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愛される条件・愛される理由  作者: 鮎野しおやき
6/13

【5】

 夜。

 僕はスッと目を覚ました。

 異様なほどの静けさが僕を襲う。布団にくるまったまま耳を澄まし、辺りを見回すが特に変わった様子はない。たた、この静けさだけは我慢できない。僕はこの静けさが怖くなった。怖くて身がすくむのに、体はしっかり起きていた。

 まるで何かに引き寄せられるかのように布団から抜け出ると、ドアノブに手をかけた。

 ガチャっという音だけが澄んだ空気にしみわたる。

 御影の部屋もさすがに電気が消えている。

 この異様なまでの静けさを除けば、家の中はいつもと変わらなかった。

 いつものように下の透ける階段を下へと降りていく。

 この静けさ以外にも恐ろしいものがあった。

僕自身だ。

 僕を呼んでいる僕自身を感じずにはいられなかった。

 〈零一〉に会う。

 〈零一〉に会いたい僕の気持ちは確かでも、その先を理解できるほど僕の心はうまく出来ていない。

 まったく先の読めないまま、僕の足は地下へと向かっていた。

 湿っぽい空気に包まれた僕を、微かな電灯が照らし出す。冷たい螺旋階段までもが、この僕を〈零一〉の元へと招き入れているようだった。

 〈零一〉に会いたい思いと、ここまで来た体ははっきりと感じられるのに、それ以外のすべてが虚無に溶けていく。僕から思考を奪っていく。何も考えさせなくする。

 僕は自分の意思でありながらも、誰かの手の中で操られているかのように下へとくだって行った。

 やがて零一に連れられた時と同じところへ出た。でもあの時とは何もかもが違う。

 僕は瞬時に察した。

 なぜ僕をここへ呼んだの。

 来たくなかったよ、出来ることなら。

 たとえそれが、僕たちの望んだ真実でも。

 この香り。

 タバコ。

 僕は恐怖と好奇心を整理しきれぬままその足をさらに進ませる。

 そして微かな物音に気づく。

 〈物置〉からだ。

 僕はもう何も考えられなくなっていた。自分ではない何かの力によって僕は〈物置〉の前に立つ。

 目の前のドアが開いた。

 そこで僕を待っていたのは零一だった。

 真っ白な白衣に、首筋まで伸びた髪、だらしなく掻き分けられた前髪がその黒縁メガネにかかる。

 細く痩せた手、でも僕よりずっと大きなその存在。

 零一は僕が今夜ここへ来ることを知っていたかのように、いや、まるで自分が呼び寄せたかのように悠然と僕を出迎えた。

 零一は僕の前へ静かに歩みでる。

咥えていたタバコを右手に持ち直すと、僕の肩をきつく抱いた。

 「おかえり」

 僕はハッとした。

 僕を抱きしめる零一のぬくもりと、「お帰り」という一言で自分自身の感覚を取り戻す。  

 そして僕もギュっと零一にしがみついた。

 零一がようやく僕にその体温を伝える。

 暖かく大きな背中。その中に包まれる僕。

 僕たちの探していた男がここにいた。

 忘れてなんかいなかった、ここで僕たちの帰りを待っていてくれたんだ。

 僕は自分を抱きしめる人物が誰であるかも分からないまま、その喜びに浸っていた。

 零一の姿をしている。

 でも零一なんかじゃないことは分かっていた。

 ただもうそんなことはどうでも良かった。

 僕を抱きしめる手がそっと緩む。

 「中に入って」

 零一とは反対のおっとりした口調で僕を部屋へと誘い入れた。

その言葉の中には零一にはない暖かさが感じられる。

 僕は連れられるがままに部屋へと入る。

後ろでドアが閉まるのが分かった。

 零一の研究室よりもずっときれいだ。

 題名さえ理解出来ない本がぎっしりと棚に並べられ、部屋のゴミ箱にはタバコの吸殻が山のようになっていた。

 僕はベッドに腰をおろし、また零一の姿をしたその男も僕の隣に座った。

 僕はここでようやく今起こっている大変な事態に気がついた。

 そしてもう取り返しのつかない事実を知ってしまったんだと初めて自覚した。

 でも、それよりも僕を迎え入れてくれる男の存在の方が嬉しかった。

 零一は手に持っていたタバコを大きく吸うと、ふぅ、と大きく息を吐いた。そして灰皿におしつけ火を消す。 

 僕はグッと唾をのんだ。

 「…あなた、誰?」

 零一は少し驚きながらも少し微笑んだように見えた。

 「零一だよ」

 僕はハッとしてその男の顔を見た。姿は零一そのものだ、でも。

 「そんな嘘だ、…零一じゃない」

 この僕が零一と他の男を間違えるはずない。

 「正確にはそうかもね。…じゃ俺はだれ?」

 いじわるに微笑む零一が僕を試すように首をかしげる。

 もう一人の零一…。

 でもその底知れない不思議さが妙に僕を期待させる。

 「俺の名は蒼流。君にとっては初めましてかな」

 アオル…?

