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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第5章:月の裏側
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混戦

 せめてもと顔を背けて攻撃に耐えようとしたところで、聖堂の扉が破られた。城の中にある重要な部屋の扉が、決して立ててはいけないような轟音と火の粉が空中に漂っているのを視界が捉えた。


「はぁ?誰だよ、扉壊したやつ。皇帝の住まいに攻撃をしかけるのはどこのバカ?」


 さすがのギラも目の前の格下より、おかしな状況に目を見開くとすぐに嫌悪をあらわにする。賭け出す足音だけがこちらに向かってくることに警戒する。扉からまっすぐ駆ける音が、急にギラの目の前で歪んだ空間から騎士の鎧に身を包んだ実体を現した。

 瞬時にリマの上から飛び退いたギラは拍子でオパールを手放した。素早くディアンが斬りつけた剣は、ギラがいたリマの少し上を一閃する。前髪が揺れるほどの剣閃の風圧にリマは再び生きた心地がしなかった。

 掴まれていた自分の胸に落ちてきたオパールを握って背中の痛みに耐えていると、レムに背中から抱き起された。壁際にいたシルフィが駆け寄ってきて膝をついてリマに治癒魔術をかけてくれた。オパールを手の中に返すと

シルフィが抱きしめるように両手で握りしめる。


「リマちゃん!シルフィ!」

「……レム!わたし……」

「大丈夫か!?リマ立てるか!?」

「早く立て!」


 後から追ってきたアレフがリマにそう言い捨てながら、臨戦状態のディアンと共に黒髪の一見愛らしい少女と対峙する。


「あれ?あんたレイラ・ローレンスじゃん。イヴ姉にアブスター掛けられてくたばったのかと思ったわぁー。劣等種のくせにしぶといね~」


 奥の祭壇側へ飛び退いたギラは司祭が説教する台に胡座をかいて、前髪を指先で遊ばせながら哀れむように肩を竦めて言った。


「あんたは……『何』?」


 レイラの問いには答えずに、少女は首を傾げてニヤリと口角を上げた。


「これから死ぬのに、いらない情報でしょ?」

「この人数に一人で勝てると思ってんのか?」

「“誰が一人だって?”」


 背後から足音と共に、この場に相応しくないよく通る甘い声が聖堂に響いた。コツコツと靴を鳴らして現れたのは、ギラと同じ黒い髪を腰まで伸ばし、仕立ての良さそうなスーツに身を包んだ男だった。

 身を翻したレムとディアンが、アレフがレイラと背中合わせになるように対峙する。ギラと男に向かって構えた。


「ダメじゃないかギラ。こんなところで遊んでたら」

「侵入者だよ。てか、“ノーム様"までいるし…」


 下着が見えちゃうよ、と周りを完全に無視して張り付けたような笑みを浮かべて緊張感のない様子で奥の方にいるギラに話かける。


「退けギラ。オレたちは器を造るのが先だよ」


 男はゆっくりと無警戒に歩みを進めたので、ディアンとレムが動いた。男は一瞬で姿勢を低くすると、微笑んだまま右手でディアンの手首を掴み、左肘でレムの鳩尾を突いた。


「…くっ!!」

「レム!!」

「あ~あ、始めちゃったんなら仕方がない」


 そしてディアンを掴んだままの片手で、レムの体にぶつけるように彼を放って動きを止めた。まずいと思ってリマが動き出そうとする。


「な、消えた!?」

「うわ!?」

「アタシを忘れてなーい?」


 アレフの声が聞こえたと同時に、自分の背中側にいたはずのギラが視界に入ってきた。そしてナイフをリマの首元に突きつけた。カチャリと金色のチョーカーが鳴る。

 リマは体を水に変えて物理攻撃に備えたが、ギラはなぜか動かなかった。ニタリと笑うと、大きめの八重歯――基、魔物のそれに近い犬歯が覗いたのが見えた。


「あんた……ウンディーネね?」

「!?」

「アッハハ馬鹿じゃないの?たかが“器”のくせに、自分と精霊を繋ぐ?」

「っ……」


 正体を見抜かれて一瞬瞳が揺らいだが、リマは唇を噛んでギラを見返した。その目に強い意志を籠めて。


「なに、その目?ムカつく。与太話ほざいてんじゃねえよ。現実を見ろ。精霊がいなければ世界は滅ぶんだ。所詮あんたたちは精霊の器なの」

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