緋色の守護者
静かに震える少年の背中を傍観していたリマは、ぼろぼろと涙を流していた。
自分が悲しいわけではない、これは誰かの"感情"だ。シルフィの話を聞いていたときと似ている。
涙を冷静に拭ったリマは一方で、どちらかと言うと怒りに近い気持ちがあった。
自分が生まれたことで、大勢の人が巻き込まれてしまうこと。
一方の生が理不尽に他方の死を招き、他方の死が一方の生を生む。
なぜ女神はこんな風に不完全な世界を創ったのか。
やがて
「あんたたちは何だ」
「まずは、あなたに返すわ」
レイラは、手のひらから黒を帯びる深い紅の宝石を取り出した。
「これが何なんだ」
「それは、『精霊の子』という証です。この世界の歴史にある精霊ティルナによれば、それを握って生まれた者は精霊として生まれ変わる、と謂われています」
胸部にあるブローチ――オパールにそっと触れながらシルフィが説明した。
「生まれ変わる?」
「実際祀られてる僕たちも詳しく知らないんだ。
ただその精霊の力を受け継いでいる、としかわかってない。君だって自覚ぐらいあったろ?」
“生まれ変わる”という言葉に顔をしかめたアレフに、レムは悠々と言った。
「イフリートの夢を視て、気がついたらイグニスが側にいた。だけど…俺はこれから何をすればいい」
リマは気がついた。彼は生きる希望を無くしているわけでも、居場所を探しているわけではない。
目的を探している。
「私、自分が何者か知らないまま17年生きてた。だから私は、なぜ自分がこれを握って生まれてきたのか知りたくてここにいる」
リマは真っ直ぐにアレフを見て言った。気持ちが伝わるようにと祈りながら。
「自分が何者か、ね」
彼は呟くと口角を上げた。
「確かに興味はあるな」
『アレフ…』
イグニスが弱々しく名前を呼んだ。
「お前のせいじゃない」
そう言ってイグニスの頭に手を置いた。
「やりたいことが見つかった。お前を一人にさせることになる」
『誰に向かって言ってるの!私はイフリート様の守護者だもん…ここを守るのが、私の役目!』
真っ赤な眼に涙を溜めてアレフから顔を背けた。
「協力してくれるの?」
「あぁ、俺もこの宝石だけじゃ納得できないからな」
『っ、勝手に行っちゃえばいいんだよぉ!』
ついにイグニスの涙腺が緩み、こらえていたものが溢れ、声を上げて泣き出した。アレフはわずかに微笑んだ。
「本当に感謝してる。俺を育ててくれてありがとう。だから……この場をお前に任せる」
『………うん』
イグニスに目の高さを合わせて言うと、彼女は素直に頷き炎に包まれて消えた。
アレフはその炎に触れるように手を伸ばすと、指先から温かく柔らかいぬくもりが伝わってきた。




