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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第4章:月の満ち欠け
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隠し扉

 戻ってきたライアンは、特に深入りもせずに遺跡の入行証を渡してくれた。周りの様子とは正反対にすんなりと入れた。

 研究機関が主催する観光ツアーも日によって開催されているらしく、つい最近まで人々が使っていたようにも錯覚できるほど遺跡の中は実に保存状態が良かった。やや古めかしいデザインと夕暮れの空のような紫の塗料が全体に使われており、順路があるところ、何かの形跡の前に解説文があるところなどをすべて通過していく。


「さて、泣いている男の子を探さなきゃね」

「上ですか?」


 そうよ。と言って上へどこまでも続きそうな螺旋状の階段を見遣った。


「紫色のタイルってなんだか神秘的だね」


 アステール遺跡は高さのある塔なので黙々と階段を昇りながら、辺りを見渡して言ったリマにレムがそうだね。と同調した。

 長い時間階段を登り、最上階にやって来ると、見張りの騎士が何人かいた。


「冒険者のかたですか?この階は二つのフロアと小さな小部屋で行き止まりとなっています。お気をつけて」

「行き止まりか。まぁ当然だな」

「所々に碑石やら昔の占星術の跡はあったけど、男の子なんてそもそも出入りできるの?」

「入行証が無い者は、一切出入りしてません。ここは観光客にも開放していないエリアです」


 訝しげな顔をしながら辺りを見渡したレイラにディアンがキッパリと言った。


「どう見ても小部屋が怪しいと思うな…」


 と、リマは相変わらず紫色の塗装が続く小部屋をゆっくりと除き込んだ。すると小部屋の中心に祭壇までとはいかないが、円形の石盤のようなものがあった。


「レイラさんこれって……」

「祭壇と言える何かね。汚れ具合からするとこの上に立ってもよさそうだわ」

「けっこう装飾模様があるね~月とか星の」

「碑文や文献の跡がないので、特別な部屋にはあまり感じませんが」


 壁や天井をまじまじと見ながら言ったレムに続いて、ディアンが壁に触れながら言った。どちらかというと、頻繁に使用されていた部屋だという印象をディアンは持った。そのまま入口と反対の側まで行くと、不揃いなタイルを見つけた。


「ここだけ雑だな。わざわざこんな大きなタイルを使わなくてもよかったのに…」


 とおもむろに手のひらより一回り大きなタイルにペタッと手を当てた。静電気に似たような刺激と心臓が一瞬大きく波打つのを異様に感じたと思ったら、目の前のタイルに異変が起きていた。


「何だ…今のは…?

「なぁに?ディアン。どうしたの?」

「それって碑文?」


 リマはディアンの手で遮られた、紫色によく映える金色の文字を見た。小さくてリマの位置では内容はわからない。え?と彼は自分の手を退かすと、浮かんでいた文字も消えた。


「消えたぞ?」

「ちょっと!よく見せなさい!」


 そう言ったアレフの頭で見えなかったのか、レイラがディアンの手を再びタイルに押し当てた。ふわりと明かりが灯るように、それは再び浮き上がった。


「文字、なの?」

「削って付けた落書きみてえだな」

「ルーン文字よ」


 首を捻ったリマとアレフを他所に、レイラはズバリと言い当てた。彼女はディアンの手をずらしながらそれを見て、ふーんと頷いたので内容を理解したようだった。


「でもさ~ディアン君が触れたら出てきたよね?キミってマナフィラー?」

「違います。適正なしです」

「もしかしたら昔ここは天文学だけでなく、月とかに信仰があったのかも。コレは儀式の詠唱っぽいし」


 顔をタイルから離して、眼鏡を押し上げながら言った。

 

「何か魔術の類いならレイラがやればいいだろ」

「うーんあたしに資格があるかわからないし内容からして少し危険そうなのよ。……ディアンが」

「え!オレ!?」

「だって、これに反応したのはあなただけでしょ?」


 急に自分に話が戻ってきてディアンは面喰らった。


「どうする?」

「危険とは、何をするんですか?」

「少し魔力を分けてほしい。輸血のようなものだと思う。マナフィラーではないから、生命維持に影響が及びそうだったらあたしが何とかする。これから言うことを目を閉じて復唱して。何が起きるかわからないから、あんたたちは構えてなさい」


 後ろの三人にそう言って、レイラは再びタイルに触れたディアンの手に、自分のそれを重ねた。


『我、汝の恩恵を授かる者なり 古の契約に従い、今、汝に捧げる 我が前に、その姿現しまたえ』


 しんっと静まり返り何も起きないと割れたその時、石が擦り合わさるような音が小部屋に響いた。


「扉が!」

「閉じ込められた!?」


 無かったはずの扉が上から降りてきて入り口を塞ぐ。部屋の外では見張りの騎士が「お、応援を呼んできます!!」と慌てて階段を降りて行った。完全に塞がってしまうと、今度はディアンが手を当てた部分が光だした。


「っ…!」

(なんだ?何かが、抜けるような…)


 ディアンは初めての感覚に目眩がした。すぐに光はおさまって、不揃いなタイルから上下が継ぎ目から音をたてて左右に割れ出した。


「隠し扉か!」

「ぐっ…」

「ディアン大丈夫!?」


 驚いたのも束の間、ディアンが膝をついた。リマが駆け寄ると、ディアンは肩で息をしていた。


「やっぱり、コアが捧げるものだったみたい」


 レイラは静かに言うと、彼の手を握った。彼女の体が、強力な魔術を使うときと同様な光に包まれたと思ったら、それは繋がれた手を通じてディアンに伝わったように見えた。


「少しコアを分けたから大丈夫よ。封印術がなかったらあたしも楽なんだけど」

「人間がコアを放出したからですか?」


 立ち上がったディアンを支えながらリマが訊くと、そうよ。と言った。大丈夫なことに安心したリマがほっとしていると、すぐ隣にいたアレフが気配を感じて、瞬間的に警戒した。


「誰かいるぞ」


 低い声でされた警告に、全員の視線が扉の向こうに集中した。

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