 焦点も合わず、ボーっと蒼流を見つめていることに僕自身も気づいていた。でもそれをとめることは出来ない。

零一とまったく同じ姿をした男が、零一とは別の人間として僕の目の前にいる。

零一にいったい何が起きているの?

僕の頭は再びものすごい勢いでパニックを起こす。

「アオル…?」

「なぁに?」

自分に言い聞かせるように呟いた彼の名前。隣に腰掛けた蒼流がからかうように返事をする。

明るく知的で、優しそうなその表情。

でも、蒼流のことを、僕たちを迎え入れてくれた男のことをもっと知りたい…。

「蒼流は、誰…?」

一瞬びっくりしたような表情を見せたけど、それはただの愛嬌だろう。

「知りたい?」

僕はコクリとうなずいた。

でもうなずいてから、じわじわとその恐怖が湧いてきた。

蒼流は、誰…?

零一はいったい何者?

でも、今の僕に蒼流の言葉をさえぎるだけの強さはなかった。

「俺は零一のもう一つの人格だよ」

やっぱり―――。

僕は絶句した。

でも驚きより、やっぱりという安心感の方が大きかった。

「もう一つの人格…?」

僕は小さくその言葉を繰り返す。

「そうだね」

と、蒼流は僕の隣で答えた。

「蒼流は〈零一〉?僕たちの探していた〈零一〉なの?」

蒼流としっかり目が合った。

同じ目だ、零一と…。

僕は蒼流の言葉を待った。

「俺を嘘つきだと言ったのは瀬沙じゃないか」

そう言って蒼流はまたからかうように僕を笑った。

「それは…」

言葉に詰まる僕。

「それじゃあやっぱり…」

僕を見つめる蒼流の目が、いっそうやさしさを増した。

僕の察した事実を包み込むかのように、慈悲を含んだその瞳が僕を映す。

「お帰り、待ってたよ」

蒼流はそう言ってまた僕の肩を抱いた。

あったかい…。

零一と同じ真っ白な白衣、首筋まで伸びた長い髪。

華奢だけど大きな背中、力強いその手のぬくもり。

いままでずっと欲しかった全てを、この男は持っている。

探していた居場所がここにある。

僕たちが探していた〈零一〉がここにいる。

「俺が二人をここに呼んだ〈零一〉だよ」

僕の帰る場所はここだったんだ。

零一なんかじゃない。

僕を許せないと、認めないと言った零一はやっぱり僕たちの探している男ではなかった。

そうだ、僕たちはやっぱり望まれるべくしてここにいるんだ。

「ずいぶん探したんだよ、〈零一〉のこと」

「ゴメンな…。どうしても唖透の死を、認めたくなかった」

僕はハッとした。

「俺自身、かなり動揺した。でも、本当にうれしいんだよ、帰ってきてくれて」

そう言うと蒼流は僕の肩に自分の顔を埋めた。

蒼流の暖かな吐息が僕に伝わる。

「辛かっただろう、今まで。もっと早く俺が出て行けばよかった」

耳もとで自分を責めるように呟く蒼流。

〈アイ サ レ テ ル〉

僕はこの男だけを頼りにここまで来たけれど、これからは蒼流のために生きる自分が見つけられそう。

〈アイ シ テ ル〉

ね、そうでしょ。

やっぱり零一は僕たちを助けてくれる。

僕たちに生きる希望をくれるんだ。

僕たち間違ってなかったんだよ。

ね、唖透―――。

ふと、蒼流の体が僕から離れた。

 「何かお話して、蒼流…」

 「そうだね…。その前に大事な話、しないとね」

 大事な話?

「なぁに?」

僕にもう怖いものはなかった。

何を聞かされても怖くない。だって僕には〈零一〉がいるんだから。

蒼流と一緒なら何でも乗り越えられると思った。

「零一の二重人格についてさ」

「う、うん…」

何にも怖くない、そう思った矢先ではあったけど。

零一の事を聞くのは少し怖い。

でも大丈夫だ、今は蒼流がいる。

「大丈夫?」

僕を心配してか蒼流が声をかけた。

そんなに頼りないかなぁ、僕…。

「大丈夫だよ」

僕の言葉に笑顔でうなずく蒼流。

僕のこと全部見透かしているみたい、でも。

でも、今はそれがうれしい。

「零一の人格障害は少し変わっていてね。零一が眠っている間だけ俺はこうして体を自由に使えるんだ。ただ、零一が活動している間は俺の意識も起きていて、零一の行動や言動を全て把握しているだけどね」

