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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第2章:諦めた変化
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幼馴染

 

 大使館に戻り、シルフィを診ていたレイラは唸っていた。しきりに彼女の胸元の金属を気にしている。


「どう?レイラさん」

「ねぇレム、手首のそれはどうしたの」

「あぁガントレット?これは教会がくれたんだ。魔宝石を身に着けろって」

「さっきも思ったけど傷だらけだね」


 レムが左袖を捲って見せたガントレットをまじまじ見つめたリマが言った。


「元々防具なんだよ。昔からよくこれで受け止めてたから」

「何を?」

「んー?……剣、とか?」

「えっ……?」


 鼻歌交じりに満面の笑みで聞き返され、リマは言い詰まる。この人は少し怖いのかもしれない。



「やっぱりウェルスに戻るわ。幾つか心当たりがあるの。いいかしら?」

「いいよ~僕も行きたいし。さて……」



 そう言って立ち上がるとレムはメイドを呼んで、シルフィを着替えさせるように言った。華美な神衣では目立ってしまうので、彼の気遣いだろう。


「僕も準備してくるから」


 レムはシルフィの手を引いてメイドとそのまま部屋を出た。



「……レイラさん」

「なに?」


 リマが言いにくそうに切り出した。


「私もあんな風になっちゃうんですか」

「抑制器を付けてるから大丈夫なはずよ」

「この首飾りのことですよね。サイモンが驚いてましたけど……」

「もともと数が少ないのよ。ドワーフが作るものだから」



 ドワーフは鍛冶師や細工師の少数種族である。外見は人間よりも小柄だが、寿命は長い。普通に暮らしていたらまず会える種族ではないとリマは思っていた。



「そんな貴重なもの……!」

「それじゃないとダメなの!子供がそんなこと気にするんじゃありません」


 すると子供のように主張した後でレイラにぴしゃりと言われた。かといって納得もできず、特に言葉を続けることも難しくてリマは唇を小さくすぼめた。



 * * *


 目立たない様に公人である彼らを街から連れ出し、リマたちは徒歩でウェルスに戻っていた。

 レム曰く教会を出てから付けられていたらしい。大使館を出る前に、バウエル家の馬車を先にランティスに向けて出発させていたのだ。



「あははは。徒歩なんて久々だよ」

「ランティスの公爵様にこんなことさせていいのかな……?」

「僕は平気だよ。シルフィだって散歩大好きだし」

 リマは躊躇いがちに横を歩くレムを見上げた。

 彼の目線の先には、いまだ意識が戻らないシルフィが?レイラに手を引かれて歩いていた。



「そういえば、どうして私が水の精霊の子だって知っていたの?」

「シルフィが内緒で教えてくれたんだ。やっぱり夢で視てたみたい」


 はにかむようににレムが言った。しかしその眼はどこか悲しげだった。


「精霊の子同士といっても、最近は中々会えてなくて。数日前、半年ぶりに会ったらこの状態だった……幼馴染なのに、気がついてあげられなかった」


 彼らは教会を通じて幼い頃から兄と妹のように過ごしてきたらしい。

 1番身近な、自分と同じ存在。


「シルフィはあの街で生まれてすぐ、両親と引き離されたんだ。僕と違ってずっと教会で過ごしてる」


 リマは胸がチクリと痛んだ。母であるリラが、同じ言葉を口にしていたから。


「レムは?」

「僕はもともと下級貴族の生まれでね。家と国が騒いで公爵になっちゃったから、跡取りが必要で……」


 くだらないよね、と彼は肩をすくめながら言った。


「あの子はいつも自分を犠牲にしてた。身体に支障が出るのを知ってて、魔術を使う。それでも笑って、応えようと…」



 __この人も ずっと悲しい瞳をしてる。



「守ってあげたかったけど、僕じゃ力不足だ。レイモンド陛下が協力してくださって感謝しているよ」

「………」


 自嘲気味に笑ったレムに、リマは掛ける言葉が見つからなかった。

 生まれてからずっと重責を担ってきたんだ。

 それがリマには果たせる気がしない。



「ごめんね。なんだか僕の自己嫌悪みたいになってるし」

「そんなことない!同世代なのにお仕事もしててすごいのに」

「自己嫌悪ついでにさ、僕たちってこんなだから、友達少ないんだよね。友達になってくれたら嬉しいな」


 “友達”という言葉に、リマは一瞬きょとんとなったが、すぐに頬が緩んだ。改めて友人となるのは少し気恥ずかしい。

 レム自身もよくわからない感覚になった。



  (本当に、いるんだな。精霊の子は)

 

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