おまけ
遥が風呂に入っている間、母が暇そうにしていたので話しかけてみる。
「母さんはさ、遥の事をどう思っているの? 本当にレイナとして見る部分は無いの?」
「そうね。幼い頃の楽しい事も、色々あった苦しい事も、記憶として共有できる存在だから、レイナとして見てしまうことは多いわよ。だから、幸せになってほしいのよ。できれば、ずっとこの家に居て」
「それは暗に、嫁にしろって言っている? 遥がそれを望んでくれているなら望むところだけど、最近は友達も出来てきているし、もっと良い出会いがあるかもしれない」
「ずいぶん弱気ね。同棲しているアドバンテージがあるでしょう」
「同居だろ? いや、一緒にいる時間が長いからさ、接し方が解んなくなっちゃうんだよね」
そう。もし愛想を尽かされたら、この先気まずい関係が続いてしまうし、居辛くするのは本意でも無い。母は考え過ぎだと笑っているけど、僕は軽い気持ちで接したいわけじゃないのだ。
風呂上りに部屋で呆けていると、戸をノックされたが戸が開かれることは無い。であれば、廊下に居るのは遥だろう。
「どうぞ。入っても大丈夫だよ」
「ごめんね、遅くに。お義母さんから少し話をされて、不安にさせてるんじゃないかって」
「不安なわけじゃない。自分に自信が無いだけなんだ」
「私を助けてくれた事も含めて、誇っても良いと思うんだけど」
彼女のそれは男としての他人から見た評価だろうが、僕の言うそれとは根本的に違う。そう、比較されないかって話しだ。
母は解っていたと思うのだけど、あえて誤解するように話したのかもしれない。自分の口で確認させるためだと思うが、先送りできるならその方が良い。
「いや付き合っているんだから、その。キスとかしたいなって思ったりもするんだけど、そこまでしたら歯止めが利かなくなりそうで怖いんだ。なにしろ一緒に住んでいるわけで、こうして時間を気にせず会える訳だから」
「そ、そうだね。あの、私もキスとかして欲しいなって思ってはいたの。でも、女の子の方から求めたら嫌われないかとか、初めてだからどうしたら喜んでもらえるのかなんて考えちゃって」
「初めてなの? あの、レイナの時も含めて?」
「あ、うん。レイナの魔法は神を降ろして奇跡を起こすものだから、穢れがあってはいけないと言われていて。好きな人がいた訳でもないしね」
遥としては未経験だとしても、レイナとしては経験済みだと思っていたのだが、そちらも未経験だと聞いて少しほっとした。
経験していたからと言って嫉妬は無いけど、物足らないとかがっかりされたら立ち直れそうにも無いのだから。
「そっか。いや、比べられたらとか考えていたなんて、とんだ臆病者だよね。でも、そっか。あの、それじゃキスしても良い?」
「ごめんなさい。今はダメ」
「ど、どうして?」
「お義母さんが廊下で様子を窺っているから」
「「……」」
せっかく合意が取れたのに、お預けになってしまった。
でもそうだな、母さんが風呂に入っている間だったら大丈夫だろうから、後でもい一度聞いてみよう。