12 テストプレイ(4)
右手から金属の割れるような音が鳴り、力が漲って来るのが感じられる。
スキルが発動したのを感じ取ると、まず俺は右手で本棚を全力で引っ張り、床に倒した。。
「うおおおおおおおあああああああ!!!」
「キキッ!?」
物凄い音ともに中身が撒き散らされる。本棚の向こう側に隠れていたグールは身を隠すものが無くなったことに驚き、俺にとどめを刺そうと爪を振りかざし襲いかかってきた。
「遅い」
「ギッ!?」
俺は爪を斧で腕ごと斬り飛ばし、間髪入れずに次の一撃を首へと入れた。首を斬られて生存できるはずもなく、グールはそのまま粒子となり消え去った。
「りゃああああああああああ!!!」
俺はまた近くにあった本棚を倒し、邪魔な遮蔽物を除去していく。とうとう部屋の中は大惨事となったが、今度は後ろに何も隠れていなかった。
そう、俺の発想とは「隠れられるんだったら、そんな場所無くせば良いんじゃね?」だった。本棚が破壊不可能なオブジェクトだったら別の手を考えていたが、幸運にも破壊できるものだったので遠慮なく破壊していく。自分のダンジョンだ?知るかそんなもん!どうせ元どおりになるから良いんだよ!
そうして俺は本棚を薙ぎ倒し、或いは斧で破壊しながら出口へと進んだ。怯えてしまったのかはたまた隙を探っているのだろうか、その間一体もグールは現れなかった。
部屋の扉を開けて辺りを見回すと、嵐が過ぎ去ったかのような惨状だった。本棚という本棚が床に倒され、或いは斧でズタズタに破壊されている。これが本物の研究所なら発見した所員は確実に卒倒するだろう。
「さて、最後の仕上げ……ん?おいおい、やめとけよ」
アイテムボックスに斧を仕舞いこもうとしたところで瓦礫の山の上にグールが立っているのを見つけた。何やら俺を指差しながらよくわからない言葉をブツブツと呟いている。
斧を投げつけて斬殺しても良いけど回収が面倒臭い。そこで俺はある可能性に賭けてみることにした。扉を開けいつでも逃げ出せる体制を整えておく。
「キキキ………」
グールはこちらが手を出さないでいると不気味に笑い、また訳のわからない言葉をブツブツ呟き続けた。そしてそれが終了したかと思うと大きく目を見開き、こちらに向かって激烈に指を指しグールの指の先からサッカーボール大の火の玉が飛び出て来た。それを確認するや否や、俺はすぐに部屋の外へと飛び出した。
次の瞬間、炎が部屋中へと広がった。
「ギギ!?!?!?」
「おわ!?」
その勢いは俺の想像をはるかに超えており、床に撒き散らした書類が燃料となり炎はあっという間に部屋を焼き尽くさんとする勢いで広がっていった。
「ギギギギ!?グギャアアアアアアア!」
「ギイイイイイイイイ!!!」
どうやら部屋の中にはまだ2体のグールが隠れていたらしく、その2体も広がる炎の餌食となって燃え盛る炎の中で苦しんでいる。
「エーテル使った部屋ん中じゃ火気厳禁。常識だろ?守らなかったお前らが悪い」
そう言い残し扉を閉めると俺は部屋を後にした。
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「あーびっくりした。まさかあんなに勢い出るとは……」
他の部屋を探索し終えた後に部屋を覗こうとしたが扉が完全に開かなくなっていることがわかり、その場に座って少し休憩を取ることにした。ゾンビがいる部屋もあったが斧の一振りで簡単に倒されていった。パラシティックゾンビやグールが現れなかったのはかなりラッキーだった。
まずは運良く手に入れた止血剤を使用し『出血多量』状態を治療した。さっきの火災で火傷状態になっていたらもっと厄介だったが、部屋からは早々と脱出したためにそこまでには至らなかった。
