神託の儀式
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「ただ今より、ティルナ教会 豊穣の儀を執り行う」
祭司の一声で、祭典が始まった。
すると先日会った時よりも華美で、教会の紋章が入った神衣に身を包んだシルフィが現れる。
「では、神託を」
彼女は屋外にある広場に向けられた祭壇に立ち、目を閉じて祈りを捧げる。両手を組んで胸元へ寄せるとさながら聖母のような出で立ちだ。
「大丈夫かな……?」
割と人が少ない所でその様子を見ていたリマが、不安げに呟いた途端、祭壇が輝き始める。同じように群衆が湧き始めた、
「始まった!!」
「シルフ様がお出でになる!」
「あのお方はいつ見ても神々しい」
「まさに慈愛に満ち溢れた天使のようなお方だ!」
「我、汝との盟約を交わす者なり。汝の御名の元、我が前にその姿現したまえ」
すっと目を開くと、出会った時と同じく虚ろな眼になる。目の奥の光を吸い取るように、胸元にある魔宝石がより一層輝いた。
『対の光、影となり一方は衰える。輝ける天馬の導きは』
ぽつぽつと呟く様はまるで意識がなくて、人形のようだった。
「あれは、魔術なんですか?」
「どうかしら…少なくともあたしにはできない。エルフにも占いを生業にしてるものもいるけれど」
ティルナ教典の一節には無い言葉が紡がれる。
やはり予言なのだろうか。
まるで、別の誰かが身体を借りて話しているように。
『我ら精霊の加護によって護られる』
徐々に光を失い、言葉が途切れた。そこにはただ、生気のない眼のシルフィが立っていた。辺りは一層静かになる。
茫然と立つ彼女にレムが寄ってきて、肩に手を置いて退場を促した。どうやら無いのは意識だけのようで、動くことはできている。
「レム様、祈りを」
「……わかった」
レムは軽く手をあげて、芝生に囲まれた祭壇に上がる。一部黄色い悲鳴が上がった気がしたが、すぐに聴こえなくなり空耳と思うことにする。
シルフィのそれとは違い、両手を組むのではなく、魔宝石がある左手を前に出して意識を集中させる。
やや間があって、ふわりと彼の周りに風が舞ったように見えた。すると、祭壇の周りから青々とした草花が生えてきた。それを見て、人々の感嘆の声が上がる。
正直リマはその様子を見ていたくなかった。
「そろそろね。あの子達を確認したら大使館へ行きましょう」
レイラと共に、教会の人気のない敷地で彼らを待つと大広間あたりが騒がしくなる。立派な柱で向こうからこちらは見えないため、2人は注意深く声の方を探った。
シルフィの手を引いて歩くレムが、大勢の聖職者たちにこう言った。
「しばらくシルフィは僕が面倒見ます」
「しかしそれは……!」
「祭典などはしばらくありませんし、当家に招いてもよろしいでしょうか?ねぇ、祭司様?」
レムは空中を見つめているシルフィの肩にわざとらしく手を置いて、引き寄せた。彼女はまつげひとつ動かさない。
「また倒れたら、困るのはそちらですよ」
「わ…わかりました」
この町の祭司が渋々そう言うと後ろがざわついた。困惑する空気が伝わるが、レムはお構い無しといった様子でシルフィの頭を撫でている。
「では祭司様。シルフィは責任を持って私がお預かりします。ノームと我が名にかけて」
レムは右手を胸に当て、片足を後ろに引くようにして頭を下げた。それはとても優雅で、かつ、これで話は終わりという強い意思をはっきり示していた。
「どうか、ティルナ様のご加護がありますように」
最後に残した彼の言葉は、恭しく響いた。




