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5話

「どうだった?」

「こちらを気にする女子がチラホラ」

「で?」

「連絡先は交換できた」


 席に着いて直ぐ阿部が聞いて来るので、苦笑いを浮かべてそのまま答える。もっとも、阿部が聞きたかった質問には答えていなかったようだ。


「いやだから、告白はしたのかって聞いてんの」

「まだしないよ。噂の方は牽制しておいたけど、いきなり過ぎるのも良くないだろ。引かれちゃったら、元も子もないんだから」

「そりゃそうだけど。ま、いっか。で、何の話をしてきたんだ」

「共通の話題があってね。古い小説なんだけど、その話で盛り上がってきた」

「さよけ。じゃこっちもそれに合わせておくよ。ちなみにタイトルは?」

「教えない。二人だけの秘密ってやつだ」

「爆発しちまえよ、リア充」


 ここでだって聞き耳を立てているのがいるだろうし、余計な詮索は勘弁してほしい。

 さすがに古すぎて、小説を手に入れる事は出来ないとは思うが、ネットで読めないとも言い切れないので、口にしない方が良いだろう。

 しばらく彼女とは、文字のやり取りで我慢するかな。

 それにしたって、リア充はないだろうと思う。別に付き合いだしたわけでも無いのだから、その言葉は先に取っておいてほしい。

 僕の中で彼女の存在は大きくなっているのは事実で、彼女にとっての自分はどういった存在なんだろうと考えずにはいられない。


 結局、学校では挨拶を交わす程度の付き合いが続いていて、噂自体も聞かれなくはなっていた。

 それとなく阿部に調べてもらったら、彼女の立場は以前と変わらずの様だった。少なくとも、立場が悪くなっていない様なのでホッとした。


 僕は部活があるから、彼女との交流は夕食前後に限られてしまう。

 まあ交流と言っても、危ないことは無かったかとか、こんな所に気を付けなって感じのメッセージを送って、僕が安心する独りよがり感が否めないものだ。なにしろ、彼女の返事は『だいじょうぶ』しか返ってこないのだから、本当につれない。


「最近スマホばかり弄っているけど、彼女でも出来たの?」

「彼女じゃないけど、気になる子は出来たかな。その子、家庭の事情で独り暮らしをしているから心配でさ」

「それじゃ、機会があったら連れていらっしゃい。泊まって行ってもらっても良いからね」

「さすがにそれは無理じゃないか? 同級生の女の子を泊めるなんて」

「――そうね。つい昔の癖で、そう言う事に無頓着になっちゃうわね」


 荒れる事も無かったからか、交友関係には口を出さなかった母が、珍しく聞いてきたので、素直に答えたらとんでもない事を言いだす。

 間違っても同性を気になる子なんて言うはず無いのにと訂正した、女の子なのを解っていて泊めるつもりだったようだ。彼女だったとしても躊躇するだろうに、どうしてそんな簡単に言うのだろうか。


「昔の癖? 昔なんかあったの?」

「ん? まあちょっとね。身寄りのない子を預かる施設に居た事があるから」

「そっか。母さんの方のじーちゃんばーちゃんに会った事ないから、亡くなっているんだろうなってのは感じていたけど、そんなに早くにだったんだ」

「お母さんがまだ子供の頃にね。だから、その子の気持ちも解るような気がするのよ。寂しいと思うから、ぜひ連れていらっしゃい」


 初めて聞いた話だったが、聞けずにいた事に答えを貰えてすんなりと受け止められた。小池さんさえ良ければ、夕飯くらいなら呼んでも良いだろう。送って行ってあげれば遅くなっても構わないはずだ。


「話してみるよ。そう言えば、母さんは僕の名前を決める時に反対しなかったの?」

「良い名前じゃない晴翔って」

「いや、小説から取ったって聞いたからさ。そんな安易なって思わなかったのかなって」

「ハルトって言うのは幼馴染の名前でもあるの。私達によく尽くしてくれてね。感謝しきれないくらいだったから、反対するなんて考えなかった。あんな立派な人になってほしいって思ったものよ」


 それを聞くと、なんだか彼女との距離感が遠のいた感じがする。聞かなきゃよかったと思う反面、彼女が好きでは無かったと言った主人公の名前ではない事に、変な安堵感もあった。


 あの会話からしばらくして、テスト期間に入って今日から部活が無い日が続く。であれば、小池さんと会う時間を多く持ちたくなるのは止めようがない。

 夕飯に誘うならば直接話した方が良いだろうと、久し振りに屋上に上がれば、彼女はいつもの場所でお弁当を食べていた。


「こんにちは。チョット顔色悪くないか?」

「そんな事は無い。だいじょうぶ」

「体調と言うより精神的にまいってるんじゃないか? 話を聞くくらいならするよ」

「耳。少し悪くなってるよね」


 大丈夫としか返してこなかったのに、どこか疲れ切った感じの彼女は、あからさまに話題を変えてきた。もしかすると、噂は表面化していないだけだったのかもしれず、実害が彼女に及んでいるのかもしれない。


「これはもうしょうがないんだ。医者からも言われているし、諦めている。それより、今日は部活が無いから帰りにどっか寄らないか?」

「なんで私なんかに声をかけるの?」

「なんだろう、君の事が頭から離れないんだ。好きかって言われるとハッキリしないんだけど、好ましいと思うし友達でいたい」

「私たちは友達なの?」

「僕はそう思っているけど、君は違った?」


 本当ならば好きですと言いたいが、ここではいろいろな耳があるので、あえて友達と表現してみた。彼女にこれ以上の負担を追わせたくはない。


「私は坂崎君の中に、昔好きだった人を見ているだけかもしれないんだよ。だから、なんて言うか……」

「そっか……。そうだ、その彼の事を聞かせよ」

「う、うん。それじゃ、後で連絡するね」


 特にこちらを気にしている者もいないが、彼女も会う場所は聞かれたくはないようだった。もしかすると、家に来てって事なのかもしれない。

 そう思うと、嬉しくって少し恥ずかしくって、距離が近くなった感じに安心できた。

 教室に戻ると、にやけた阿部が話しかけてきた。


「ずいぶんと楽しそうだな。彼女との話は盛り上がったのか」

「そう言う訳じゃないけど、放課後に話をする時間を貰えた。彼女の好きだった人の話を聞くんだけどね」

「なんだ、諦めたのか」

「そうじゃないけど、比べられるなら相手を知っときたいし。相談に乗ってポイント稼ぎかな」

「そんなに彼女が良いのか? クラスの中だって、かわゆい子がいるだろう」

「まあな。でも、あの子が気になるんだよ」


 彼女にこだわるのは好意だと言いたいが、取掛りが好奇心だったから、素直になれない部分もある。もっと時間を作って素直な自分を知ってもらいたい。


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