【11】
あのとき零一は真実を言ってくれただろうか。
いや、あれは零一の真実だったと思いたい。
あれからの零一はどこか塞いでいるようにも見えた。もちろん僕たちの前ではそんなそぶり絶対にしないけど、ふとしたときに見せる零一の無機質な表情が僕の心に引っかかってしょうがない。
「瀬沙を見ていると昔の自分を思い出す。受け入れたはずの事実が、また真実となって襲ってくる」
そんな時は決まって蒼流の言葉が僕の脳裏をよぎる。ひとりごとのように呟いた蒼流の言葉が、僕の思考を押さえつけるんだ。
やっぱり僕のせい…?
ねぇ、唖透。
僕たちが依頼してた調査結果を聞いたよ。
蒼流が話してくれた。
零一じゃなくて蒼流が中心になって調べてくれてるみたい。
そういう事情で僕らが「作られた」なら、零一じゃなくて蒼流が調べていたのも納得できる。
消えていく記憶、もう一つの自分、そして唖透の死因。
消えていく記憶は、僕たちの成長が止まるのと同じ理由みたい。
どの段階で事故が起きたかは分からないけど、先天的にどこかが失敗してるらしい。肉体が衰えないのと同じで、原因は分からない。そして治ることもない。僕は死にもせず、忘れながら生き続けるんだろうか。
僕はやっぱり零一と同じような人格障害を持っている。
その傾向は零一と全く一緒で、僕が寝ている間に、もう一人の僕が動き出す。蒼流も零一も、もう一人の僕に会ったことがあるみたい。
「とても寂しそうで、怒りに満ち溢れている。でもその怒りの矛先を周囲には向けず、自分自身の中に飼っている。だからとても寂しそうだけど、とても思いやりのある優しい子」
蒼流はもう一人の僕の印象をそう話してくれた。思いやりがあって優しい子?僕には分からないけど…。
唖透の死因は、蒼流も零一も御影も、みんなが頭を抱える問題だよ。
肉体も衰えず、病気も出来ない僕たちがどうやって死んだのか。体外的な傷を負えば話は別だけど、事故でもない限り死なないんだ、理論上は。
でも唖透は死んだ。何の前触れもなく死んだ。そして心臓が止まり呼吸をしなくなった。硬直もせず遺体も傷まず…。
蒼流たちが重要視している問題がもう一つある。
なぜ僕が生きているか、だ。
死んだのは〈零一のクローン〉だ。浅海博士のクローンである僕はこうして生きてる。クローンのクローンを作ることに問題があったのか、それとも元体である零一に問題があるのか。零一に問題があるとすれば、その名通り死活問題だ。
零一が死ぬかもしれない。
ねぇ、唖透。
僕が最後のお別れについて行かなかった事、怒ってる?
僕はもう怒ってないよ。唖透に置いていかれたこと…。
唖透は僕を捨てたんじゃない、もちろん僕が唖透を捨てたわけでもない。
偶然か必然か、運命のいたずらか。僕たちは別々の道を進むことになっただけ。
唖透、君は僕を守り、生かしてくれる大切な人だ。
蒼流は僕を救ってくれる人、それは〈零一〉。僕に真実を伝える希望の光。
そして僕が助けたい人、それは零一。
探していた〈零一〉に会い、居場所を見つけ、無条件の優しさに触れた。
そして、それと引き換えに、寂しげに沈み、ため息をつく零一を見た。
〈零一〉に会えて満たされた僕の心は、いつしか零一の痛みを和らげたいと思うようになった。
その時、僕の居場所はここにある、と思ったんだ。
きっと僕の心はそこから変わっていった。
蒼流のために生きたい。零一を助けたい。
唖透が僕を守っているのか。それとも唖透が僕を縛っているのか。
そして気づいたんだ。
僕はもう、唖透の元へは戻れない、って…。
唖透はもう死んだ。
あの日を境に唖透は死んだんだ。
返事をしてくれない唖透を作り上げていたのは僕自身だった。
唖透が返事をしなかったんじゃない。僕が唖透に返事をさせなかったんだ。
僕は唖透の虚像を作り上げていた。魂の抜けきった虚像。
今日天に昇った唖透は、僕のそれと一緒だ。
だから立ち会わなかった。そこに唖透はいないから。
じゃあ唖透はどこにいるの…、って言ったら今度こそ怒られるかな?
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