タイムワープ
小さな部屋で一人の女性がベットに寝ている。時刻は午前3時、周りはもちろん電気もついていない。
ドアが開く音がした。一人の男が女性の方に近づいてきた。そして微笑みながら言った。
「俺のこと分かるか?」
「……………」
うなずきも見もしない。まるで植物状態のようだ。それでも男は女性に言う。
「ありがとう…」
男は何かを思い出すかのように目を閉じた。
2062年 俺は『人間が時間を行き帰り出来るか』を研究している。まあ簡単に言ったらタイムワープできるのかということだ。
今日はある実験をするために大学から少し離れた小さな研究室に来ている。
実験とは自分自身を未来に移動させてまたこの場所に戻ってくることだ。
大学を卒業して7年間独学でここまで来たが未だに研究を成功させたことがない。
やり方はシンプルで様々な材料を燃やしてその煙をパイプで吸うのだ。
材料は木や花、植物が多い。
過去に勘違いされて警察沙汰になった経験もある。たしかに疑われてもしょうがない。
実験の準備をしている時、たまに考えることがある。
なぜ、この研究を始めたかだ。
普通は興味があったり好きになったりしてそれを追求するのだが、俺は気がついたらこの研究をしていた。研究が好きって聞かれたら正直悩んでしまう。だからといって辞めたいとも思わない。
道具も揃い実験を始めようと思った時、事件は突然起きた。研究室の中が異様に熱くなった。
「どうしたんだ?」
イライラした俺は席から離れ研究室の入り口から廊下を覗き込むとそこは火の海になっていた。俺は慌てて研究室から出ようとしたがもう手遅れだった。
本当に恐怖だった。何もすることができず死を待つだけだった。手元にあったのは実験の道具。
俺は考えた。
(一か八かやるしかない…)
火が迫ってくる中、俺は何故か自身に満ち溢れていた。とんでもない熱さで頭がおかしくなっていたのかも知れない。
「 大丈夫だ…俺ならできる…」
自分に言い聞かせて実験用の植物に火をつけた。あとはパイプで煙を吸うだけだった。窓も割れ、天井も落ちて来ている。
身動きも出来ない状況で俺は煙をパイプで思いっきり吸った。肺の中に入れた瞬間体全体に痛みが生じた。そのまま床に倒れ込んだ。
「もう駄目だ…」
意識が消えかけそうになった時、なんだか懐かしい匂いがした…。
もうこのまま目が覚めることはないだろう。死んだ後はやはり何もない「無」の世界に行くのだと思っていた。
だが意識が戻り目の前に見えたのは「無」ではなく天井だった。
自分に何が起こっているのか分からず辺りを見回すと見覚えのない部屋にいた。
ベットから降りてやっと状況を掴むことができた。
「俺、助かったんだ…」
ここは病院だと確信した。安心して顔がにやけてきた。
「お、目が覚めたか」
部屋から先生らしき人物が入ってきた。俺はすぐに礼を言った。
「先生!ありがとうございます!」
これ程嬉しいことはなかった。涙が出そうなくらい喜びを感じた。
「飲み過ぎには気をつけたまえよ」
「 はい? 」
「君病院の前で倒れていたんだよ?あれはびっくりしたよ〜」
(何を言っているんだ?俺は火事で死にそうになったんだぞ?)
奥に小さなカレンダーがあった。そこには2072年と書かれていた。
まさかと思い俺は唾を飲み込んだ。
「先生、10年前大学の研究室で火事とかありました?」
「ん?ああ、未だに真相が分からない事件のことか」
「その火事で犠牲になった人とかいました?」
「あーあの子か3年前に亡くなったよ。丁度君ぐらいの歳だったな」
「ど、どんな最後だったんですか?」
「私はその場を見たわけではないがもう全身火傷で植物状態だったんだ。だが最後は安心したような表情で亡くなったらしいよ」
「そ、そうなんですか…ありがとうございました…」
突然の出来事に訳が分からなくなった俺は病院を出て火事が起きた研究室に向かった。
研究室はなくなっていて土地になっていた。
何となく分かった。俺は死んだんだ。
だが死の直前にタイムワープが成功して俺は助かり、10年後のこの時代に飛ばされた。
「は、はは…」
複雑すぎてよく分からない。実験は成功して俺は生き延びて実は俺は死んでいる。
ベンチに座ってポケットの中にあった煙草を取り出し火をつけ空を見上げた。
「ん?ちょっと待てよ…」
「何で10年前の俺が生きて、この時代の俺は死んでるんだ?」
「この時代の俺も10年後にタイムワープしてるんじゃないか?」
あの火事で生きられるとは思わない。
普通に考えたら俺が生き返ったことになる。
病院で言われたことを思い出した。
『未だに真相が分からない…』
突然の出来事にその時は何も思わなかったがあの言葉に違和感を感じ始めた俺はもう一度病院に先生に会いに行った。
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