蒼流は何のためらいもなく、スラスラとその事実を語りだした。

零一と同じだ、何でも知的で流暢にしゃべる。でも、蒼流は零一にはないものを持っている。それは、無条件のやさしさだ。

「だから瀬沙がここへ来てから零一とした会話、俺にも全部聞こえてたよ」

 僕をからかうように蒼流は笑った。

僕の心をたくさんのことが一度に交差する。

零一の身体、そしてその病気というべき人格障害。

目の前にいる男、蒼流。そして〈零一〉。

かわいそうな零一、でも僕の心はもうすでに零一から離れている。

零一が僕を許せないのはもう分かった。

それを咎めることはもうしない。

零一には零一の思いがあるんだろう。

そうだ、僕には僕の大切なものがある。

唖透と僕を、暖かく包み込んでくれる居場所だ。

「昨日は、零一がかわいそうなことをしたね、謝るよ」

昨日…?

デートに連れて行ってくれたことか。

僕は零一と出かけられるだけでだいぶ舞い上がっていたんだ…。

あの時零一はとても無垢で、楽しんでいるように見えた。

でもそれは僕の錯覚だ。

楽しそうに見えたのは、僕自身がとてもうれしかったからだ。それだけだ。

「やっぱり怒ってる?」

蒼流が僕の顔を覗き込む。

「えっ…?」

「だいぶ怒ってるね」

蒼流はきょとんとした表情で僕をまじまじと見据えた。

「怒ってなんかないよ。零一は僕に初めて会った時から、僕を許せないって言ってたんだから…。」

蒼流はフゥーっと大きく息を吐いた。

蒼流は机の上にあったタバコに手を伸ばすと、「吸っていい?」と僕に尋ねた。

僕はコクリとうなずく。

零一がタバコを吸う姿、嫌いじゃない。

あっ…、吸っているのは蒼流か。

胸ポケットからライターを取り出すとジュっと火をつける。

はじめて見る零一の仕草なのに、その手馴れた手つきに違和感を感じない。

そうか、零一じゃなくて蒼流だもんな。

どうしても零一と蒼流が交差する。

…今は、零一の面影を消し去りたい。

「零一を許してやってくれ」

「えっ?」

僕は蒼流を見上げた。

蒼流はタバコをふかしながらボーっと遠くを見ていた。

「零一は何もお前たちを憎んでるわけじゃない。憎んでいるのは俺のこと、そして零一自身のことだけさ」

僕は言葉も出ずただ蒼流を見つめた。

零一が自分自身を憎むんでいる?

まさかね…。

零一は僕の前でハッキリと言ったんだ、君たちの存在を許せないし認めたわけでもない、って。

「混乱しているんだろう、瀬沙に再会して。彼なりに苦しんでいるようだ、だから許してやってくれ。…なっ」

蒼流はそう言って僕に向かって微笑んだ。

僕たちに再会して苦しんでいる?

どうして…?

自分自身に抱える苦しみのはけ口にしていただけなの?

僕たちを突き放す理由はそれだけなの?

僕の心は零一への思いで複雑だった。

それに対し、茶目っ気交りに僕を諭す蒼流。主人格から恨まれている男の顔とは到底思えない。

「蒼流は…、同じ身体を共有する零一に憎まれているのに平気なの?どうして零一をかばうの?」

すると蒼流は僕に向かってフゥーっとタバコの煙を吹きかけた。

ゲホゲホとむせる僕。

それを見て笑っている蒼流。

「何するんだよーっ」

僕は煙を両手でかき消そうともがいた。蒼流はまたケラケラと笑った。

「俺は零一よりもお前たち二人を取った、そういうことさ」

えっ……。

うん。

なんだかよく分からないけど、うれしい。

蒼流が笑っていたから、僕も笑った。

「もう部屋に戻ろうか」

ふと蒼流が言った。

時計に目をやるとすでに三時をまわっている。

「うん、そうだね。…明日、どんな顔して零一にあったらいいか、分からないよ」

僕は蒼流の言葉を待った。

蒼流はまた優しく僕に微笑んだ。

「心配しなくていいよ。零一も今夜俺と瀬沙が顔を合わせるのを承知してるから」

「そうなの?…でも、やっぱりどういう顔していいか分かんないな」

すると蒼流は僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「うわぁ、何するんだよー」

僕は蒼流の手を僕の頭上から払いのける。

掴んだ蒼流の腕首はとっても細かった。女の子みたいだけど、頼もしい。

「何でいじわるするの?」

蒼流は声をあげて笑った。

「そういう顔して会えばいい」

すると今度はまた僕に向かってタバコの煙をフゥーっと吹きかけてきた。

ゲホゲホとむせる僕。

蒼流はそれをみてまたケタケタと笑った。

「もぅー!」

僕は煙に飲まれながら蒼流をバシバシと叩いた。

「いてて、ゴメンゴメン」

蒼流はムキになる僕をみて楽しんでいるだけだ。

だから僕はこれ以上相手にするのをやめた。

全然怒ってなんかない。

蒼流の屈託ない笑顔が見れて、うれしい。

零一と同じように知的で繊細な蒼流。僕みたいな世間知らずの子供を相手するような人間じゃない。でも、僕を和やかな気持ちにさせてくれる、そういう無垢なやさしさにあふれている。

