8 ダンジョン作成
…とりあえず状況を整理しよう。
俺は今糸で作られている籠のようなものに絡まり、そしてその籠の4隅を巨大な蜘蛛が長い脚で持っている。
おおきなくもが あらわれた!
どうする?
➡たたかう
じゅもん
さくせん
にげる
戦う手段は持っているが見るからに強力そうなこいつに通用するかは不明だし、効果が無い可能性が高い。スネークアイも使ったところで一瞬動きが止まるだけで全く意味がない。
とすれば、逃げるしか選択肢はない。
にげられない!
うん、そうなるよな。もう糸が身体中に絡み付いてほとんど身動きが取れないし。
完全に諦めていたところで、一つの名案が頭に浮かんだ。
「よし、あえて死のう」
恐らく存在するのであろうデスペナルティが気にかかるが、そうすることで一番近くの町に死に戻りできるし他のプレイヤーにも会うことができる。第一ここから脱出できたところで逃げ切る自信が全くない。
そうして俺は粘つく蜘蛛の巣の中でもがくことを止め、目を閉じて殺されるその瞬間を待った。いずれまた鋭い痛みが体を襲うだろう。
「さっきはよくもやってくれたな!お返しだ喰らえ!」
そして体が火に包まれた。
…火?どゆこと?そして何故俺?
目を開けて見てみると蜘蛛の視線が明後日の方向に向いている。ということは今の火は蜘蛛ではない何か別のなにかが放ったわけだ。セリフから考えると、おそらくさっきまで蜘蛛と戦っていたか捕まっていたかしていて最終的にやられてしまったのだろう。
次の攻撃は蜘蛛の頭部に命中したが、あまり通用した感じはない。
「クソッ!もう一発!」
……こいつはアホなのか?効かないと分かってるんだったら逃げろよ。
そしてまたさっきと同じ呪文が命中した。
…………俺に。
「え!?」
そして俺を包んでいた蜘蛛の糸が焼き切れて、俺は地面に落下していった。
「逃がすか!待て『コーツ』!ぶっ殺してやる!」
何故俺の名前を知っている!?
と、脳裏にある一つの文が浮かんだ。
「『99Es252』を殺害しました」
……ああ、この人が『99Es252』なのか。
少し前には白衣を着て憤怒の表情を浮かべて呪文の詠唱をしている人間がいる。うん、なかなか怖い。けど俺に構って大丈夫なのか……。
「喰らえ!『ファイヤbぎゃあああああ!!」
呪文の詠唱で隙だらけだった『99Es252』を蜘蛛が吐き出した糸で雁字搦めにし宙に持ち上げた。そりゃそうだ、攻撃が当たってたんだし。
よし、ここは……
どうする?
➡たたかう
じゅもん
さくせん
にげる
逃げる!
「ありがとう『99Es252』!、貴方のことは2~3日は忘れない!」
「てめえ覚えとギャアアアアア!」
あ、もう死んだ。強いな~あの蜘蛛。
「って足速っ!あとキモッ!」
まだ俺のことを覚えていたらしく、俺の方にダッシュで向かってきた。自分の体の大きさの数倍もある蜘蛛が迫ってくるその姿はなかなかに悍ましく俺は持てる力の全てを振り絞って逃げ出した。しかし奥に進むにつれて地形が悪くなりだんだん彼我の距離が縮まってきた。
「あああ、『メニュー』!何かないか何かないか何かないか!」
焦った時のドラ〇もんみたいになりながら走っていくと、ある一つの使えそうなものが見つかった。
「使って助かるかの確証は持てないし、まだ使いたくなかったが…仕方ない」
完全に冷静さを欠いていた俺はある一つの能力を使った。本来なら死に戻っても良かったけど一度逃げ出して考えてみるとやはり蜘蛛に喰い殺されるなど真っ平ごめんだ。肉体的に問題は無いが精神的には大問題だった。
「ダンジョンクリエイト!」
そして俺の姿はマップから消えた。
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次の瞬間、俺は真っ白い通路らしきところにいた。縦が10メートル、横が4~5メートル、高さが5メートルぐらいあり、横側に一つだけ扉があるシンプルな構成だ。中に入ってみると、そこには近未来的な机と椅子が存在感を放っていた。しかしそれ以外は何も無く、言い方を変えれば殺風景な部屋だ。
とりあえず椅子に座ってみると宙に数枚の操作パネルが浮かび上がり、操作を促すように薄く光り始めた。どうやらここからダンジョンを作成していくらしい。
しかし……
「……操作方法がわからん」
チュートリアルをすっ飛ばされたため操作方法が全く分からない。
一応ヘルプ欄はあるのだが、何回タッチしても反応しない。おそらくウィルスの影響だろう。ゲームをクリアしづらくするために故意に行ったのかそれともバグなのかはよく分からないが、どちらにせよ迷惑なことに変わりはない。
そして悪戦苦闘すること実に3時間。製作する前に既に疲弊してしまったが、何とか操作方法は理解できた。
まず、ダンジョンの編集にはDPを消費する。たとえば階層を1増やすには100DP、部屋の数を増やすのに10DP、部屋を拡張するのには5×5mにつき5DP、モンスターのポップポイントを増やすのに50DPなどなど、DPが無ければ何もできない。ちなみに初期で500DPを支給されているが、DPを増やすにはおそらくダンジョン自体のレベルを上げる必要があるのだろう。
