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完璧な~

完璧な彼女

作者: 橘 あんこ

この短編だけでも読めるように頑張ってみてます。暇つぶしにでも読んでくださると嬉しいです。

「もう、やめようよ。彼だって嫌がってる」


私は友人を説得する為に、体育館の裏に呼び出した。

ここなら誰にも邪魔されない。

私が説得をしようとしている友人は私の話を黙って聞いている。


「嫌われているって分かっているよね?もう、付きまとうのはやめてあげて」


友人は ため息をつくと私を見て…


「話はそれだけ?」


無表情で見つめられて ビクッっと逃げ腰になってしまう。

ダメだ…こんなんじゃ、彼の為にならない。

ちゃんと説得しないと…

そうは思っているのに言葉が続かない。


「じゃ、帰るわ…」


…っ帰ってしまう。思わず友人の腕を掴む。


「待って!お願い!!待って!」


「離して」


「離さない!止めるって言ってくれるまで離さないから!」


そう叫びながら友人の腕を離さないよう力をいれる。


「何故貴方にそんな事言われなきゃいけないの!?」


友人は私が掴んでいる手を振り払おうとした時…


「俺の彼女だからだよ!」


いつの間にかそこにいた彼が友人を私から突き放した。


私は、バランスを崩して座り込んでしまった友人を見る事ができない。

あぁ…本当に最低だ私。友人の好きな人を好きになって、その事もいえないのに友人を説得しようとしていたなんて。

友人は彼を好きなのに。私は知っていたのに。

どうしてこんな事になってしまったのか…。





――――――――――――



私 早乙女さおとめ ひとみは 何故か中学の頃から女子に嫌われた。

男に媚を売っているっと噂され 人の好きな人を横取りする女だと敬遠される。

私は一度も 男に媚を売った事も 人の好きな人を横取りした事はない。

男の子とは、話しをする程度だったし、人の好きな人を横取りするどころか、誰が誰を好きなのかもわかっていなかった。

『容姿が小動物みたいで可愛らしいから みんな嫉妬してるんだ』ってその時、席が隣だった男の子がそう慰めてくれた…。

確かに身長は平均より小さいから、小動物みたいかもしれない。でも、可愛らしいかなんて分かる訳がない。ちょっと童顔とか腫れぼったい唇なんか私の気にしている所だったりする。もっと奇麗系な顔になりたかった。

嫉妬ってだけで嫌われるなんて本当悲しすぎる。

高校に入っても中学からの嫌な噂が続いているのか、なかなか友達が出来なかった。

噂なんかに左右されないそんな人が必ずいるはず…。そんな希望を抱きつつ私は友人になってくれる人を探していた。


私のクラスには、私と同じく一人で行動している人がいた。

工藤くどう 鈴子すずこ

真っ黒の長めの髪に、気が強そうな顔立ち。

彼女も私よりも遠巻きに見られていた。

同学年の男子にご執着で、恋人でもないのに彼の所有物だと付きまとい、休み時間など空き時間は、教室にいる所を見た事がない。

愛しの彼と少しでも一緒にいたい…そんな所だろうか?

彼のほうは、迷惑をしているらしいのだが一向にやめる気配はない。

空いた時間を彼の為に使っているので 友人なんて作っている暇なんてないのだろう。

彼女に話しかける人なんていなかった。中学の頃かららしいので年季は本物だ。

正直 そこまで人を思えるなんてすごいの一言だと思う。

私にはそんな風に人を好きになれそうもない。なってみたいかと言われたら、そこまでは…っと答えていまうだろうけど。


クラスでも浮きに浮きまくっている彼女が、いつの間に仲良くなったのか あるクラスの女子と話している姿にクラス中が驚きを隠せなかった。

『あの工藤が…?』っと口に出していってしまっている人もいたぐらいだ。

私はその様子をみて歓喜した。工藤さんと仲良くできるぐらいだ。工藤さんと話している女子に話しかければ きっと仲良くしてもらえる。


彼女…荻原おぎわら 時子ときこさんなら。


その日から荻原さんに話しかけるチャンスをうかがっていた。

やっと見つけたチャンスが本だった。



「あの…その本 面白いよね?」


初めて話す人にいきなりすぎただろうか?

