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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第5章:月の裏側
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動き始める闇

そう在りたいと心から願った

それが『自分』で在りたかった

あなたにはわからない

『ニセモノ』の気持ちが

 

* * * * *


 ―――深夜。

 リマたちがランティスの王都へ戻った後、アステール遺跡に続く道を、一組の黒髪の男女が歩いていた。


「ったく…なんで夜なの?昼間でもいいじゃん」

「仕方ないだろ?コイツを見つけるのに苦労したんだから。それにオレ、昼間眠いし」


 不揃いの髪を揺らしながら不平を述べる少女を、スーツを着た長髪の男が、何かを引きずりながらたしなめる。


「イヴ姉も厳しいよね~。騎士以外から見つけろってさ」

「おいおい。いくらなんだって自分の部下はないだろ」

「ま、見つかったのはいいけどさ……弱いから使いきりじゃん?」

「どうだろうねぇ?」


 男は引きずっているものを軽く持ち上げ、少女は尖らせた口に指を押しあてながらそれにチラリと目線を落とす。

 やがて最上階に着くと、騎士たちが二人を阻んだ。


「申し訳ございません。ここから先は入行証が必要です」

「は?顔パスだよ顔パス。通せ」

「お引き取りください」


 あからさまに舌打ちをする少女を遮り、男はにっこり微笑んだ。


「"ティルナ教会の者なんだけど、通してくれます?"」

「は……はいぃ~」


 実に穏やかに言ったその言葉を聞いた騎士たちは、掌を返したようにフラフラとした足取りで道をあけた。


「あ!この部屋じゃん」

「じゃあ、コイツの出番かな」


 最上階の小部屋の中で、今まで引きずっていたものをドサリと落とした。それは簡易的な服を着た顔面蒼白な男性だった。


「コイツ…死んでんの?」

「いや、多分生きてる」


 あっそ、と吐き捨てて意識の無い男性の手を少女が力任せに引っ張り、その掌をタイルに押し付けた。


「っ!…ぐぁぁ!!」


 その直後、意識を失っていたはずの男性の体が光出し、苦しみ始める。するとタイルが音をたてて左右にスライドしていった。


「あ~開いた、開いた♪」

「『光属性』のマナフィラーなんて見つけにくいしな。オレらエルフじゃないから見えないし」

「あんな劣等種と同類なんて…こっちから願い下げだっつーの!」


 イライラを発散するように丸みを帯びた可愛らしいブーツで、少女は足元に倒れている男性の脇腹を蹴飛ばした。


「………」

「あ、死んだ?」

「…死んでる。さすがにコアの量が追い付かなかったか」


 男性の生死を確認する長髪の男を尻目に、少女はスカートのリボンを靡かせながらずかずかと小部屋に入った。


『だ…誰?』


 物陰から顔を出した少年を、少女は妖しく見下ろした。垂れた前髪から覗く赤い筋がキラリと光る。


「いたよ。デトラス」

「おいおい。あんまり虐めてやるなよ、ギラ」


 彼女は後ろに向かってそう言うと、デトラスと呼ばれた長髪の男は、先程の男性を担いで入ってきた。


『!なんだ…この魔力…』

「アルテミス、だね。君の"月の魔力"を少しもらうか」

『い、嫌だ!これは、"闇"?まさか……君たちは…!』


 アルテミスは自分の顔に手が伸びるのを感じて、きつく目を閉じた。


* * * * *


「なんとも急な話だな」


 一度ランティスに戻ったリマたちの報告に、国王が圧倒されていた。「私が一番驚いています」と、ディアンが苦笑した。


「それにしても、実に間がいいな。レイラよ、そなたに遣いが来ているぞ」


 国王が側近の方を向くと、彼らが扉を開けて招き入れた。失礼します、と凛としたその声にリマの顔はパァっと明るくなり、レムの口が「お」っとなった。

 濃紺の髪を揺らしながら、リマの知る青年が入ってきた。まさかこの場で声をあげるわけにはいかず、リマは言葉を飲み込んだ。


「サイモン、と言ったな。行き違いにならなくてなによりだ」

「ご心配ありがとうございます」

「では陛下、私の部下がお世話になりました。私たちは準備ができしだい、トールに向かいます」

「その間は当家でくつろいでもらいますね。陛下、何かあればそちらに」


 レイラの後にレムがにこりと笑ってそう言ってその場を締めた。

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