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16 遭遇(4)

 街から戻ってきた俺たちは元の道を歩くこと数分、俺が落ちた崖のところまで戻ってきた。


「こっからどう行くんだ?」

「『メニュー』『マップ』……直線距離は短いですけど、道なりに行くと結構時間かかりますね」


 待ちきれないといった表情でシリウスさんは俺に場所を訪ねてきた。尻尾が動いているのは気のせいでは無いだろう。俺はマップを開き、3人に自分の根城の場所を示した。


「こっから真っ直ぐ行ければ早いんすけどね……」

「リゲル?何を言っているの?」


 リゲルさんがボヤくとベガさんが不思議そうに首を傾げた。それを見たリゲルさんの顔が若干引き攣った。


「やっぱ、そうっすよね……わかってましたよ……。はい。ロープ買ってきたんで上から垂らしてください」

「俺がやるよ。じゃあ早速行くぞ!」


 リゲルさんが街で買ってきた相当な長さがあるであろうロープの束を受け取ったシリウスさんはそれを簡易アイテムボックスへ収納すると、言うが速いが何故か遠くへと去っていった。


「ま、まさか……」

「コーツさん。そのまさかっす……」



「うおおおおおおおおお!!!!」


 俺の予想通り、シリウスさんが叫びながら崖へとダッシュ。その勢いのまま崖へと食らいついたかと思うと器用に崖の窪みや途中に生えている木を利用し、あっという間に崖を登りきってしまった。いや、これ相当高さあるはずだけど!?


「……私も行く。『部分獣化:飛翔』」


 そう呟くとベガさんの背中に生えている翼が倍ほどの大きさとなった。シリウスさんがやったように助走をつけてジャンプした彼女はその翼を操り、楽々と崖の上まで飛んでいった。


「おーーーい!コーツ!!リゲル!!お前らもやってみろよ!!!」


 上からシリウスさんがそう無茶を言うのが聞こえる。


「コーツ!お前エルフなんだろ!木あるから大丈夫だって!!落ちたらリゲルが受け止めるってよ!!!」

「ええ!?俺っすか!?まぁエルフ1人くらいならいけますけど……」


 なるほど。身の安全は確保されてるのか。


 その言葉を聞いた俺は崖から離れるために歩き出した。歩き出した瞬間リゲルさんが驚愕し声をかけてくる。


「正気っすか!?20mはありますよ!?」

「結構途中で木とか蔦が生えてますから、エルフの俺なら行ける気がします」

「ああもう!この人も向こう側の人間だった!いやエルフか!」


 そして十分な距離を確保した俺は軽く息を吸い、一気に走り出した。目標は崖……ではなく、崖の手前に生えている5mほどの高さの木だ。

 まずその木に飛び移った俺は楽々とその木を登り切り、その木の枝から崖から生えている木へと飛び移った。その木を利用してジャンプし更に上の木の枝へ。エルフの身は現実の俺より軽く、通常なら折れてしまいそうな枝も折れずに体を支えてくれていた。

 あるところではしなる枝を利用してさらに上へ移動。またあるところでは丈夫そうな蔦をロープ代わりにしたりと順調に崖を登っていき、1分ほどで崖の頂上へと辿り着いた。

 


「ふう…………なんとか出来た…………」


 登り切ることに成功し緊張の糸が切れた俺は体から力が抜け、その場にへたり込んだ。


「すげぇじゃん。やるなお前」

「ん。見直した。これは将来が楽しみ」

「ありがとうございます……それよりリゲルさんが……」


 2人から賞賛されたのは素直に嬉しいが、それよりリゲルさんが心配だ。下を覗くと茫然としているのが見えた。


「リゲルー!!エルフにも出来たぞ!!お前もやれ!!!」

「エルフとオーガを一緒にしないでください!!」


 シリウスさんの無茶振りにリゲルさんが全力で反論する。正確にはエルフじゃなくてハイエルフだが今はまだ黙っておくことにした。


「早くしないと置いてくぞ!!」

「だったら早くロープ下ろしてください!!!」

「ったく、しょうがねぇなぁ」

「……リゲル、我儘」


 そうボヤくとシリウスさんは近くにある丈夫そうな大木にロープを何重にも巻き付けて結ぶことで固定し、ロープを下へと放り投げた。ロープの先は途中の木へ引っかかることもなく崖の下まで落下していった。

 しばらくするとリゲルさんがそのロープを利用して、なんとかよじ登ったといった風体で崖を這い上がってきた。いや、特殊能力無しにロープだけでこの崖を登るリゲルさんもリゲルさんで相当凄いんじゃ……もちろん一番おかしいのはシリウスさんだけれども


