月の精霊の子
翌日の朝を過ぎてしばらくすると騎士団の副隊長が部下二人を連れて宿を訪ねてきた。昨日『疲れている』とレムが協調したためか、気を遣ってくれたようだ。
「では、今回は我々三名が護衛として同行します。進路はレギア洞窟を通ってランティスに向かいます」
「よろしく~」
緊張感のないレムに副隊長が挨拶をする。一方リマは後ろにいる騎士の中に、見覚えのある薄青色を見つけた。昨日見た格好よりも重装備だった少年に近づいてお礼を言う。
「ダグラスさん、でしたよね。昨日はありがとうございました」
「まさかバウエル公爵のお知り合いだったとは……」
「あれ?キミ、ダグラスさんなの?お父さん元気?」
リマとディアンのやりとりにレムが突然加わった。仮にも公爵という立場と若い騎士との接点は意外なものだった。
「はい、おかげさまで。今は騎士学校の教官をしてます。そろそろ道場一筋にしたいと言ってました」
「まぁ、レムもお知り合いでしたか?」
「うん、彼のお父さんとね。王都に移って来た時に剣術を教わってたんだぁ」
「道場ってロゼにあった?」
「はい。今はうちの祖父がやってます」
「あの道場すごいんだよ~さすが武門の名家だね」
「貴族なんですか?」
「いえ、違います」
「ダグラスさん家は貴族から縁談が来るくらい騎士の名家なんだ。でもっ断る、ことでも、有名で…」
後半、笑いを堪えながらレムが言った。
「武門……」
「駄目よアレフ。ダグラス君に闘い挑んじゃ。まったく戦闘狂なんだから」
「ディアンで構いません。全力で護衛を務めさせていただきます
期待に満ちた声で呟いたアレフの襟元をぐっと掴んでレイラが制す。ディアンは親しみやすい雰囲気もそこそこに、彼はすぐに仕事モードに切り替わった。
レギア洞窟の中では、道を造る工事や、灯りを灯す作業などが行われていた。インフラ工事に魔術や増幅器式工学が使われているのか、あらかた道となる内部は昼のように明るかった。暗いところこそ魔物が出るらしく、作業員たちからの要請で討伐を行いながら進んでいく。洗練された騎士に加え、アレフと微量なレイラの援護があれば、苦労することはなかった。
シルフィとレムは護衛の対象であるため、当然戦闘はもっての外。リマとアレフは精霊の子であることを伏せているため魔術は禁止だが、自称傭兵を名乗ったことでアレフは新しい武器を試せて満足そうだ。必然的にリマは戦闘不参加である。
「見つかった月の精霊の子はみんなが知ってる人なの?」
「知ってる…っていうか、アーネスト家は四家の一角で有名なのよ」
「前にも少し話したけど、四家は王家の親戚って感じで、トールの政治を行ってるんだ。アーネスト家は僕と同じ公爵家」
「会ったことある?」
「う~ん…向こうは知ってるんじゃない?ティルナ教会の本拠地があるところだから、四家は敬虔なティルナ信者だね」
足場はよくないものの短縮ルートとしては十分機能しており、これからランティスへの陸路としては成功するだろう。特に苦労することなく洞窟を抜けるとすでに騎士団の馬車が待機しており、一行はそのまま城に直行した。
城では急ピッチで謁見の準備が整えられ、決められた位置を教え込まれ入ってくる国王を待った。
「陛下、連絡が遅くなったことと公務を放棄してしまい申し訳ありませんでした」
「もっともだな。エリーゼも心配していたぞ」
「お父様っ!」
「殿下にまでご心配をおかけしてしまい……」
普段とはガラリと違う顔付きでにっこりとレムが微笑んで見せると、姫は顔を真っ赤にして俯いてしまった。離れたところで待機していたアレフが「猫かぶり」と呟き、リマに窘められていた。
「それで、公務を無断で休んでいたことを説明して欲しいのだが」
「それについては、私から説明させて頂きます」
国王の問いにレイラが凛とした声で答えた。
「お初にお目にかかります。私、ウェルス王国宮廷魔術師のレイラ・ローレンスと申します。こちらに我がウェルスの国王から信書が届いておりませんか?」
「届いている」
「その件についてのお話でもありますので、どうか…」
「承知した。お前たちは下がるがよい」
国王はそう言って謁見の間にいるほとんどの人を下げさせた。
「感謝いたします。私たちは精霊の子を探しています」
「信書には精霊の子が見つかっていると書いてあったが?」
「本当なのですか?お父様」
隣に座っている姫が驚愕する。国王の問いにレイラはリマとアレフが精霊の子だということと、レムの要請があったというこれまでの経緯を説明した。
「我々の掴んだ情報と先日行われた祭典の神託を頼りに、光の精霊を調べていました」
「それで騎士団から月の精霊の子が見つかったって聞きました」
「一週間ほど前に、ティルナ教会の神官が報告にやってきた。実は、アーネスト嬢から直々に謁見を申し込まれている」
「ちょうど四日後に予定されています」
と尖耳を持つ側近の男が告げた。おそらくランティスの魔術師であろう。の時レイラは、この若造が、と心の中で呟いていたのは誰も知らない。
地の文加筆修正予定




