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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第4章:月の満ち欠け
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亡き母の形見


――ディアン

誰だ?


――また遊ぼうね

懐かしい声。


「……………ィアン!」


いや違う、これは…


* * *


「ディアン!!」

「!!」


少女のよく通る高い声で目を覚ました。


「あれ……真っ白だ…」

「お前の髪、顔にかかってんだよ」

「あー、ごめんねディアン、大丈夫?」


 どうやらリマの髪が視界を邪魔していたらしい。光を受けてきらきら反射するそれを退けると、リマとアレフとレムが除き込んでいた。


「あぁ、大丈夫」


 ゆっくりと上体を起こしたところで、自分がベッドの上にいることを知る。


「それを握ったまま倒れたんだよ。アルテミスにどうにか開けてもらって、ここは騎士団の駐在所」

「すみません…」

「無事で安心したわ。で、何か言うことはある?」


 レイラにそう言われディアンは口をつぐんだ。何を言えばいいのだろうかと言葉を模索する。


「夢を見ていて……そこで光の精霊と名乗るペガサスに会いました」


 慎重に言葉を選んだが、これしか言えなかった。


「やっぱりお前のものだったのか…」


すると、彼の兄であるライアンが部屋に入ってきた。


「兄さん…?」

「母さんがそれを着けていたのは、確かにお前が産まれた後だった。納得できるな」

「何の話だよ」

「俺が持ってる母さんの形見は日記だ」


 ライアンは少し古い手帳をディアンに差し出した。


「お前も知っての通りあんな感じな人だったから、深刻には書かれていなかった。というより……楽観的が正しいかもな」


 パラパラとページをめくる度に、ライアンの歯切れが悪くなる。


「部外者であるあたしたちも見てもいいのかしら?」

「どうぞ。といっても、本当にうちの母親は……」



■■■■■

 XX75年のページ。書き出しはこうあった。


『今日は私と愛する夫との三人目の子供、“ディアン”が生まれました』


なんと36時間という長期戦!手強かったけど……やっと会えたね、ディアン。

産毛をみた限りだとライアンとおんなじ水色の髪かしら?瞳の色はまだわからないけど。

ついさっき後産も終わったんだけど、なんか変なモノもが出てきました。

琥珀みたいな色の綺麗な石でまん丸なの。

私、すごくない!?胎内に何宿してんのよって話!まぁ記念に取っておくけど。

これは私とディアンの秘密ね。


XX日。


今日お買い物してたら、露店のおばあさんに話しかけられたの。

お守り袋に入れて首からかけてたあの石を、服の上から見破ったのよ?


『強すぎる力は使い方によって、毒にも薬にもなる』


それでペンダントのケースをくれたの。

エルフ製の魔除けのお守りなんですって。どういう意味かしら…

ちょうどいいのでコレを入れることにします。


最後に、今日も子供たちは元気いっぱいでした。

ライアンは道場の三級になりました。

Helena・D


■■■■■


 

 ディアンを含む精霊の子4人は目を点にしていた。


「あぁ、やっぱり…」


 ライアンは額に手を当ててため息をもらした。


「ダグラス夫人、肝座ってる~」

「でなきゃ七人も産めないわよ。尊敬するわ」


 楽しそうに言ったレムにレイラが突っ込む。


「じゃあコレは…」

「おそらく、長時間の出産が影響して、魔宝石が胎内で離れてしまったのね。だから精霊の子と認識されなかった」


 そう彼女は推測してゆっくりと呆然としているディアンを向いた。


「少し考えた方がいいわ。リマ、一緒にいてあげて」

「わ、私が?」


 出ましょう、と言ってリマだけがそこに残された。ディアンはリマが残ったことさえ気づいていないようだったが。呆然とする彼を伺うようにリマは声をかけた。



「ねぇ、大丈夫?」

「正直、まだ混乱してる」

「……だよね」


 ぽつりと呟いたディアンにリマは苦笑し、ベッドの隅に腰掛けた。


「私も最近知ったんだ、自分が精霊の子だって。17年振りに魔宝石に触って自覚したの」

「そうなのか……リマはどう思った?」

「家が教会だったんだけど私は敬虔な信者ではなかったら、入ってはいけない世界に踏み入れた感じだった。だって」

「精霊になるからか?」


「うん。でも何も知らないままそれを受け入れるなんておかしいよ。アレフはこの力を疎まれていたし、教会はシルフィたちにさえ詳しいことを話してないみたい。それを怖いって言ってくれたのに、私は…」


 そこまで言って無理やり作っていたのか、笑顔が歪んだ。膝に置いていた彼女の手に力が籠るのをディアンは見た。


「気づいていたつもりになってたの。シルフィが連れていかれるのを見ているしかできなかった」

「………」

「…その時わかった。”知らない”だけじゃダメなんだって」


 ゆっくりとリマは首元の宝石に触れた。


「私は…ウンディーネにもらったこの力を、正しく……誰かを守るために使いたい。皆の悲しみやあなたの不安が少しでも取り除けるように」


 そう言ってリマはチョーカーの中心に嵌まっているアクアマリンを外した。


「!…外していいのか?」

「直で触るなって言われてるけどね。たまにこうしてるの」


 ナイショ、と人指し指を口に当てて、ディアンにそれを握らせた。まるで水の中にいるように手から全身がひんやりとした。


「これは……」

「これを握ると、不安な時安心する気がするの。そして冷静になれる」


 目を閉じて、と言ったリマにディアンは従った。





――オレはどうすればいいんだろう?気になることが山ほどある。

『あなたは既に会っている……』

 ソエルが言ったその言葉が、さっきから頭で反復される。自分の知らないことが、こんなに怖いなんて。


 すっと目を開けて手の中のモノを見てみた。水色と橙色の石が僅かに光っていた。


「アルテミスの言い方だと、オレが必要なんだよな」

「……」

「今、自分にできることを考えてみた。誰かの役に立てるなら、騎士としての義務だと思う」


 それを聞いてリマは無意識にディアンの手を掴んでいた。


「義務じゃダメほんとにあなたがしたいこと?」


 無理しないで、と目で訴えているのが痛いほど伝わってくる。そんなリマを安心させるように、ディアンは緩く笑ってみせた。


「オレの意思だよ。誰かの助けになりたい…そう思って騎士になったんだ。必要としてくれてるのなら、応えたい」



 その真っ直ぐな言葉を聞いて、リマは指先から何かが駆け巡ったように感じた。まるで太陽の陽射しのような、暖かくて優しい”光”の魔力。


「一緒に行ってもいいかな?」

「うん!……ありがとう!」


 その”光”に負けないように、リマは目に涙を溜めたまま満面の笑顔で応えた。

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