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プロローグ ~現状説明と自己紹介

 俺の名前は天道九雲。

 てんどう くうん、と読む。


 字面を見て『アイタタ』と思う人も居るかとは思うけど、多くの皆様と同様に自分で付けた名前じゃないのでご容赦いただきたい。名付けたのは祖父なんだけど、なんでも俺が生まれたとき、空に丸ぁるい雲が九つ、曼荼羅図のように綺麗な形で並んでいたらしい。九つの雲、それで九雲。


 祖父はそういう偶然の出来事を『これぞ天命!』とか言って、ロマンチックかつスピリチュアルに解釈する癖があって、俺の両親が一生懸命考えた『明人あきと』という名前はお蔵入りとなってしまった。祖父は一代で日本有数の大企業を作り上げた人で、帝王学とかそういうのバリバリな人だったから婿養子の父は大きな声で反対できなかったんだと思う。でも、俺は明人の方が良かったよ、父さん。


 さて、俺の名前の話はこれくらいで終わるとして、もう少し自己紹介をさせてもらおうかな。

 さっきの話に出てきたけど、俺の実家はとんでもない金持ちだ。俺が人生の九割以上を過ごした場所、だだっ広い病室も俺専用にとお屋敷の庭に作られていた。医者だって看護士だって専属のスタッフだし、ゴチャゴチャと置かれている機材も最新鋭のものが置かれていた。


 そう、俺は病気で寝たきりだったんだ。その病気は治るものじゃない。いわゆる、難病というヤツだ。足の筋肉をはじめ、全身の筋肉が発達しない病気。日に日に弱っていくだけだから、後はいつ死ぬのか、その日を待つだけの人生。そのくせ頭の中だけはなんともなくて、自分の置かれている状況が理解できてしまうのが辛かった。いや、別に俺のことを可哀想だとか思ってくれなくていい。さあ、涙を拭いてくれ。あと、ズボンも履いてくれ。

 何でかって?俺としては物心ついたら既に病気の体だったし、家族の間でも可哀想だとか悲しいだとかそんなアレはもう枯れ果てていて、あとは俺が死ぬ時のために残してあっただけだから。いや…今思えばそれすら怪しいな。


 そんなこんなで俺は物心ついた頃から病室で過ごしていた。学校だって行ってないし、思春期の男女のアレコレなんて経験したこともない。そもそも生まれてから、接したことのある女性は母親よりも高い年齢のオバ様方だけだった。

 当然、友達の一人もいないもんだから俺は親の買い与えるゲームとか漫画とか、そういうものと仲良く過ごしてきた。唯一姉だけがよく顔を見せてくれていたけど、その姉もフランスの大学に留学しただとかでそれっきりだった。同世代の他者の存在なんてものは、パソコンっていう窓から眺めるだけの異世界人のようなものだった。

 

 ちょっと前置きが長くなっちゃったな。

 人とコミュニケーションを取ることに、いまだに慣れてなくて。ここ最近じゃ昔の自分のことを説明するなんてこと、全くと言っていいほどなかったからさ。

 俺が『Yボタンを押してみな』って言って、これを見ている君が超能力者のように俺の心をのぞけるようならすごく楽なんだけど。



 で、もう色々すっ飛ばして言うとさ。

 死んだんだ、俺。

 十五歳で。


 そんでもって、気づいたらさ。

 転生してたんだよ。

 異世界に。



 今はその異世界から、それこそ超能力みたいなものを使って君のいる世界に連絡を取ってる。こっちの世界にはいわゆるパソコンはないんだけど、どうやら意識を飛ばしてそっちの世界のパソコンにアクセスしたりできるみたいだ。ちなみにホームページも見れるし、文字も打てるんだぜ。…誰のパソコンかは知らないけど。まぁ、これができるようになるまでにはそれなりの苦労もあったんだけど、それはまた今度話すよ。


 びっくりした?

 びっくりしてないか。ちょっとネットを覗いた感じだとそっちの世界では、異世界に転生する、って小説とかが流行ってるんだろ?まぁ、それなら俺の話もよくある話の一つと思ってくれていい。もしかしたら、その物語の中には俺のように異世界から書いてます、なんてものもあるのかもしれないな!


 それで、今そっちの世界は二〇一五年…いや二〇一六年?まぁ、俺が死んでからだいたい十五年くらいが経ってるのかな。俺がそっちの世界で死んだのが二〇〇〇年くらいのことだから。転生したタイミングとか、時間の進み方とか、いろいろ違ってたらどうしようかと思ってたけどどうやら大きなズレはなさそうで安心した。


 何で俺がこうして、異世界からわざわざそっちの世界のパソコンにアクセスしてこんな長文を書いているかというと、実はあまり理由はない。だけど、ちょっとそっちの世界が懐かしくなったというか、日本は今どうなってるんだろうとか色々気になっちゃってさ。…あとは俺が死んだあとの家族のこととか。


 あーいや、今のはナシだ。別にあんな家族に未練なんかないんだ。こうやってパソコンにアクセスして文字を書くことができるのはいいんだけど、一回入力した文章を削除するのが大変でさ。これっていわゆる思念波を言語化する魔術の応用なんだけど、一度思念に乗せたものを取り除くってのがこれがかなり難しくて。あ、そうそう、こっちの世界には魔法がある。俺と君が夢見たファンタジーの世界にはきちんと剣と魔法が存在しているよ。ゴブリンだってドラゴンだってネコミミだっている。


 でもって、こうして文章を書いている最大の動機は、あまりかっこよくはないんだけど、そっちの世界の誰かに今の俺のことを知って欲しいと思ったから。こっちの世界に転生してから、それはもう本当にいろいろなことがあってさ。こっちでの十五年と、そっちでの十五年の重さがいかに違うかを知ってもらいたいよ!

 …いや、ごめん。そっちでも、昔の俺みたいに辛くて苦しい日々を送っている人がいるよな。軽率な発言だった。申し訳ない。


 それで、まずはこうやって自己紹介と現状説明をしたわけだけど、これから先は転生した時のことから今現在までのことを順を追って説明していきたいと思う。こっちの世界でももう十五年を過ごしているからかなり長くなってしまうと思うんだけど、実は転生前からやってみたかったこととして『小説を書く』っていうのがあるんだ。だから、これから書いていく俺の話も、自分なりに小説みたいに書いていこうと思うんだけどいいかな?

 もちろん、読みやすいように区切って書くし(この『通信魔法』を使える時間も限られてるし、こっちの世界での仕事もあるし)、なるべく娯楽として楽しめるようにするつもりだ。


 …自分の話を脚色して小説にするなんて、いなくなった愛人の布団に顔をうずめるくらいに気色悪いかもしれないけど、君が読んでくれるとうれしい。


 

 先にちょっとだけ話しておくと、今はクーン・アークロードって名前なんだ。アークロード、とか天道ってのを英語っぽくしただけなんだけど、こっちの世界ではこの名前は結構有名なんだぜ。

 あと、転生した時にとんでもない特殊能力を手に入れたんだ。ま、小説のタイトルでバレバレなんだけどさ。この剣と魔法のファンタジー世界でも、かなりレアな能力なんだと。そのおかげで苦労もしたし、頼れる仲間とも出会えたんだけど…その話は後のお楽しみということで。



 まぁ、とりあえず今日のところはここまで。

 それじゃ、また。



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