零一とはぜんぜん違う。

僕はぐちゃぐちゃになった髪を手櫛で整えた。

 「俺たちはよく筆談をするんだ、日記帳みたいにさ。俺は零一の言動を把握できるけど、その真意や気持ちまでは読むことは出来ない。零一は俺の言動一切を知ることが出来ない。だから互いの予定や意思の疎通を図るためノートに書き記すんだ。メールも楽チンだけど、事実の報告だけじゃないからね」

「うん。…あっ、でもあんまり僕のこと書かないでね」

お願いの意味もこめて蒼流を見た。

すると蒼流は、

「まぁどうかなぁ。俺と零一の鍵付き交換日記の内容になるから、悪いが瀬沙のお願いは聞けないかもしれないな」

と、言った。

 それならそれで良かった。

 「うん、分かった」

 と、僕は返事をした。

 でも結局、明日どういう顔で零一に会えばいいか、分からずじまいだ。

 「ほら、明日も御影に叩き起こされるぞ」

蒼流はベッドから立ち上がり、パソコンの前に腰掛けた。

パソコンわきにあるマグカップ。蒼流はすっかり冷え切ったコーヒーを飲み干した。

「あの、これだけ教えて」

「なんだい?」

蒼流は部屋の隅にあるポットまでコーヒーを入れにいくところだった。

その手つきすべてが零一と同じ。

でも、今の僕にとってはまったくの別人。

「どうして、蒼流のことを僕に知らせたの?」

僕の視線が蒼流の背中をじっと捕らえる。

「探してる〈零一〉に会いたくなかった?」

蒼流はインスタントのコーヒーを用意しながら、意地悪にそうつぶやいた。

僕をからかっていると分かっていたから、何も答えなかった。

いつも笑顔で楽しそうだ、蒼流。

蒼流はコーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れた。

僕より甘党…。

「それはね」

マグカップにスプーンをさし、蒼流はまたパソコンの前に腰を下ろす。

僕はゴクッと息を飲んだ。

「それはね、瀬沙がすべてを知る日が近いからだよ」

えっ…。

僕は言葉を失った。

すべてを知る日が近い、だから僕は零一から地下の研究室を案内されたんだ。

そして蒼流に会った。また一歩、僕は秘密を知っていく。

「零一にも言われているでしょ、すべてを知る日が近い、って」

本当に何でも知ってるんだな、蒼流。

「うん、言われた」

「ならそう言うことさ」

蒼流は湯気の立つコーヒーにフーフーと息を吹きかけ口に運んだ。

熱そう…。

「あちっ…」

ほら、やっぱり。

蒼流は熱々のカップを手の届かない遠くへ置いた。

蒼流は、僕にとって全てを知ることがどれほど恐ろしい事が分かっているんだろうか。

愛嬌たっぷりの蒼流は、いつもこうしてお茶目でマヌケなんだろうか。

「瀬沙、…怖い?」

えっ…?

蒼流が僕の心を見透かすかのように問う。

怖い?

それとも……。

「いや、蒼流がいてくれるなら、いまさら何を知らされても怖いことはないよ」

すると蒼流は少しびっくりしたかのように目を丸くした。

上目使いで僕を見つめた後、口元からマグカップをゆっくりはずす。

そしてふち無しのメガネの奥からそっと僕をのぞいた。

いままで蒼流を取り巻いていた陽気な空気が消えた気がした。

時間がゆっくり流れ、空気が重みを増す。

えっ。

いったい、何?

蒼流の口元がゆっくりと動く。

「いい返事だよ、瀬沙」

僕の表情が一気に明るくなった。

水を得た魚のように、僕の目に輝きが戻るのが自分でも分かった。

「うん!」

不思議と、いつもの悪寒はなかった。

僕の反応に蒼流の表情もよりいっそう華やぐ。

僕は部屋に戻る準備をしようと腰をあげた。

「ねぇ、蒼流。蒼流なら、僕たちを救ってくれると、信じてもいい?」

蒼流はトントンとカップを叩き、その熱さを確かめる。そしてまたコーヒーをフーフーとやった。

マグカップ越しに蒼流の穏やかな表情が僕をのぞく。

「うん、もちろん」

蒼流は自身満々にそう答える。

僕は、心に開いていた穴がふさがると、信じて疑わなかった。


 *  *  *


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