焦燥
外灯がぱちぱちと鳴って夜がきた。
それと同時に都会の街はネオンの光にケバケバしく染められて、
数えきれないほどの車が唸りながら地面をゴトンと揺らし、歩く人はドブの臭いに顔をしかめながら皆足早に進んでいた。
そんなせせこましい街の大通りに面した三階建ての貸家に彼女は母と二人で住んでいた。
彼女は今こうして日がどっぷり落ちた後でも、二階の六畳の和室で、朝から敷いたままの床布団に寝転びながら明かりすらつけず、ただ、外灯から漏れる赤い光が部屋の隅を淡く照らしているのをぼおと眺めているだけであった。
彼女は一日何をするわけでもなく、只その日その日をだらだらと生きていた。
何をするわけでもなく?いや、実際母が作ってくれた飯を食ったり、愛犬のグウの散歩で近所をうろついたり、文学や映画をたしなんだりはした。しかしそれ以外の人に言えるような肩書や職業は一つもなかった。だから、朝眠い目を擦りながら家を出て、満員電車に身を縮め、寄りかかる人に苛立ち、会社や学校での人間関係に疲れはて、都会の帰路に着くようなそうゆう人達とは彼女は無縁であった。
無縁であったけれど、そんな彼女でも何度か社会に出てみようかしらとふと思うこともあった。それは大抵映画のサクセスストーリーに影響で、もしかしたら人間は自分の思っているよりも寛容で慈愛に満ちているのかもしれない 、よし!などと心踊らせるのだけれど、
また夜になると過去を思い出して、気は沈み、しかも外が延々うるさいせいで苛立ち、やはり自分には無理だと鬱々と沈むのだった。