点火する
「貴方もなかなかよ?弟子とやり合った時以来だわ。名前を教えて?」
『アレフ!!!!』
もはやただ戦闘を楽しむレイラは、まるで幼子に尋ねるときのように聞いた。
しかしそれに応えた――叫んだに近かったが。のは目の前の少年ではない。
突然トーチから炎が勢いよく噴き上がり、中から炎を纏った長い髪を揺らした幼い少女が姿を現した。
「火の中からヒトが!?」
「魔物でしょうか?」
火が灯ったトーチによって周りがいくらか明るくなり、その姿がはっきりとしてくる。鮮やかな炎を彷彿とさせるオレンジ色の髪は両耳の高い位置に括られており、頭に生えた小さな2本の角が、彼女が人間でないことを明確にしている。
『怪我したの!?』
「ただのかすり傷だ」
驚く部外者を他所に、少女はふわりと少年のもとへ浮遊し、眉を下げて心配そうに彼の頬傷に指を這わせた。
『……誰が、やったの?』
地の底を這うような声に緊張が走った。
肌に伝わる温度が少女の怒りに比例するかのように上昇し、纏う炎がどんどん燃え上がる。
『よくもっ、アレフに…………!?』
ゆっくりと部外者を見据えたその視線は、突然ある人物に釘付けになる。
少女はわなわなと血のように真っ赤な目を見開き、驚きと恐怖の目でリマを見た。
『水の……魔力……ウンディーネ』
「お前が、ウンディーネ?」
それにつられるように、少年の視線も向けられた。突然、自分に関係する名が出てリマは困惑する。
「えっ!?」
「なんだが険悪なところ悪いんだけど」
と、レイラが2人の視線から隠すようにリマを背中で遮った。
「この娘を"ウンディーネ"と言ったわね?話を聞きたいのだけど、どうしたら聞いてもらえるかしら?」
『ハーフエルフ風情が、我らに口を聞くな!神聖なる炎の地にウンディーネを招くなんて無礼極まりない!!』
「レイラさん超嫌われてるね」
「あたしもこの手の存在は苦手だからいいのよ」
『黙れ!さっさと出て行け!』
レイラの不敵な笑みに少女は声を荒げ、そのまま襲いかかる勢いで蠢く炎にその場の温度が上がった。けらけらとレムに笑われてもなお、怯むそぶりすら見せないレイラ様子に苛立ちが募る。
「イグニス、魔力を収めろ」
『でもっ!!怪我が……』
「問題ない」
『……わかった』
怒りを露にする少女を、アレフと呼ばれた少年が制すと、少し幼い口調で抵抗する。しかし静かに諭されて彼女は再び炎に包まれ姿を消した。
「へぇ……お前たちが精霊の子、なんだな」
「話が早くて助かるわ。賢い子は好きよ」
「ハッ…言ってろ」
アレフは品定めをするような視線をこちらに向けると、レイラの言葉を鼻で嘲笑った。
「ここは、火の精霊__イフリートを祀っている地なのですか?」
「らしいな。でも信仰の跡はほとんどない」
状況がベイシアと似ているとリマは思った。
先ほどの村でも小規模だがティルナ教会と思われる場所を見かけたが、シルフィがこの地に初めて来たこと言っていたことから、ほとんど機能していないのだろう。
「それで?村で魔力を暴走させたあげく、ヒトが入れないような場所に入り込んで、ヒトではない存在を侍らせてる貴方は何者なのかしら?」
質問ではない。これは確認だ。
ピタリ空気が止まり緊張が走ったのを肌で感じ取ったリマは固唾を呑む。
一瞬眉を寄せ目を細めたアレフは、おもむろに服の首元に手を入れた。細いチェーンに繋がれてて出てきたのは、暗色の丸い石。
太陽のではないオレンジの光を受けて濡れたように反射したそれはおそらく。
「魔宝石……」
「やっぱりか」
「村の小火は確かに魔術の跡だった。それもかなり高純度なコア。属性に特化した魔術師はもちろんいるわ。でも素のコアを作用させて火属性を付加させるの」
魔術師もといエルフの血族にコアを生み出すマナフィラーは存在しない。
現場のコア残渣は、もともとあった火属性のコアがひとりでに発火したかのような印象だったのだ。精霊の子が持つ魔力はそれほどまでに純度が高いらしい。
「火の精霊の子」
「そう呼ばれるのは初めてだな」
「君は教会の立ち会いから逃れた赤子だったんだね」
それをいうとリマも似た状況だったが、おそらく教会はアレナス家を監視対象にしていた可能性がある。同じようなケースがあってもおかしくはないのだ。
やはり教会の関与が少なからずあることがわかってくる。




