1話 「天秤の王」
※【中編:裏で完結済み】
以前少し書いたものを供養も兼ねて小さくまとめたものです。
完結まで毎日0時投稿予定。
前略。
地球のみなさま、いかがお過ごしでしょうか。
四季折々の雅やかな風景が、今はとてもなつかしく感じられます。
さて、わたくしこと〈クルト・マーカス〉は、今日も健やかに、それでいてわずかばかりの日銭を稼ぎながらこの冬の大地に暮らしているところでありますが――
いやはや、地球からこの異世界へやってくるまでに、本当にいろいろなことがありました。
「クルト様、お召し物が乱れておいでです。さてはまた魔物たちとじゃれあっていましたね?」
「ごめんなさい……」
正直助けてくれ。
……失敬、少々心の声が混じってしまいました。
これからアルサン公国とかいう東の魔族国家のお偉方と会わなければならないらしく、着慣れない礼服に窮屈さを感じているところです。
「クルト様、目元がたるんでおいでです。もっと王族らしくなさってください」
「これでも必死にまじめな顔だよっ!! 垂れ目で悪かったなっ! あとおれ一応夜勤明けだから少し眠そうなのは勘弁してよね!?」
だから嫌だったんだ……。
紆余曲折の果てにどういうわけか王族なんてものに生まれ変わって、あげくの果てに昔の【勇者】に特徴が似ているという理由でもてはやされて。
というか写真すら残ってないのに似てるってどういうことだよ。
想像力豊かか。
「このまじめなのにたるんだ目元こそ、まさしく勇者の生まれ変わりの証……」
「お前ら絶対どうかしてるって」
基本的におれは表舞台には出ないことになっている。
無論、駄々をこねまくったからだ。
でも、今回は相手が魔族だし、どうしてもというからこうして会食に出席しようとしている。
「早く詰所に戻りたい……」
「衛士業ですか。クルト様も物好きですね。こんな美人でエロいメイドがたくさんいる王城を離れて、王子としてではなく一庶民として普通に暮らしたいだなんて」
「自分で美人とか言うな……」
「エロいは否定されないのですか?」
「いや、別にどっちも否定はしないけど」
事実、絶世の美貌と魅惑のスタイルの持ち主だし。
黒髪なのも独特な艶があってよい。
「……えへへ」
「そこは普通に照れんのかよ」
まあいい。
話を戻そう。
普段おれは、身分を隠して衛士業をしている。
簡単にいうと国を守る兵士のことだ。
守るといってもこの国は比較的平和なので、基本的に国門付近で門番みたいなことをして一日が終わる。
いろいろあって戦うことが得意なおれには、ちょうどいい仕事だった。
「おれはこういうの性に合ってないんだよ。俺が王族に生まれるとろくなことにならないって前世で証明されてるから」
「たまにそのお話をされますね。輪廻転生説には興味がありますが、信じがたいというのも正直なところです」
おれだってそうだ。
でも、その夢みたいな出来事の中で出会ったものまで否定したくはないから、今はもう夢だったと思わないようにしている。
「しかし、アルサン公国か。魔族の国っていうけど、どういう種族がいるの?」
「基本は人型種ですね。ちなみにアルサン公国がある場所は、かの『古代の魔王』の血脈といわれる魔人族発祥の地とも言われています」
「魔人族、ね」
ふと、脳裏にある女の顔がよぎった。
「まあ、どんな種族がいるにしても、うまく協力体制が取れるといいけど」
「不安に思うくらいならさっさと〈人魔旅団〉の長になって、根回しをしてしまえばいいのに」
ふいにメイドが背中からコウモリのような黒い翼を出す。
さらにぐっと近づいて、色っぽくおれの唇を指でなでた。
「ねえ――〈天秤の王〉?」
そう、このメイド、見た目こそ人間と変わらないが中身は魔族だ。
「そうやってお前らもおれをまつりあげるつもりか……」
「まつりあげるだなんて、そんな。――ただ、大きな力を持った〈魔族の王〉や〈人の王〉たちをまとめあげられるのは、今までに何度も両種の王たちを助けてきたあなたでなければ不可能なのですよ」
「買いかぶりすぎだ。おれはたいしたことをしてない」
「いいえ。少なくとも〈夢魔の国〉の王はとても感謝しているみたいですよ? 惚れているとも言っていました」
「夢魔の国の王ってそれお前のことだろう……」
目をうっとりさせて迫ってくる夢魔族のメイドにため息を返す。
……くそ、ダメだ。
とりあえずは目の前の難問に集中するとしよう。
あー……この面と向かうまでの待ち時間がやだなー。
「クルト様」
「なに?」
と、メイドが翼をしまい、またいつものクールな調子を戻して言った。
「先方もなにやら立て込んでいるようなので、暇つぶしにまた前世の話をしていただけませんか?」
今いる小部屋の向こう側で、『こんなフリフリなドレスを着て人前に出れるかあああっ!』という女の声が聞こえた。
アルサン公国側は元首であるアルサン大公に加え、おれと同い年くらいの公女を連れてくるという話だったが、どうやら向こうもなかなかにお転婆らしい。
少し親近感が湧いた。
「……わかった、いいよ。あんまり楽しい話じゃないけど」
「かまいません。当時のいい具合にすさんだクルト様の様子は、聞いていてとてもそそられるものがあるので」
理由がいびつだなおい……。
まあ、暇つぶしにはちょうどいいか。
「そうだなぁ……」
どこから話したもんか――。
【2話:1時間後】