3 ゲームスタート
目を開けると俺は草原の真ん中に独りで立ち尽くしていた。試しに軽く体を動かしてみたが特に問題はなかった。流石日本製のVRMMO。なんでもこのゲームの開発スタッフが『我が社の科学力は世界一イイイィィィィイイイ!!』とコメントしたとかしないとか。
「取り合えず『メニュー』『簡易アイテムボックス』…………何かの冗談だと良かったんだけどな」
「メニュー」と呟くと目の前に半透明の画面が現れた。タッチパネル式と音声式両方で操作できるそれから「簡易アイテムボックス」を起動し所持品を確認するとそこには「初心者用バトルアックス」という名の大斧、「練習用拳銃」とその弾がしっかりと存在していた。
メニューにある項目は以下の6つだ。
・ステータス
・簡易アイテムボックス
・コミュニケーション
・マップ
・運営への報告
・ゲーム終了
『ステータス』では現在の自分の状態や装備品を確認することが出来た。先ほど設定した種族や能力値に加え、『称号』も手に入れるとここに表示されるらしい。あとはここで初めて知ったが、どうやら『満腹度』なる概念が存在しているようだ。最大値は100となっており、0になると何らかのデメリットが発生するのだろう。
ちなみにステータス表示はこのようなものだ。
名前:コーツ
性別:男
種族:ハイエルフ・創造者
称号:なし
所持金:0
満腹度:100/100
Lv:1
HP:40/40
MP:34/34
STR:11
CON:0
DEX:15
INT:23
POW:4
AGI:17
【各能力値について】
入手アビリティ一覧
・求道者 LvⅠ
・硬直の魔眼 LvⅠ
・封印されしもの LvⅠ
・投擲 LvⅠ
・武装補助 LvⅠ
【アビリティーについて】
入手AS一覧
・スネークアイ
・ダンジョンクリエイト(⚠︎一度使うと消滅します)
【ASについて】
入手PS一覧
・求道者
・封印されし右手
・投擲強化(弱)
・両手装備
【PSについて】
『簡易アイテムボックス』はその名の通りアイテムを出し入れするコマンドだ。どうやら収納出来る数には制限があるようで、簡易でないアイテムボックスも存在するのだろう。
『コミュニケーション』ではここから「フレンド登録」を行なったり、フレンドへの「メッセージ」送信、「掲示板」への書き込みを行うことが出来る。掲示板への書き込みには自動的にアカウント名が表示される仕様のようで、この仕組みなら荒らしも湧かずに快適な利用ができるだろう。
『マップ』では現在地付近の地図と世界地図の両方を見ることが出来る。世界地図を見る限りではこの世界の大陸の様子は現実世界と全く変化がなかった。ちなみに今俺がいる『アラス大陸』は、現実でいうとオーストラリア大陸の位置にあるようだ。
『運営への報告』では迷惑行為を行うプレイヤーなどの通報や、不具合の報告を行うことが出来る。後でしっかりと報告させてもらおうか……
『ゲーム終了』からはゲームを「ログアウト」したり、「スリープ」したり出来る。
「………あれ?もうメッセージが来ている。誰からだろ?運営からか?」
「メッセージ」の欄に新着メッセージを告げるアイコンが表示されていた。このゲームにはフレンドとして登録したプレイヤー同士はメッセージを交換することが出来る。これはどのゲームでも同じことだが、最大の違いは「冒険者」なら冒険者同士で、「創造者」なら創造者同士でしかメッセージ交換ができない点だ。説明書には連絡手段もあるにはあると記載されていたが本来敵同士である「冒険者」と「創造者」同士が連絡を取り合うなど早々無いであろう。誰とも遭遇していない現状届いたメッセージは運営のものしかあり得ないだろう。
だが俺の予想は最悪の形で外れることとなった。
From…ウィルス
Sub…重要なお知らせ
本文…私はこのゲームに感染したウィルスです。突然ですが、プレイヤーはこのゲームの中に閉じ込められました。数名中々ログインしてこないチンタラしたプレイヤーも居ましたが、そのプレイヤー方にはもれなく設定を強制的にランダムにしました。
閉じ込められたというのは文字通りです。このゲームからの『ログアウト』『スリープ』は不可能になりました。あ、安心してください、このゲームの仕様上デスゲームにはしていませんから。
脱出する方法ですが、ストーリーを全てクリアしてください。ですがご存知の通りこのゲームにはクエストやストーリーが存在しないに等しいので私がストーリーを作ります。但し私がこのゲームの進行度を確認して相応しいと判断した時に何らかのイベントが発生するので、なにもしないといつまでたっても脱出出来ませんので注意してください。あとイベントは全員強制参加のが多くあるので気をつけて下さい。
それでは、心行くまで私の世界を楽しんでください。
……………え?
「はああああああああああ?」
突然告げられた浮かれ気分を奈落の底まで叩き落す文章に俺は誰も居ない草原の真ん中で叫び声を上げていた。VRから抜け出せない、なんて事件は今まで例を見ない緊急事態中の緊急事態なのだから当然だろう。試しに起動した掲示板の乱立するスレッドが他のプレイヤーの阿鼻叫喚を物語っていた。
というか、あのノイズはこいつの仕業だったのかよ!!畜生め!!!!
「と、とりあえず『メニュー』『ゲーム終了』『ログアウト』………やっぱり駄目だ。反応が無い」
『ログアウト』は勿論、アバターはそのままにして意識だけを現実に戻す『スリープ』も機能が停止している。ウィルスのことだから外部からの干渉もできないようにしてあるだろう。『運営への報告』のメッセージ送信フォームは何故か生きているが連絡を送っても全くの無反応だった。
半ば現実逃避気味にこの件の様々な可能性を考えてみる。
まずは第一に、運営の仕掛けたドッキリであること。VRMMOの世界に閉じ込められる、なんてことはVRが夢物語だった時代から使い古されてきた題材だ。それを模したイベントが開催されても特に不思議ではない。が、それにしてはあまりにも笑えないし仕掛けがお粗末過ぎる。しかも『スリープ』機能まで停止する意味もないはずだ。
次に思いついたのは、本当にこのゲームが乗っ取られたこと。悔しいが現状では可能性が一番高そうに思えた。
前者であることに一縷の望みをかけて15分ほど辺りをウロウロしたりして運営からの連絡を待ってみたが、特に何かが起きるでもなくただただ時間が過ぎるのみであった。ここまで来ると完全に閉じ込められてしまったと認めざるを得なかった。
「……まぁ、なってしまった物はしょうがないか……」
と早々に気持ちを切り替えて本格的に攻略を目指す。やはり何事も気の持ちようが大切だったりする。折角思う存分ゲームを楽しむ機会を与えられたんだ。思う存分楽しまなきゃ損だろう。
こうして俺のダンジョン創造者としての物語は幕を開けたのだった。