5 戦闘(2)
俺の右腕からガラスが割れたような音が鳴り、何やら力が漲ってくる感じがする。
「殺れる、これなら殺れる!」
迫り来る脅威に立ち向かうべく、斧を体の正面に構えて兎どもをしっかりと見据える。
が…………
「お、重い。さっきと変わらん」
確かにスキルは発動したが、何故か重さの感じはさっきと変わらない。何がおかしいのだろうか。
一旦狼兎達と距離をおき、もう一度スキル説明を思い出してみることにした。
PS『封印されし右手』[戦鬪-補助]
・自らのHPが最大値の10%以下になったときに自動で発動し、発動時は右手のみ全能力値+100%になる。
・み、右手の封印がッ!
「ん………?何かが引っ掛かる…。ってあ、そういうことか」
このスキルは右手のみ全能力値二倍、だから両手で持ったときには効果が無いようだ。つまり両手で持つより片手で持った方が威力も高いし楽に扱えるというあり得ないことが起こってしまう。
そうと分かればもう兎など怖くはない。俺は斧を片手で持ち上げ兎たちをスネークアイで硬直させる。予想通り「封印されし右手」の効果が発揮され、斧は木の枝のように軽く感じられた。
「兎、これはさっきのお礼だ。受け取れ」
と、狙いを群れの真ん中の辺りにいた一匹に定めて、スネークアイを発動させながら斧を思いっきり降り下ろした。斧の刃は兎の胴体に突き刺さり、そのまま勢いで体は綺麗な真っ二つになった。兎はあの厄介な悲鳴をあげることも許されずにドロップアイテムを残して粒子となり虚空に消えていった。
そして振り返らずに斧だけを背後に振るい、後ろから近付いてきた兎を両断する。
残った8匹は俺を喰い殺す気満々のようだ。上等だ、全部斬り殺してやる。
まず同時に飛びかかってきた2匹の首を刎ね飛ばして一旦後ろに下がり、スネークアイを発動させて群れ全体に一瞬の隙を作る。
そして斧を群れの真ん中辺りにハンマー投げの要領で思いっきり放り投げる。こんなところでPS『投擲』が役立つとは思ってなかった。斧は中心辺りにいた4匹をまとめて切り裂き、あっという間に群れは残り2匹になってしまった。
残った兎はあっという間に仲間が殺されてしまったことに驚愕し、俺に怯えて逃げ出してしまった。俺が武器を拾うのに時間がかかると思っての行動なのかもしれない。
だが、その考えは間違っている。
「『メニュー』『簡易アイテムボックス』」
兎は隙有りとばかりに一目散に逃げ出した。兎の顔も心なしか安心して見える。
次の瞬間破裂音が鳴り片方の兎の胴体に風穴が空き、即死した。
何が起きたかわからないといった感じの片方の兎も同じように胴体に風穴を開けられ、粒子となり虚空へと消えた。
2つの死骸から少し離れたところには………
「へぇー、現実と違って多少は当たりやすくなってるんだ」
拳銃を片手で持って嫌な笑みを浮かべる、黒服に身を包んだハイエルフが立っていた。
「……終わったな」
初の戦闘はなんとか切り抜けた切り抜けることが出来たが、これではあまりにも綱渡りすぎる。改良すべき点も多く見つかった。
『封印されし右手』発動時に武器を片手で使用できるのは良いが、もう片方の手が完全に遊んでいる。『両手装備』を使用出来ないか目論んだが左手は普段と同じステータスだ。仮に持てたとしてもまともに扱えるかは非常に怪しいところだ。『封印されし右手』と『両手装備』、一見すると相性が良さそうに見えるが地味に併用の難しい組み合わせとなっていた。『投擲』もまた然り、斧の投擲は非常に強力だったがメイン武器を放り投げるのは殆ど自殺行為だ。実質1回の戦闘で1度しか使用出来ず、命中するかどうかも定かでは無いなんてこんなリスキーなことおいそれと出来たもんじゃ無い。投げナイフ等消費アイテムが手に入れば良いのだが『求道者』のせいでそもそもそれも使用できるかどうかもわからない。
そして何よりHPが10%以下になるまで何も出来ないのが危なすぎる。STRの高いモンスターやプレイヤーに出会ったら何も出来ずに一方的に殴られる、なんて未来容易に想像できる。対抗手段としてスネークアイがあるが一瞬の硬直の効果だけでは焼け石に水にすらならない。
「これは本当に不味い……さっさとダンジョン創ってひとまずは引き篭ろう……」
数時間前の自分の優柔不断さをこれ以上無いほど恨み、ドロップアイテムの確認とステータスポイントの割り振りを済ませて早速ダンジョンを創ることにした。
今回の戦いで得た戦利品は以下の通りだ。
狼兎の肉×3
狼兎の毛皮×4
狼兎の血×1
獲得Exp…30+10(集団戦ボーナス)
獲得金額…20c
レベル2→4
HP:70→104
MP:48→69
STR:15→24
CON:4→9
DEX:20→33
INT:30→45
POW:11→19
AGI:21→34
獲得ステータスポイント:7
さらにステータスポイントを割り振った結果がこれだ。
MP:69→76
INT:45→52
入手したアイテムはこのようなものだった。
名称狼兎の肉
種類:道具-素材
詳細:狼兎から取れる生肉。鶏肉に近い味であるが生のままではとても食べられない。
名称:狼兎の毛皮
種類:道具-素材
詳細:狼兎から取れる純白の毛皮。服の素材として人気がある。
名称:狼兎の血
種類:道具-素材
詳細:狼兎の生き血。薬の素材として使われるという。
一通りの作業を済ませた俺は、攻略に向けて必要なこと、つまりダンジョンの制作を開始することにした。しかしいくらなんでも草原のど真ん中に創る訳にはいかないだろうから、どこか森の中みたいなところはないだろうか。
「『メニュー』『マップ』」
マップを確認して今後の行動を考えてみる。森が近くにあればそこへ移動してダンジョンの製作、なければ町まで移動のどちらかだろう。
「え~っと。あ、あった」
丁度いいことにここからそう離れていないところに広めの森があったので早速そこへ移動することに決め、行動を開始した。近くに街らしき場所があるのが気になるが、あまりにも辺境すぎていて誰もダンジョンに来てくれない、なんてことは笑えないし丁度良いだろう。