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愛される条件・愛される理由  作者: 鮎野しおやき
13/13

【12】end

僕の成長は結局十代で止まった。

 でもいろいろ都合が悪から、無理を承知で二十代と偽ってる。

 会う人に「中学生みたいね」と言われることがある。

 そういうとき、妙に懐かしく感じるのはなぜだろう。

 僕にもそういう幼い時期があったことを、僕自身が哀れんでいるのか。

 でも、きっとそれだけじゃない。

 そう僕をからかって、僕を愛してくれた人がいたんだろう。


住まいは今までに何度も変わった。

 僕たちはある一定の成熟を迎えると、体の成長、老いが止まる失敗作だ。

 定住は十年が目安。

 「若いのによくご存知ね」とか、「いつまでも若くていいわね」とか、周りの人間が言う。

 僕たちは何も言わず、笑顔で答える。

 別に辛くはない。

 今まではイタリアと日本を往復することが多かった。

 でも、日本もイタリアも限界だろうから、次はアメリカへ行こうと思ってる。


あの日零一は僕に日記を書くよう言った。

 もう、一〇〇冊以上になるノート。

 もう十年以上毎日書き綴っている。

 でも読み返すことはない。

 これは僕の思い出ではなく、研究のための資料だから。

 零一はそう言って僕を諭した。


 不思議だ。

 「ねぇ、唖透―――」って鮮明な声が僕をよぎる。

 でも。

 でも、その後が続かない。

 何を語り掛けたいのか、僕からは何の言葉も生まれない。

 当然、「唖透」からの返事もない。

 唖透が誰かは分からない、ただ、僕の近くで生きていた男のようだ。

 御影に「唖透」のことを聞いた事がある。

 「僕は唖透という人を待っているみたいだ。でも唖透が誰か分からない」って。

 すると御影はいままで見せたことのない、寂しそうな顔をした。

 感情を持たない失敗作の御影。

 そして、記憶留めておけない失敗作の僕。

 「唖透」は僕にとって大事な少年だったようだ。


 零一は七年前に死んだ。

 零一と一緒に生きていた時間があったと、そしてその時間が僕にとってどれほど僕にとって意味のあったものか、分かっているつもりだ。

 でも、もうこの大切な記憶も失う。

 あの日のことはまだ覚えている。

零一は何の前触れもなく死んだ。

 目をつぶったまま返事をしなくなり、心臓が止まった。

 でも体は温かく、まるで眠っているようだった。

 絶望的に悲しかったし、生きる意味を失った。 

 人が死ぬのを見るのはこれが初めてなんかじゃない。

 でもこんな気持ちになるのは初めてだと感じた。

 でもすぐにそれは間違いだと気づいた。

 「初めて」じゃない。

 この気持ち、初めてなんかじゃない―――。

 御影はひどく塞いでいた。 

 御影に感情はないと言うけれど、そんなの嘘じゃないか、と疑いたくなるほど落ち込んでいた。

 そのときの僕は、御影がなぜそこまで悲しむのか、察していた。

 あのとき察しがついた御影の心情も、今ではうつろだ。

 時代は進み科学も著しく進歩した。でも理論だけが先行して、僕の心はあの時でとまったまま。

 人が愛される条件。

 そして僕が愛された理由。


 零一の遺体はその死因調査のため解剖された。

 解剖は御影がした。

 それに僕も立ち会った。

 あの時の僕には何の知識もなかったけど、それでも立ち会ったんだ。

 それ以来、僕は零一の残した資料を片端から読みあさり、御影の教授を受けながら勉強を続けている。

 零一と御影を作り上げた博士、そして全てを引き継いだ零一たちがどれだけの研究をしてきたがが、今ようやく分かり始めた段階だ。

 御影とともに少しずつデータを取ったりしながら、勉強を続けている。

 何の為かって?

 それは、

 クローン人間を作るためさ。

 僕の寂しさを癒す、僕の生きる意味を作り出すためだよ。

 

 

 なんだか、今日は気分がいいや。

 久しぶりに昔の日記でも読み返してみようか…。


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