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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第4章:月の満ち欠け
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ずっと待ってた

「まさか、こいつが!?」

『来てくれてありがとうっ』


 アルテミスはもう一度勢いよくディアンの腰に抱きついてじっと見つめる。


「ま、待ってくれ!人違いだ。だいたい精霊なんて知らないし……」

『君があの扉を開けたんだよ』

「ハイハイ、ハイハーイ。何が起こってんのかしらー?」


 両手を肩の上まで上げて降参したようなポーズをとってレイラが遮った。


「あたしはディアンから魔力は感じなかった。けどあんたは違うようね」


 先ほどの手加減を感じた対応はどこへやら。レイラの ”あんた” 呼びが始まる。いつもの口調でアルテミスを捲し立てると今度はディアンを睨むように続けた。彼は未だ状況を飲み込めない様子で困惑している。


「で、魔宝石は?」

「魔宝石?」

「産まれた時に握ってる宝石だよ。って、いくら信仰に疎い人でも知ってるよね」

「いや、無いよ」

『あるよ。ここに』


 否定したディアンに反してアルテミスは彼の胸をつんと指した。


「?いや、これは違うって」


 そう言いながら首から何かを引っ張り出した。シャラ、と音を立ててディアンに握られたそれはペンダント。金色の縁の中心にオレンジ色の石がはまっており、それをガラスのようなもので覆われている。


「ただのペンダントだよ」

「見てもいい?」


と言ったレイラにディアンはそれを差し出した。


「……このペンダントの台座、魔法具だわ」

「魔法具?」

「魔術に関わらない人間には縁がないものね。単純に言ってしまえば、魔術がかけられたモノ」

「2年前に亡くなった母の形見です。兄弟それぞれに遺してくれたんですけど…オレにはいつも着けていたそれを」

「サンストーンかな。すっごく状態のいいものだ」


 経緯を訪ねたそれをレムが指でつつきながら目利きをする。


「ロケットみたいになってません?」

「本当ね。ほら、ココ開くわよ」



リマが指摘した部分を教えながらディアンに返した。

ディアンは慎重にそこを見て指で開くようにした。カシャンという音とともに宝石を覆うガラスが外れた。

あっ取れた、と少し焦った様子で手の中でペンダントをいじると、橙色のサンストーンが台座から落ちた。


「うわっ!!!」


その刹那、目映い光がディアンの手中から放たれた。


「な、何!?」

「…くっ!見えねぇ…」


驚いてリマたちは目を覆う。白くなっていく視界に耐えられずに、ディアンは目を瞑った。


*****


―――聞こえますか?我を継ぐ者



 聞きなれない声が頭に響いて、どこか懐かしい。足には地面に立っている感覚は無く、浮遊感を覚える。



「ああ、聞こえてる」



 ディアンは無意識にその声に応えた。目を閉じていても瞼の外側が白い。それくらい明るいのだろう。

 よく通る澄んだ声を探るために、ディアンは目を開けた。開けた先にいたのは、翼が生えた真っ白な馬だった。

 翼が生えた馬なので、天馬――ペガサスと呼ばれる生き物だろう。そしてその空間は昼の陽射しのように白く、自分の体は浮いていた。


『初めまして、やっと逢えましたね。私の名はソエル。光を司る精霊』

「浮いてる!それに、しゃ、喋った!」

『フフ、新鮮な反応ですね』


 ソエルの声が楽しそうに響いて、鼻先をディアンの頬に擦り寄せた。


「何が、どうなってるんだ?」

『あなたが私を握って産まれた、ということです』

「オレが……精霊の子?」


 呟くとソエルは首を縦に振った。そう呼んでいるんですね、と少し伏し目がちになった。



『お願いです。一刻も早く、セレーネを持つ者に会って下さい』

「月……精霊の子?」


 確か四家の令嬢だったはずと頭の中で思考が再開する。


『このままではアルテミスと共に消えてしまうでしょう』

「でもオレ、その人に会えるような身分じゃ……!!」


 そう言いかけるとソエルの体から強い光が放たれた。


『大丈夫。あなたは既に会っている………』

「……え?」


 薄れる意識の中で、ソエルの声がそう遠くで聴こえた。



*****


―――同時刻。ポーラ・アーネストはトールのヴァレリア城に登城していた。目的の部屋の前にたどり着いてドアをノックをする。



「ポーラですわ」

「どうぞ」


 中に入ると、少女が窓を見つめたまま立っていた。薄桜色のふんわりとしたストロベリーブロンドを肩まで伸ばし、琥珀色の瞳で遠くを見つめている。


「どうしましたの?ぼうっとして…」

「え?何でもないわ。それより教会のことはもういいの?」


 少女はハッとして窓から顔を反らしてポーラに振り返った。


「えぇ、イヴが本部にシルフ様をお連れしたわ。私も潔斎(けっさい)が終わったら儀式に参加するの」

「いよいよなのね」

「そうね。やっと…」


 しみじみと二人は目を伏せた。暫しの沈黙。窓の外から鳥のさえずりがよく聴こえてきたところで、ポーラが沈黙を破った。


「それで私の潔斎が終わり次第になるから、後日城に連絡がいくと思うの。もし体調が良かったら、あなたにも見に来て欲しくて」

「なるべく参加するように言われているから、きっと行くわ。ありがとうポーラ」

「嬉しい!では、お大事になさってね」


 ポーラは少女の手をぎゅっと握って微笑むと、また今度、と言って部屋を出た。ポーラを見送った少女は一息つくようにゆっくり息を吐いた。


「……この身体は、いつまで持つのかな」

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