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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第1章:眠れる力
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精霊研究所

文字数難しいです…> <

1500〜2000で行ってみようかな…

 意外なことに、城のロビーには従者やメイドだけでなく、たくさんの民間人が出入りしていた。サイモン曰く、国王の配慮なんだとか。



 地下にある研究所に案内されたリマは暫し待たされた。白衣を着た他の研究者がチラチラこちらを見てくる。リマが困ったような表情で待っていると、レイラが出てきた。


「待たせてごめんなさい。二人で話がしたいの。来てくれる?」

「はい」


 再び通されたのは使っていない実験室で、機材がなくてがらんとしている。



「自己紹介が遅れたわね。私はレイラ・ローレンス。魔術師もやってるんだけど、ここで精霊について研究してるわ」


「リマ・アレナスです。ベイシアの教会にいました」


「私を含めここにいるエルフの眷族に確かめてみたんだけど、あなたからは膨大な魔力を感じるわ。体内のコアは、今は放出してないから平気よ」


 困惑するリマに、レイラは微笑みかけた。


「突然あいつに連れてこられて驚いたでしょう。でもここは安全よ。だから安心しなさい」


 改めてそう言われて頭を撫でられると、リマは今になって震えてきた。

 自分の人を見る目に自信がないわけではない。しかし数時間前にあった初対面の旅人に全信頼を置けるほど、リマは子供ではなかった。



「怖かったね」


 レイラはリマの震える体を抱きしめた。



 ――温かい……


 忙しなく働く研究員達の音がするのを遠くに聴きながら、母親とは違う、どこか懐かしい感じの温もりに涙が溢れてくる。


「私のせいで、母様が……」


 あの状況では何をされるかわからない。憎しみが籠ったようなあの声が頭から離れなかった。

リマは魔宝石を握っていた手をよりきつく握った。


「あなたのせいじゃないわ。自分を責めてはダメよ」


 リマは子供の様にレイラに抱きついて泣いた。


 ――ごめんなさい


 何度も何度もうわ言のように口にした。


 *****

 泣き疲れて眠ってしまったリマを、サイモンが客室のベッドに運んだ。


 ざっくりとした経緯しか聞かなかったレイラが今一度サイモンに訊ねると、彼女は「そう……」と少し悲しそうに呟いて


「守った我が子に謝られるなんて哀しいわね」


 と眠っているリマの頭を撫でた。少女の柔らかい銀髪が手によく馴染む。


「こんなに泣くなんて、まさか我慢させてたの?」


 撫でる手は止めずに、レイラはギロリとサイモンを睨んだ。


「そんなわけないだろ。見ず知らずのやつの前で泣きたくなかったんじゃないのか?」


「バカね。馬車の中で、一人で悶々と考えてたに違いないわ。それに加えて緊張状態の上の空腹なら、精神状態も不安になる。あんた何やってたのよ」


「……悪い」



 レイラは小さく息を吐くと、シュンと垂れた紺色に手を伸ばして髪をかき混ぜた。



「ま、あんたもお子様ってことね」

「なっ…!?」

「今日はもう寝なさい。陛下にはあたしからお話するわ」

「っ…いい加減子供扱いすんなよ」


 とサイモンはジトリと彼女を睨んだ後、大人しく部屋を出た。


 * * *


 ザァァァァァ


 ぼんやりとした意識の中で、リマは水が流れる音を聴いた。


 ――波の音?…違う…、これは


 波が引いたりする規則的な強弱はなく、一定に落ちるような音。


 ドォォォ…


 さらに鮮明に聞こえてきたそれはまるで――


「た……き…?」


 そう言って起きたリマの目に飛び込んできたのは、あり得ない光景だった。

 ベッドから投げ出された魔宝石を握っている手から、勢いよく水が溢れている。床は水浸しどころか、水位はベッドぎりぎりだ。



「え!?は…とっ止まらない!!」



 一方ドアの向こうでは、かなりの騒ぎになっていた。



「ちょっと!何やってんのよ、早く開ければいいじゃない」

「水圧が凄くて…おわっ!!」


 レイラの言葉に他の職員がドアを押してみても、水が押し返してくるだけだった。



「なんだよ朝から…って…」



 駆けつけたサイモンが唖然とした。客室のひとつの扉から水が溢れ出ている。



「リマ!いるの!?」


 水の音に勝るようにレイラは声を張り上げた。


「はい!あの……どうしたら!?」

「大丈夫か!?」

「手!……手から水が!!」

「なんでだよ!?」

「わかんないぃ……ぅぅ」


 中から水の音に紛れて確かに聞こえる。

 その大きな水音に思わずサイモンが怒鳴ると、それは涙声に変わった。


「『術者』がパニックになったらどうすんのよ!!」


 とレイラはすかさずサイモンを殴った。


「仕方ないわね。リマ!離れてるのよ」


 レイラはそう言うと、ドアに手を当てた。すると、溢れた水はビキビキと音を立てて凍りだした。



「凍ってく……あ」



 部屋の中にいたリマも、ドアの向こうから凍っていく瞬間を見た。それは部屋全体に広がり、やがて自分の右手のところで収束した。



「サイモン開けて」

「了解。ほらよ!!っと」


 彼は慣れた手付きで手をかざすと、ドアの周りを溶かしだした。ドアを蹴破って中に入ると、膝まで氷が張っていて少し冷えを感じる。



「あの…ごめんなさい」



 涙目でそう言ったリマの手は凍っていて、ピシピシと音を立て今にも水が再開しそうだった。



「あら~やっぱり握ってたのね」


 レイラが眼鏡を上げながらリマに近づき確認する。


「溶かしたら直ぐに手を離すのよ」


 とレイラが手をかざすと氷は溶けて、リマは宝石から手を離した。


「あ~よかった…。サイモン、後でリマとあたしの部屋に来なさい」


 レイラはふぅと息を吐いて部屋を出た。



お試し移転はここまで

続きを投稿するは未定です

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