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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第4章:月の満ち欠け
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月の守護者

「…ヒック……うぅ…ヒック…ぅ」


 誰もいない空間で姿は見えないものの、すすり泣くような声が微かに聴こえる。ゆっくりと隠し部屋の中に入るとリマは見つけた。

 男の子だ。月明かりのように美しい翼を[生やした]10歳前後の小さな男の子。しかし鳥のようなそれではなく、光に透けたような羽が背中にあった。四隅の一角で膝を折って座り込み、泣きじゃくっている。


「人間、じゃねえな」

「精霊?」


 動かない回りを他所に、全身に伝わる寂しさをどうにかしてあげたくなったリマはその子に近づいた。


「どうしたの?………!」


 膝をついて肩に触れようとしてリマは驚いた。少年の肩が、まるで霧のように消えかかり自分の手が通過したのだ。


『僕が…見えるの?』

「うん。見えるよ」

『誰も、…ヒック…入ってこれなかったのに…………!!』


 目を擦り、しゃっくりをあげながらゆっくりと少年はこちらを向いたが、次の瞬間、大きく目を見開いた。


『……ソ、エル?』


 ぽつりと呟いたと思ったら、自身の翼でもの凄い勢いで『ソエル!』とディアンの腰に抱きついた。


「え!?ちょっと…」

『ねぇ、お姉ちゃんも一緒なの?』


 困惑しているディアンの声は少年の耳には届いていないのだろう。次々と質問攻めにあう。


「待ちなさい」

『!』

「あなたは何者?精霊?」


 涙でいっぱいの瞳を震わせてゆるゆると首を横に振って答えた。



『僕は月の守護者。アルテミス』

「守護者、って…」

「なんだ。イグニスと同じか」

「なら話は早いわね」


 レイラはそう言うとストンとしゃがんで、ディアンの足元をぎゅっと掴んでいるアルテミスに視線を合わせた。


「どうして泣いていたの?」

『…約束したんだ。帰って来てくれるって』

「誰が?」


普段の彼女なら一遍に言いなさいよ、と言いそうだが、今回は彼のペースに合わせてゆっくりと問う。


『お姉ちゃんが…』

「それは、月の精霊セレーネ?」

『ん』

「そう。精霊の子について、何か知ってる?」

『お姉ちゃんの宝石を持った人に会ったことない。僕はここから出られないから…』

「イグニスもそうだけど、守護者さんは精霊の子がいるって知ってるんだね」


 二人の様子を見てリマが言った。


「精霊の側にいたっぽいから、死んだときも見てたんじゃない?」

「どうだろうな。俺は元々イグニスが居た場所に放り込まれて会ったからな」

「あの…オレ、いつまでこうなんだ?」


 いまだ腰に計り知れない存在が抱きついているディアンは、推測をしている外野の三人に視線を向けるが、あっさり流されて苦笑した。


「ここにセレーネが居たのね。でも、なんで入って来れたのかしら?」

『ここは人間がお姉ちゃんに供物を捧げる場。入ってこれるのは、光のコアを持つ者だけ』

「じゃあディアンはここの血族だったのかな?」

「さぁ?オレにはさっぱり…」


 小首を傾げたリマにディアンは首を横に振る。少しは読めるらしいルーン文字を指でなぞりながら、レムが困ったように笑った。


「光の精霊について調べに来たのに『月』になっちゃったね」

「『輝ける天馬』なんて何も書いてないし」

「アルテミス、なにか知ってる?」


 ふとリマがそう言うと、アルテミスはきょとんとした。


『天馬って”ソエル”のこと?』

「”ソエル”っていうのね。太陽の精霊は」

『僕とお姉ちゃんはソエルから魔力を貰ってるも同然なんだ。でも二人は会えなくて、月の魔力はどんどん弱くなってる…』


 アルテミスは両手を胸の前で組んで力を込めた。しかしその手ですら透けて見える。


『だからお姉ちゃんを助けて!』

「ソエルって光の精霊の子が見つからないと、どうしようもできないだろ」


 そうアレフが言うと、アルテミスは怪訝そうな顔でこちらを見た。『君たちが連れてきたんじゃない』とアルテミスはふわりと浮いて、ディアンと向き合った。


「…………え?」


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