武門の街
ブレイズランドはウェルス領だったが砂漠を越えて、潮の満ち引きによって現れる路を進めばランティス領土となる。
行き来する物が多いので道も整備されており、大きな行商などは護衛をつけて移動しているため魔物も大したことではない。
砂漠から一番近い大きな街とあってロゼは商業的にも賑わっている。砂漠地帯の特産物を輸送するルートにも含まれているのでマーケットも盛んだ。
レイラが宿の手配で離脱し、4人は今回の目的である精霊の情報収集のためにバラけた。
リマは当てもなくなるべく人通りが多いところを探し歩いていると、威勢のいい掛け声が響く通りに差し掛かる。その通り沿いにある建物の前が人で賑わっていたので、近くの女性に声をかけた。
「すみません。あの、ここはどういった場所なんですか?」
「あんたロゼは初めてかい?」
「はい。さっき着いたばかりで」
「じゃ、ゆっくり観光していきな。ロゼ名所の道場を」
入り口から奥を覗くと、掛け声と共に木刀がぶつかり合う音が響いてきた。子供から大人までの幅広い年代の人で賑わっていた。
確か騎士の輩出が多いとレイラが言っていたのはこのことだろう。少ないが女性の門下生もいるようだ。
「ここは出自を問わず騎士学校に通えない人を対象にしてるんだ。外部の入団試験を目指すから、実力派で知られてるんだよ」
「『ダグラス流剣術』……」
リマは入口の看板を読んで呟いた。
「ハッ!観光じゃない!あの、この辺りに何か古いものとか……」
「君、どうしたの?」
我に返ったリマが再び入口の女性に尋ねようとしたら、突然中から出てきた青年に声を掛けられた。
「もしかして誰かの出待ち?」
「今日はディアンじゃないか?」
声を掛けてきたのは揃いでおそらく軍服を身につけた同い年くらいの三人の少年だ。
「いえ……人は探してません」
「ならどっか行かない?観光でしょ?」
「お腹空いてる?」
このノリと勢いは、いわゆるナンパというものだが、当の本人は困惑するだけで状況に気づいていない。
「あの、私急いでて…」
「ここ人多いから、あっち行こ……痛ぇ!!」
そのまま手首を引かれそうになった時、少年の一人が呻いた。呻いた相手の肩の向こうにはまた別の鎧に身を包んだ少年が立っている。
「士官候補生になったからって、民間人をいいように扱って言い訳じゃないだろ」
「なんだよディアン」
「民を守るのが騎士の務めなら、それは軍人も同じだ。道場の恥になることは止めてくれ」
ディアンと呼ばれた少年に諭され、軍服三人は白けた様子でその場を離れた。
「ディアン・ダグラスと申します。先程は道場の者が大変失礼しました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
リマは改めて顔を見て礼を言った。
青の瞳が清潔感のある薄青色の髪にぴったりで、自分と同系色の眼に親近感が湧く。腰には長剣を提げていた。
「何か道場にご用でしたか?」
「ここへはさっき着いたばかりで、古い文献などを探していたらたまたまこの道を通りかかって。人が多かったから覗いてしまいました」
リマはやっと本来の目的を尋ねることが出来た。彼は目線を外して思い出すようにして口を開いた。
「……そういった類いは教会に行った方がいいかもしれませんね。街自体には遺跡とかもないし、まだ歴史も浅いと思うので」
「そうですか」
「すみません。大した情報もなく……」
突然尋ねたにも関わらず丁寧に頭を下げられ、つられたリマも困った顔になる。
「大丈夫ですよ!助けてもらった上に変なこと訊いてごめんなさい」
「この街でお困りのことがあれば、騎士団の駐在所があるのでそちらにいらしてください。では」
彼は丁寧なお辞儀をすると、颯爽とその場を去った。リマはその様子に感心してしばらくそちらを眺めてぼーっとしていたらよく知る声が聞こえた。
「去り行く騎士の背中をそっと見つめる……な~んて♪」
歌うような声の方をみると、楽しそうにこちらを見つめるレイラがいた。
「レイラさん!いつからそこに…」
「あんたがガキんちょに腕引っ張られてたあたりから」
「ほとんど最初じゃないですか!」
「あ、いたいた~」
居たなら助けて欲しかったと抗議していると、反対側からレムが手を振ってやってきた。そして後ろに何故かアレフの小脇に抱えられてるシルフィも。
「知らないやつに連れていかれても疑問を感じないのか」
「迷惑かけてごめんなさいアレフ」
彼は明らかに不機嫌な態度でシルフィを放した。
「こいつ回収したら、今度はレムがその辺の女を口説いてる。こいつら一人で歩かせたらきりがないぞ」
「あら、シルフィもナンパされたのね~それで回収係ね」
「"も"ってやっぱりリマちゃんも?」
レムが楽しそうに尋ねてけらけらと笑った。
「っフフ…そうよ。2人は以後気をつけなさい」
「僕はみんなと違ってちゃんと情報掴んできたのに」
「本当?ありがとうレム」
「リマちゃんは優しいねー」
感激しちゃう、と言いながらリマの頭をぽんぽんと叩く。
「レム、情報というのは?」
シルフィが彼の服をくいっと引っ張って話を戻した。
「そうそう。貴族街の人に聞いたんだけど、トールで四家に動きがあったみたいだよ。精霊の子に関係あるらしい」
「シケ?」
聞き慣れないその二文字を、アレフは顔をしかめながら繰り返した。
「トールを代表する四つの貴族のことですよ。それぞれ王家と婚姻関係にあるんです」
「ふーん。貴族サマ、ね。俺には縁がない」
苦い顔で後半をぼそっとこぼした。
「他には?」
「俺は冒険者ギルドに行ってきた。レギア洞窟が数日前に開通した。ランティスの騎士団が来てるらしい」
アレフが言い終えると、レムが「あ・・」と声を漏らした。
「一旦、ランティスに顔を出したいんだけど、いい?」




