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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第1章:眠れる力
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開かれた鏡窟

第1章 〜眠れる力〜


いつも夢で見ていた

誰かが私を呼んでいる

どこかで待っている


そんな……夢



 

 とある研究室から女性が出てきた。


 連日の仕事を終えて、久々に自室へ戻る。多分、外はもう朝だ。光を遮る重たいカーテンを開けると、予想以上の眩しさに目を細める。窓から外を見上げて眼鏡を外し、髪をほどいた。朝日に光る美しいブロンドがまっすぐ腰まで垂れる。


 空気の淀んだ部屋に風を通すために窓を開けて、息を吸い込んでから、歴史の一節を暗唱してみる。




 かつて世界に恵みをもたらす泉があった

 しかし争いで泉は枯れ

 世界の理を守る精霊たちは死に絶えた

 それを嘆いた女神が泉に自らの命を分け与えた

 すると泉の精霊が誕生した


「私が朽ちれば泉は再び枯れる。精霊たちを復活させよ」


 女神の最期の言葉を受け取った精霊は

 天から宝石を落とした

 落ちた宝石はヒトとなり精霊として生まれ変わる

 人々は彼らの誕生を待ち望むだろう




 それは長い年月を越え

世界の悲鳴に聞こえてくるようで__。





 《港町ベイシア》


 ザァァという聞き慣れたノイズが鼓膜を揺らした。

 聞き慣れたその音を聞きながら、ぼんやりとした意識の中で目を開けた。薄暗いどこか何もない空間の中でなんとなく人影が見える。


『……めて』

 ――え?


 波の音でよく聞き取れないが、懸命に何かを伝えようとしている。少女は何とか聞き取ろうとした。


『……我が名は……』


 


 ――……!!


 そこで意識が覚醒した。


「またこの夢?一体なんだろう……」


 ベッドの上で思考を巡らすが、寝起きで頭が働かない。もう何度目かわからないこの夢は、最近になって頻度が増した気がする。

 自分で考えても原因は思いつかず、結局夢の中の言葉も聞こえずいつも消化不良で終わるのだ。

 それ以上は諦めてカーテンを開けにベッドから出ることを決めた。シルクのような銀髪が窓からの朝日を受けてきらめく。



 この銀髪の少女――リマ・アレナス


 この世界に数多いる人間という種族であり、今年で17歳になる。ここ港町ベイシアに生まれたリマは、この町に唯一あるティルナ教の教会に住んでいる。



 ティルナ教とは、かつてこの世界を滅亡から救った女神の命と引き換えに誕生した精霊――ティルナに残された女神の最期の言葉を信仰している、この世界を代表する宗教だ。


 この国では国教にはなっていないが、教会は世界中に存在している。

リマが住んでいるといっても、正確には父方の祖父が教会の司祭で、説教師である母親と共に教会で17年過ごしてきた。


 父親はリマが生まれる前に他界している。


 朝は特に光を受けて輝きを増す銀髪を梳かして着替えた。今日は朝から出かけるので動きやすいようにキュロットスカートを選んで、上には軽いレザーのベストをコルセットのように前で絞る。脹脛(ふくらはぎ)まであるブーツを履いて部屋を出た。


 日課になった朝早くに教会の祭壇で大きなスタンドから朝日を浴びて、チャージ完了だ。


「おはようリマ」


 目一杯伸びをして腕を降ろすと、後ろから神衣に身を包んだ老人が声をかけた。


「おはよう司祭様!」

「はは…おじいちゃんでいいよ」


 苦笑されるが毎度のことで、幼いころから教会の奉仕を手伝ってきたリマからしてみたら、この呼び方の方がしっくりする。よそよそしい感じがするが、それが自然だった。



「今日は早起きだね」

「今日は鏡窟(きょうくつ)が開く日なんです。だから船に乗せてもらえるの」


 17年振りなんでしょう?とリマは嬉しそうな顔をした。


 鏡窟というのはベイシアの海岸の近くにある数年に一度開くベイシア鏡窟のことだ。潮の満干によってその入口が現れ、地元の者でも見られるのは一生に数度と言われる。

 前回は彼女の生まれた年に開いたらしい。



「朝食はどうするんですか?」

「うーん……帰ってからにするね」



 乗せてもらう船の持ち主とは早朝と約束しているので、仕方がないと思ってそう言った。


「気をつけて行くんですよ」

「はい。行ってきます!」


 教会の大きな扉を開けて外にを出ると、法衣を着た女性が掃除をしていた。



「おはよう母さま!」

「あら、おはよう。今日はずいぶん早いのね」


 リマの母親――リラ・アレナスは彼女と同じ海色の瞳でにっこりと微笑んだ。


「ベイシア鏡窟だよ。もう開いてるんだよね?」

「え、ええ……そうね」

「朝一で船に乗せてもらえるの」

「開いたばかりだから、魔物もいるんじゃないの?」

「大丈夫だよ。今日は朝から引き潮だし」



 心配しないで、とリマは笑顔で答えた。母は何か言いたげだったが、箒を握り直して

「気をつけていってらっしゃい」

 と見送った。



連続で投稿していきたいです

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