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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第3章:緋色の焔
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緋色の守護者

 静かに震える少年の背中を傍観していたリマは、ぼろぼろと涙を流していた。

 自分が悲しいわけではない、これは誰かの"感情"だ。シルフィの話を聞いていたときと似ている。

 涙を冷静に拭ったリマは一方で、どちらかと言うと怒りに近い気持ちがあった。


 自分が生まれたことで、大勢の人が巻き込まれてしまうこと。

 一方の生が理不尽に他方の死を招き、他方の死が一方の生を生む。


 なぜ女神はこんな風に不完全な世界を創ったのか。



 やがて


「あんたたちは何だ」

「まずは、あなたに返すわ」


 レイラは、手のひらから黒を帯びる深い紅の宝石を取り出した。


「これが何なんだ」


「それは、『精霊の子』という証です。この世界の歴史にある精霊ティルナによれば、それを握って生まれた者は精霊として生まれ変わる、と謂われています」


 胸部にあるブローチ――オパールにそっと触れながらシルフィが説明した。


「生まれ変わる?」


「実際祀られてる僕たちも詳しく知らないんだ。

 ただその精霊の力を受け継いでいる、としかわかってない。君だって自覚ぐらいあったろ?」


“生まれ変わる”という言葉に顔をしかめたアレフに、レムは悠々と言った。


「イフリートの夢を視て、気がついたらイグニスが側にいた。だけど…俺はこれから何をすればいい」



 リマは気がついた。彼は生きる希望を無くしているわけでも、居場所を探しているわけではない。

 目的を探している。


「私、自分が何者か知らないまま17年生きてた。だから私は、なぜ自分がこれを握って生まれてきたのか知りたくてここにいる」


 リマは真っ直ぐにアレフを見て言った。気持ちが伝わるようにと祈りながら。


「自分が何者か、ね」


 彼は呟くと口角を上げた。


「確かに興味はあるな」

『アレフ…』


 イグニスが弱々しく名前を呼んだ。


「お前のせいじゃない」


 そう言ってイグニスの頭に手を置いた。



「やりたいことが見つかった。お前を一人にさせることになる」


『誰に向かって言ってるの!私はイフリート様の守護者だもん…ここを守るのが、私の役目!』



 真っ赤な眼に涙を溜めてアレフから顔を背けた。



「協力してくれるの?」

「あぁ、俺もこの宝石だけじゃ納得できないからな」


『っ、勝手に行っちゃえばいいんだよぉ!』



 ついにイグニスの涙腺が緩み、こらえていたものが溢れ、声を上げて泣き出した。アレフはわずかに微笑んだ。


「本当に感謝してる。俺を育ててくれてありがとう。だから……この場をお前に任せる」

『………うん』



 イグニスに目の高さを合わせて言うと、彼女は素直に頷き炎に包まれて消えた。

 アレフはその炎に触れるように手を伸ばすと、指先から温かく柔らかいぬくもりが伝わってきた。

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