残念ながらカードキーは手に入らなかったが、他に手に入れた新しいアイテムがこれだ
名称:試験管
種類:道具-その他
効果:「種類:薬品-攻撃」のアイテムを中に入れることができる。中瓶1個のもので試験管10個の容量。
名称:止血剤
種類:薬品-回復
効果:『出血多量』を治療し、同時に体力を5%回復する。一回きり。
名称:狂化剤
種類:薬品-補助
効果:一定時間全ステータスが50%上昇し、アバターの制御が不可能になる。一回きり。
名称:解毒剤
種類:薬品-回復
効果:『毒』『麻痺』を治療する。一回きり。
止血剤は既に使ったからもう残っていないが、狂化剤と解毒剤は1本ずつ、試験管は10本もある。試験管は簡易アイテムボックスに収納し、狂化剤と解毒剤は銃と同じく即座に取り出せるように懐へしまった。
「さて、行くか………」
束の間の休息を終え、斧を手に取り大広間へと戻り新たな場所へ進む為に立ち上がり廊下への扉に手をかけた。止血剤で回復はしたが現在の体力はきっかり10%でまだ『封印されし右手』は発動している。それを確認すると一気に扉を開け放ち、今度は扉の中へと駆け込んだ。
「チンタラやってる暇は無いんだよ!!」
まずはすぐ近くにいたゾンビ二体の首を纏めて刎ね飛ばし、それには目もくれず走り抜けて正面にいたパラシティックゾンビの口から伸びてきた触手を斬り飛ばし、その勢いのまま頭から真っ二つに切断した。その隙を見て襲いかかってきたグールをそのまま下から斜めに切り上げる形で葬り去り、その場で2回ほど回転。斧の刃の届く範囲に不用意に近づいたゾンビ3体は仲良く首と胴体が泣き別れした。
「まだいんのかよ。面倒だ!全員まとめてかかってこい!」
出口まで残り15メートル。横幅は斧を振り回してギリギリ当たらないくらいには広い。敵はゾンビ系が10体にグール2体、あれはケルベロスか……?上等だこんちくしょう。
アンデッドの群れの中から吠えながらこちらを喰いつくさんと飛びかかってきたケルベロスはその実力を発揮することも叶わずに頭をかち割られ粒子となった。次いで襲いかかってきた残りのモンスターもあるものは腹を裂かれ、あるものは首を刎ねられ、またあるものは胴体を斜めに切断されたりと全員が虚しく粒子となり消えていった。
「はぁ……はぁ……所詮アンデッドがハイエルフ様に敵うわけが無いだろうが」
そう言いながら扉に手をかける。装備や戦闘にハイエルフ感は微塵も感じられないのはご愛嬌。それは自分が一番よくわかっている。
そして扉を開け広間へと戻ろうとしたとき、背中に刺すような痛みが走った。
「は!?嘘だ…ろ……」
やばいと思いながら後ろを振り向くが何もおらず、どうやら背中に何かがくっついているようだった。それを認識したところでどうにもならず、最後には背中が食い破られる感触とともにHPは0になり2回目のテストプレイは終了した。
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「クソおおおおおおおお!油断したあああああ!!!!」
またもコアルームへ転移させられた俺は悔しさのあまり床に転がり叫んでいた。
「クソ!!最後の最後で寄生生物かよ!!!」
あの状況から判断するに倒し損ねた寄生生物がいたのだろう。最後の戦闘の際にパラシティックゾンビとも戦ったが、その時に寄生生物ごと殺すには至っていなかったみたいだ。
「ああ……テストプレイはもういい……十分だ……」
このダンジョンの凶悪さは身を以って十分知ることが出来た。ナゴーブと交戦できなかったのが少しだけ心残りだが仮にナゴーブが出現しなくとも他のモンスターだけで相当戦えるだろう。
「『メニュー』『テレポート』……『イレギュラー・ラボ入口』」
そして俺はコアルームを後にした。