15 遭遇(3)
「つまり、あのPKは事故だと?」
「はい……モンスターだと思ってつい……」
「うーん、リーダー、どう思います?」
「俺は嘘吐いてるとは思えんな。ベガは?」
「同感。この人、そんなプレイヤーには見えない」
「書き込みと照らし合わせても矛盾は無いっすね……ま、多数決で無罪ってことで」
俺がゲーム開始から今までの行動を全て証言するとリゲルさんがメニューから掲示板を開き、発言と目撃情報が食い違っていないかをチェック。矛盾が無いことを確認すると俺は晴れて無罪放免となった。
「疑ってごめん。PKプレイヤー粛清も私達の仕事」
「大変ですねその『導きの光』ってのも……ん…………ってあ!あの『導きの光』!?」
突然記憶の奥底にあった名前が呼び覚まされ、電気ショックのような衝撃とともに意識の表層に現れた。さっきからずっと引っかかってたのはこれだったか……
「ん?俺らのこと知ってるのか?」
「ネットニュースやSNSで何度か見たことありますよ……構成員全員が一騎当千の強さを誇り、初心者育成やPKプレイヤーの殲滅、@wikiへの積極的な情報提供でゲームを大いに盛り上げる、運営とプレイヤー共に一目置いている一流ゲーマー集団。ですよね?」
「そこまで褒められると、なんか恥ずかしいっすね」
「そんなに有名だったのか、俺ら……」
「結構誇張されてる。でも嬉しい」
そんな有名人達が目の前で俺を倒そうとしているこの状況。はっきり言って、とてつもなくヤバい。
実はこの話、少しだけ伏せた部分がある。
構成員の全員が一騎当千の強さを誇る廃人達。敵と見なした集団への攻撃は生半可なものでは無い、といった噂だ。
曰く、悪質なPKを繰り返す集団を昼夜問わず現れると同時に1ヶ月間延々と殺し続けた。
曰く、不当に素材の値段を釣り上げた商人ギルドに対抗し、その素材をギルメン全員で乱獲し無理やり適正価格に戻した。
このような出来事は枚挙に暇がない。本人達は祭りだと思い楽しんでやっているようだが、救われる方からしたら救世主。敵からしたら悪魔のような存在だろう。
そして今、彼らは冒険者で俺は創造者。今の俺には彼らは今にも俺を嬲り殺しにしようと邪悪な笑みを浮かべている悪魔にしか見えない。
「……コーツ、そんなに震えなくてもいい」
「なんかこの人勘違いしてないっすか?」
「勘違いも何も、今から俺はフルボッコにされるんですよね……わかってます……」
吐き捨てるように呟いた俺に対し、シリウスさんは大きな溜息をつき、こう言った。
「あのなぁ、俺らは単にお前の創ったダンジョンに案内してもらおうと思ってるだけだが」
「…………え?そんだけ?」
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俺は今、近くにあるという冒険者の拠点となっている街へと案内してもらっている。というのも、俺が街を目指していることを知ったシリウスさんは一旦俺が街へ寄っていつでもテレポート出来るようにしてからダンジョンへと案内してもらおうと言ったのだ。流石に良い人すぎる。そのことをこっそりベガさんとリゲルさんに言うと
「ん。リーダーのお人好しは今に始まったことじゃない。」
「というか、良い人じゃないとこんなギルドのギルマスなんてやらないっすよ」
との返答だった。言われてみればその通りだ。
「わざわざありがとうございます……」
「いえいえ、街まで本当すぐですし、ちょっと買い物もありますからね」
「私も丁度戻りたかった。早くオークションに出品しなきゃ」
何を出品する気だ。
「安心して。目に線入れるから」
「それだと余計怪しくなりません……?」
「冗談。インスタントカメラの容量使い切ったからまた補充したかっただけ」
「一体どんだけ撮ったんすか!?」
「大丈夫。リゲルの分もある」
「だからいらないっす!」
またベガさんとリゲルさんの茶番劇が始まった。シリウスさんはその会話を聞いても全く意に介さずといった様子で笑っている。どんだけ懐が広いんだこの人……
「リゲルさん、もしかして『導きの光』ではいっつもこんな感じなんですか…?
