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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第3章:緋色の焔
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災禍の証

「こちらに引き渡して貰おうか!!!」


 ぼーっと彼らの様子を眺めていたら、下の階から大声が聴こえてリマは肩を揺らした。同時にイグニスがすごい勢いでドアの方を向く。


「私、様子見てくるから!ここに居て。誰もこないから安心してね」


 慌ててイグニスにそう言ってリマは部屋を出た。なるべく音を立てないように階段を降りると廊下から会話の内容が聞こえる。


「まだ気を失ってるわ。それにあたしとの約束を覚えている?」

「あぁ報酬のことか…」


 どうやら村長がアレフの身柄を拘束しにやってきたらしい。

 レイラはそれに動じることなく淡々と話を続けた。



「あの子、でどうかしら?」

「……なんだと?」

「この村では持て余しているのではなくて?あの子はまだ自分で魔力を制御しきれていない。今度は小火じゃ済まないわ」

「それは困るが…」


 被害や処遇について押し問答がしばらく続くが、語彙数に押されてレイラが優勢である。

 村長や他の村人はリマの方からでは背を向けているのでわからないが、緊張感漂うこの場に入り込むことは憚れた。

 リマが身を屈めてドアの影から入るタイミングに頭を悩ませていると、ふと頭の上に重さを感じて影が覆った。



「庇うつもりもないけど、あれは事故だった。未熟な"魔術師"よ。いまの状態でギルドを出入りしていたら、いずれ大ごとになる。この件はブレイズランドの環境問題と併せて陛下に報告します」

「………ああ。この状況を陛下のお耳に入れていただけるなら、目を瞑ろう」

「支援を急がせるわ。あの子が起きたら……」

「俺がなんだって?」


 まとまったような会話がドアから入ってきた件の人物によって中断された。


 いつのまにか目覚めたのか、自分のいない所で話を進められたことに腹を立て、とうとうアレフが割り込んだ。


 背中には服を引っ張ったようなポーズのまま、全く相手にされる様子のないリマが付いてくる。

 リマから表情の見える他2人の「あ、起きた」とそちらを見る。


 アレフの気配に振り返った村人たちは彼の姿を見た途端に顔色が変わった。

 正体不明の魔術師が捕まったというのに、なんとも釣り合わない反応である。


「お、お前は」

「その、緋の髪……」


 その場にいる全員が、恐怖の眼差しで彼を見ていた。



「や、厄災のっ…」

「……なんだ。俺を殺し損ねた人間たちか」

「!!」

「殺し損ねた?どういうこと」



 その言葉を聞いてシルフィは息を飲んだが、レムは眉をひそめて冷静に問いた。村人たちは驚きや恐怖のあまり声が出ない。



「……なぜ知っているんだという顔だな」

「あの時…お前はまだ…」

「赤ん坊だったから覚えてないとでも思ったか?」



 畳み掛けるように彼は続けた。

 村長は未だに動揺して口元がわなないている。


「私は見たんだ…私がっ…お前を…」

「炎の中に入れた」

「!!!」


 最後の台詞をアレフが奪った。その場にいる全員が瞬く間に動揺する。


「そんな…!!」

「あ、あの赤ん坊が…」

「村長!餓死したと言ってただろう?!」



 __この人たちは…何を言ってるの?



 リマはこれ以上聞きたくなかった。言っていることがあまりに人道を外れている。酷すぎる。



『それ以上口を開くな人間』


 アレフの隣で突如炎が上がり悲鳴が上がる。

 中から烈火のごとく怒りに満ちた先程の少女が現れた。


「還れイグニス。俺は構わない」

『愚かな人間たちに真実を教えてやる』



 アレフは生まれつき魔力が高く、生まれた瞬間から炎に愛されていただけだった。

 でもここの人間たちは加護である炎を悪としたあげく、イフリート様を祀るこの地で、その炎を纏うアレフを災いと呼んだ。

 そして、火の中に入れて殺そうとした!


 抵抗できない赤ん坊を人間としても、ヒトとしても扱わなかった。同族でさえ慈しめない愚かな人間が。


 だから私が守ってきた。私があの子を大切にするの……。



 ひどく憎しみが籠った目で周りの人間たちに殺気を放つ少女に、村長が震えた口を開いた。


「しかし!ああしなければもっと混乱を招いていたはずだ。緋色の髪は災いだ!私は……私は、正しいことを……!」

『所詮は貴様の偽善と自己満足に過ぎない。そのせいで…アレフに孤独を与えた』



 涙が溢れるのも構わず少女は悲しそうにそう言った。しかしすぐに目が据わり、無表情で村人たちの方を見遣ってうわ言のように続けた。



『アレフはずっと独りだった……だから私が守る』

「大体、この異常気象だって精霊が死んだせいなんじゃないのか?」

「そうよ!今だって深刻な水不足が……」


『……世界を滅びに向かわせているのは、貴様ら人間の方だ!!』


 怒りに震えながらそう叫び、何かを唱えかけた瞬間、アレフが背で少女から標的を遮った。



「もういい!!」


 アレフの低く鋭い声に、イグニスを含めた全員が身をすくめた。


「俺が出て行けばいいんだろ。だったらそうさせてもらう。行くぞ」


 アレフはイグニスを連れて出口に向かったが、ふと足を止めドアに向かい合ったまま言った。


「俺を捨て時にあの場にいたのなら、ひとつ聞きたいことがある」

「な、なんだ」


 体を強張らせながら応える。

 恨言かと思えば予想に反して意外なことを訊かれた。


「……母さんは生きてるのか」



 彼は苦し気に一息でそう言った。



「!!……シルヴィアは…………すまない」

「………わかった。迷惑かけたな」



 村長の小さな謝罪に彼はそう呟くと宿を出ていった。

 リマが追いかけようとすると、レムが腕を掴んでふるふると首を横に振る。


「そう遠くへは行けないはずだから、追いかけるなら後にしよう」




「まさか、母親まで殺そうとしたなんて言わないわよね?」



 ずっと黙っていたレイラが疑問を口にした。



  「そんなことはしていない!……死産ということになっている」

「『ということ』?まだ何かしてるの?」

「赤ん坊を火の中に入れて直ぐに突然息絶えた。出産後、母体は正常だったのだが…」



 言い方からして、本当に突然死のようだった。



「……依頼は果たしたし、環境問題も報告します。報酬はあの子。そして、今後はあなたたちがよく考えるべきよ」



 静かにレイラは言った。

 彼に対する態度がすぐに変わるとは思わなかった。

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