「リゲル、遅い」

「あんた達が速すぎるんすよ!飛べるベガさんは兎も角お二人さんは本当におかしいっすからね!?」


 大の字になって伸びているリゲルさんに容赦無く辛辣なコメントを突き付けるベガさんであった。みんなリゲルさんに対しては結構厳しいんだなぁ……

 俺が労いの言葉をかけるとこんなコメントが小声で帰ってきた。


「このくらいまだ序の口っす。今回いきなり南極に放り出されて、リーダーに助けを求めたのに自分でなんとかしろって言われたギルメンよりはマシっすね」


 ……『導きの光』って実はブラック企業なんだろうか。


「まぁ、これもリーダーがギルメンの実力を信用してるからなんすけどね」

「なるほど」


 やはりギルメンの仲は良いのだろう。


「ほんじゃそろそろ出発しますか」

「コーツ。案内お願い」


 2人から声をかけられ、俺たち2人は慌てて立ち上がる。


「こっから森を真っ直ぐ行くと着きますよ。問題は……道が無いってことですけど」

「そのくらい問題にならん。真っ直ぐで良いんだな?」

「はい。何も考えず直進すれば大丈夫です」

「よし。じゃあ行くぞ!」


 そう言ったかと思うとシリウスさんは一足先に森の奥へと全速力で走っていった。


「もう!行動が早いんすよ!」

「『部分獣化:飛翔』……リゲル、今度は遅れないようにね」


 リゲルさんが叫ぶと同時に、ベガさんがまた翼を広げ森の奥へと飛び立っていった。器用に木の間をすり抜けて飛ぶその姿はまるで本物の鷲のようだった。


「森の中で速さは負けませんよ!!」


 2人に追いつき追い越すべく、俺は近くの木に登り高速移動を開始した。



「みんな速すぎるんすよ!置いてかないで!」



 後ろからリゲルさんの声が聞こえた気がしたが、すぐに遠ざかって聞こえなくなった。




■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 唐突に始まった競争を制したのは、僅差でシリウスさんだった。その一瞬後に俺がゴールし、10秒ほど経ってからベガさんが、さらに1分ほど経ってからリゲルさんが到着した。詳しい場所や外装は説明していなかったが、森の中に研究所らしき施設が建っているという怪しげな光景を見逃すはずも無く、全員が迷うことなくダンジョンへと辿り着くことが出来た。


「よっしゃあ!一番乗り!」

「くっそ……ギリ負けた……」

「森の中じゃ飛びづらい。悔しい」

「はあ……はあ……もう……あんた達……良い加減にして………」


 リゲルさんの息が回復するのを待って、俺はダンジョンの説明を始めた。


「ええと、ここが俺のダンジョン。『イレギュラー・ラボ』です。特に作成コンセプトとかはありませんが、結構手応えのあるダンジョンになってると思います」

「案内サンキューっす。教えてもらわなかったら3人でフィールドをアテもなく彷徨うハメになってましたからね……」

「それも醍醐味。まだ最序盤だし、そういう情報の収集も私達の役目」

「でも本当に良かったのか?わざわざ敵に自分の居場所を教えるようなことして」

「やっぱ多少危険は増してもお客さんに来てもらわないとどうしようもないですからね。それに……」

「……それに?」


 ちょっとだけ溜めを作り、笑顔で言い放つ。


「……簡単に攻略されるような生半可なダンジョンじゃ、ないですから」


 3人の目がすっと細まる。


「『導きの光』への宣戦布告。良い度胸してる」

「ダンジョンがボロボロになっても知らないっすよ?」

「ハッハッハ!そりゃ楽しみだなぁ!!」

「ええ、テストプレイしてみたんですが中々でしたよ。今後ともご贔屓に」

「そりゃあいい!よし!じゃあお前ら!早速行くぞ!」


 シリウスさんが声をかけると他の2人は各々の簡易アイテムボックスから自らの武器を取り出した。

 ベガさんが取り出したのは杖で、リゲルさんが取り出したのは俺のものと同じ大斧と、リゲルさんの体格に見合う大きさを誇る大楯だった。ベガさんが回復役(ヒーラー)で、リゲルさんが盾役(タンク)なのだろう。


「じゃあ僕はここで失礼します」

「おう!お互い頑張ろうな!」

「縁があれば、また何処かで会いましょう」

「案内サンキューっした!」


 3人がダンジョンへと消えて行くと同時に、俺はテレポートで街へと転移した。

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