しかし、ダンジョンの外装や内装、モンスターの系統などDPを消費せずに編集できる項目もあった。内外装にはファンタジー系の洞窟や水辺、さらには近未来的な建物の内部など非常に多彩な種類があり、出現モンスターの系統も同じく非常に多彩な種類があった。出現モンスターはダンジョンのレベルが上がるにつれ強力なモンスターが出現するようになり、系統自体が進化することもあるようだ。出現モンスター一体一体には大まかステータスやスキル、ポップする速度までもが設定されており、ここだけは弄る余地は残っていないようだった。
そして創造者側の勝利条件だが、ダンジョンに入ってきた冒険者をモンスターが撃退若しくは自ら撃退するという至ってシンプルな条件だ。冒険者がダンジョンに入ることが出来る人数には制限があるらしいので、撃退することもそう難しくないだろう。
敗北条件はダンジョンの最奥部にあるダンジョンコアを破壊されることらしい。これによってダンジョンが消滅することはないがダンジョンレベルがある程度下がり、さらに冒険者側にはそれ相応のCとアイテムが入るらしい。こちらも至ってシンプルだ。
これらの基本ルールさえ覚えておけば大丈夫だろう。そこで俺はさっそく本格的にダンジョンの作成を開始した。「外装及び内装を設定してください。これらはダンジョン作成後いつでも変更することが出来ます」
「えーと、どれにしようか「管理者の権限によりランダムが選択されました」はぁ!?」
管理者って絶対ウィルスだろ。てか絶対人が操作してんだろこのウィルス。
「内装:地下型、研究所風、外装:研究所風、出現モンスター系統:アンデッドに設定されました」
これなんてバ○オハザード?
地下型とは要するに地下へ地下へと潜って行くタイプのダンジョンだろう。内装も外装もよくある研究所、って感じのものだ。だがアンデッド限定ってなんだ。ゾンビとかそういうのか。タ○ラ○トでも出せというのか。
「ダンジョンの構成を設定してください」
「権限『ランダムダンジョン作成』が使用可能です。使用しますか? YES/NO」
ダンジョン作成の次のステップに進もうとした俺に、新たなメッセージウィンドウが表示される。そういえばキャラクターメイキングの最後にこんなのあったな。
詳細を見てみると
権限『ランダムダンジョン作成』
・ダンジョンの一部の階層若しくは全部を「ランダムダンジョン」に設定することが出来る(1階層につき400DP消費)
・ランダムダンジョンに設定された階層は、部屋の配置やモンスターのポップポイント、次の階層へのワープポイントの場所がダンジョンに入るたびに変化する。
・ランダムダンジョンに設定された階層に留まっていると一定時間ごとに警告があり、3回目の警告の時にその階層から出ていないと強制的に死亡する。
・ランダムダンジョンに設定された階層で他のパーティと遭遇することはない。
……これは、中々
面白そうじゃないか。
俺は無意識ににやけ顔になっていた。これさえあれば最強のダンジョンを創れるかもしれない。根拠は無いが脳のどこかでそう確信していた。
この権限は要するにダンジョンをト○ネコや風来のシ○ンに出てくる不思議のダンジョン化させる権限だ。部屋の配置が毎回変わるので地図などを作られて短期攻略される心配はしなくて良いだろう。某ゲームとは違い1階層の攻略にかかる手間は大きいしな。
しかも4つ目の項目「ランダムダンジョンに設定された階層で他のパーティと遭遇することはない。」が意味することも相当大きい。
例えばパーティAがランダムダンジョンに設定されたある階層1に入ったとして、その階層を階層1Aとする。次にパーティBがある階層1に入った時にパーティBが入るのは階層1Aではなく、新たなパターンの階層1Bだ。
これのおかげで数の暴力によって攻略されることを防ぐことが出来る。寧ろこっち側が数の暴力によって相手を押しつぶすことだって出来るかもしれない。
そうと決まれば話は早い。俺は早速階層を1つだけ創り、その階層をランダムダンジョン化させた。これで所持しているDPは0だがすぐに貯まるだろう。
「構成の設定が完了しました」
「ダンジョン名を設定してください」
「『イレギュラー・ラボ』で」
何故か命名に躊躇いは無かった。「不揃いな」ステータスや外見を持つ俺に「ランダムダンジョン」という「不規則」で「異常な」ダンジョン。安直だがこれがいいだろう。
「「イレギュラー・ラボ」はダンジョンとして認可されました」
「『テレポート』が使用できるようになりました。使用するには『メニュー』から『テレポート』を選択してください。】」
「『イレギュラー・ラボ入り口』『コアルーム』がテレポート先へ追加されました」
「ダンジョン作成を終了します。どこへテレポートしますか?」
数秒考えた後コアルームを選択し、俺はこの作成部屋を後にした。