る。扉が閉じられると、緊張していた空気が少し和らいだ。
レイラは一息吐いてから眼鏡を外して、ベッドの脇で項垂れているリマを見遣った。
患部を見せるために今は退かせたが、リマは意識が戻ってからアレフの左手を離さなかったのだ。今は彼の右手を握っているリマの顔は、海面のようにきらめく銀髪で見えない。
レイラが「リマ」と呼び掛けると、彼女は小さく肩を揺らした。
「起きるまで看病してあげなさい。少し熱が出ると思うから」
「……はい」
「僕たち向かいの部屋にいるから、何かあったら呼んでね」
廊下でふうと一息ついたレイラが三人を振り返る。
「さて……聞きたいことはいろいろあるけど、まずはシルフィ、抑制器の台座は?」
「持ってます。捕られたときに、台座は残されて」
「メンテナンスするから貸してちょうだい。三人共、今日はもう寝なさい」
差し出された掌にシルフィがブローチを置くと、レイラが三人を部屋へ押し込んだ。
「っ……」
「レム、大丈夫ですか?」
ベッドに腰掛けたレムが手を頭に当て顔をしかめたのを見て、シルフィが駆け寄った。
「うん、平気。ちょっと打っただけ。それよりもこっち」
「!」
「なっ!」
座っていることでいつもと逆に、レムは彼女を見上げてにっこり微笑んでから抱き寄せた。
シルフィは驚きで目を見開き、一方違う意味で動揺したディアンが外していた防具を落とした音がガシャンと響いた。
「無事でよかった…」
「はい、迎えに来てくれてありがとうございました」
「……おかえり」
「ただいま」
心地良さそうに擦り寄ってくる彼女に、レムがぎゅっと腕の力を強めると、ディアンが目を点にしていた。それを見たレムはニヤリと笑う。
「もーディアン君てば~何慌ててるの?キミだって家族にハグぐらいするでしょ?」
「か、ぞく……?」
それを聞いてなぜかディアンはホッとした。そうだ、ありえる。
二人については“精霊の子”としてしか知らなかった。特殊な環境で育った者同士の何かがあるのだろう。
「そーそー『家族』。キミもさ、イロイロあるんでしょ?」
言葉に含みを持たせて、レムはシルフィを抱えたまま上目遣いで不敵な笑みを送ると、ディアンが「う゛…」と呻いてたじろいだ。
「ま、明日詳しく聞かせてもらうけどねー♪シルフィ……あれ?」
レムはそろそろ離れようと腕の中を見ると、彼女は彼の服を掴んだまま眠ってしまっていた。防具を外し終えたディアンが覗きこむと、年相応の少女の安らかな寝顔がそこにあった。
「寝ちゃったのか?」
「うん。じゃあ、僕も寝るよ、おやすみー」
シルフィをしっかり支えて横になり、彼女を抱き枕のようにして寝に入るレムに、同じくおやすみと返したディアンは心の中で密かに決意した。
(…オレはもう……何も言わない)
兄妹のスキンシップなんてよくあることだと言い聞かせて、ディアンもベッドに沈んだ。