「ああ……今日はまだリーダーとベガさんだけなんで楽な方っすね……」
「心中お察しします……」
「あざっす……」
たった3人でこの騒ぎだ。フルメンバーが集まった時のツッコミ役の体力消費は加速するのだろう。俺は今後のリゲルさんの未来を想像し心の中で合掌した。
「おーいお前ら、街に着くぞ」
シリウスさんのその声を聞きハッとして前を向くと、前方に鉄製の大きな門とはるかに広がる城壁が見えた。人の往来もそこそこあり、どうやらここをくぐると目的地のようだ。特にやることもないシリウスさんと俺は広場に備えられているベンチに座って時間が経つのを待つことにした。
「お前ら、街での用事あんだろ?どんくらいかかる?」
シリウスさんが足を止め、3人に所要時間を聞いた。
「俺は雑貨店でロープ買うだけっすから、10分ほどあれば」
「私もそのくらい。すぐに出品してくる」
「俺は特に用事無いのでいつでも大丈夫です。ってベガさん!?本当にやる気ですか?」
「……冗談」
そう言ってベガさんは俺から目を逸らした。全く冗談に聞こえなかったんですけど……。
「分かった。じゃあ俺はコーツと一緒に広場で待っとくわ。15分後くらいに広場の噴水前集合な」
「了解っす」
「ん。わかった」
そういってシリウスさんは門をくぐり、俺たちもそれに続いて街へと入った。
「うわあ……すっげぇ……」
そして思わず声を漏らした。
レンガを主な素材として建てられているのだろう。何処と無く時代を感じさせる建物が多く建てられた放射環状型に作られた街はまるでテーマパークのようであり、そこにただいるだけで十分楽しめそうだった。
門から真っ直ぐ道を進むと環の中心となっている広場へと到着した。広場の中心には噴水があり、辺りを見回すと露店も開かれている。あれはNPCなのだろうか?
「ほんじゃ、15分後までにはここに集合ってことで」
シリウスさんがそう言うと2人はそれぞれの目的地へと走っていった。
「コーツよぉ、テレポートはもう使えるか?」
「えーと…あ、はい。ちゃんと登録されてます」
メニューからテレポートを開き目的地一覧を見ると『クレバナル』の表示が新しく増えている。これがこの街の名前なのだろう。
「そりゃ良かった。買い物とかはしなくていいのか?」
「ええ。まだろくにお金も持ってませんし、また後でいいかなと」
「そうか、なら良い。それとちょっと気になってたんだが……?」
「なんですか?」
シリウスさんは少し息を吸い込むと、意を決したように声を発した。
「なんでそんな装備してんだ?」
あ、やっぱし?
俺が事情を掻い摘んで説明すると、シリウスさんはでっかい溜息を吐いた。
「『求道者』ねぇ……とんでもねぇもん引いちまったな」
「運が良いやら悪いやら……」
俺が自嘲気味に呟くと、シリウスさんは目を丸くした。
「何言ってんだ。装備やスキル構成がどうあろうと大当たりじゃねぇか」
「え?そうなんですか?」
「装備がいくら身体に見合ってないとしても武器自体を調節したりとか慣れとか活かす手段は幾らでもある。『求道者』以外のスキルがどんなもんかは知らんが所詮初期スキルだ。いずれスキルの数も増えていくだろうし気にすることは無い」
「なるほど……じゃあ喜ぶことにします」
「そうしとけそうしとけ。全く羨ましい限りだ。これはダンジョンの方も期待して大丈夫かな」
「任せてください。敵の強さもドロップ品の美味さもばっちりですよ!」
何せ身を以て体験済みだ。
そんなことを喋っているうちに15分はあっという間に過ぎ4人が揃い。出発の時がやってきた。
でも、これからダンジョンに挑もうとする敵を自ら招待するって中々異様だよなぁ……
「準備は大丈夫か?」
「バッチリっす」
「ん。大丈夫。ちゃんと補充した」
「ほんじゃ、今度は俺らが案内して貰う番だな。初ダンジョン、期待してるぞ?」
「お手柔らかにお願いしますね?」
「リーダーの辞書に手加減は無い。覚悟するのね」
そうして俺は3人を連れて自分のダンジョンへと向かった。
……密かに3人が倒される姿を想像をしながら、だが。