窓際に座って本を読むクラスメイトに 今読んでる本の話題を振ってみた。

眼鏡をかけた彼女は、一重のせいか少し冷たい印象がある。


「ええ、推理ものなのに読みやすいわね」


案の定、彼女…荻原さんは、私の話にのってきた。

私はほっと息をつく。

大丈夫だとは思っていたが やっぱり緊張していたらしい。


「私も昨日までその本を読んでいて、面白かったから荻原さんが読んでて嬉しくなって…それで、その…」



調子に乗らないよう言葉を選びながら話しを続けてみる。

荻原さんは、少し本に目線をやると私に笑いかけ…


「早乙女 瞳さん…だっけ?貴方のこの本の感想きいてみたいわ」


やった!やっと、私と友達になってくれそうな人がいた。


「うん!是非!荻原さんの話しも聞きたいな!」


今の私は満面の笑みを浮かべていると思う。もう一人は嫌だ。高校でぼっちなんて豆腐メンタルな私には、絶えられない。

久しぶりの女子同士の会話に興奮して 私は繋ぎとめるように話しを続けた。

女友達がいなくてごまかすように本ばかり読んでいた事がこんな所で役にたった。

私は目の前の友人におすすめの本を渡しながら 明日の約束を取りつけて上機嫌で帰宅した。




荻原さんと友人になった次の日に、工藤さんとも友人になった。

もうその頃には他のクラスメイトもぽつぽつと工藤さんに話しかけていたので、私よりも工藤さんのほうがクラスにも馴染んでいるようだった。

きっと私も少しづつこのクラスに馴染んでいけるだろう…。


ただ、やっぱり噂通りだった。工藤さんと知り合って彼女の執着に驚いた。


教室にいないと思っていたら噂の彼の教室の前で彼を待ち、何をする訳でもなく見ていた。

話しかけもせず ただ彼の行動に自分を合わせているように思える。

付かず離れず…廊下に出た彼に話しかけては無視される。

毎日お弁当を作って渡している事も知り合ってわかった事だ。

私が見ているかぎり受け取ってもらっている所を見た事がない。

そもそも相手をされている所を見た事もなかった。


彼…宮元みやもと 圭吾けいごは、工藤さんが付きまとっている『彼』。


私と彼、宮元君とお互いを認識したのは、宮元君と工藤さんが二人で廊下にいる所に 私は鉢合わせしてしまった時だった。

柔らかそうな髪質に、甘いマスク…流し目で私のほうに目を向けた彼と目線が重なり合う。


「…早乙女さん?」


工藤さんに呼ばれて ハッと意識を戻す。


「あ…ごめん。次、音楽室だから 工藤さんと一緒にいこうと思って…」


ちらっと宮元君の様子を伺う。彼は私を見て微かに笑みを漏らすと

『たすかった』っと声には出さず口元を動かした。

彼からの眼差し…彼を見ていられない。

教室のほうへ無言で歩き出した彼を 工藤さんは引き止めていたが止まる様子がない彼に諦めがついたようだ。

私は、工藤さんの様子を黙って見ている。これ以上邪魔をして嫌われたくはない。


「…行きましょうか」


彼女はそういうと私の前を歩き出した。私は彼のほうを振り返ってみる。


「…っ」

彼は振り返って私を見ていた。すぐに目をそらし先に行ってしまった工藤さんを追いかける。

胸がドキドキして苦しい…。私は、彼に囚われた瞬間だった。


工藤さんの好きな人…分かっていたはずだった。

邪魔をするつもりはなかった。

それでも私は、彼を助けたかった。嫌がっている彼が可哀想に思えた。

だから私は、出来るだけ彼女を彼から遠ざけた。

彼女が話しかけたら、嘘の用事で彼女を連れ出し、彼女が彼と会わないように私は彼女を誘導したりした。

そんな事を続けていると 彼とも話すようになった。

かるい挨拶からはじまり、工藤さんからの被害防止への感謝の言葉。

だんだんと彼と私は親しくなっていった。

ある時、彼が彼女にきちんと拒絶できない理由を話してくれた。


宮元君の母と工藤さんの母が仲が良く、工藤さんを拒絶すれば母同士が気まずくなるのを心配しているようだった。


「彼女がいる限り、好きな子にも告白出来ないよ。迷惑かけるだろうからね」


「そんな事ないよ。好きだったら、きっとその子も一緒に工藤さんの事を乗り越えてくれると思う」


そう言った彼の横顔が何もかも諦めているようで…。

私は必死に言葉を捜した。


「本当に…本当に、そう…だったら」


「私…宮元君が好き…だから分かるの。きっと…だから…その 乗り越えられる…」


いつの間にか告白してしまった私は、宮元君の顔が見れず下を向いてしまう。


彼は、「えっ」っと驚いて少しの間のあと、「俺も…好きだよ」っと言ってくれた。

嬉しくて私は泣いてしまった。彼は私の涙を親指で拭うと優しく笑ってくれた。


その日 私は 宮元君の彼女になった…。


友人の好きな人を、奪ってしまった。

私の噂が本当になってしまった。

私は横取りしてしまったのだ。

ちゃんと知っていたのに。

友人が彼を好きだという事を。


明日、明日工藤さんを説得しよう。話せば分かってくれる。

だって友人なんだから…




――――――――――――




「瞳が好きなんだ!彼女に手を出すな!」



宮元君の言葉が嬉しかった…。


「私は圭吾けいごの『もの』じゃなかったの?!」


「…お前が俺の…?いつも付きまとってただけだろ!!」


そう…彼女が付きまとっていただけ…

やっぱり話してもだめだったんだ…。

友人でいたかった。悪いのは私…。分かっていたけど悲しくて。


「鈴ちゃん…ごめん…ごめんね…」


溢れる涙が止まらない。何故こんな事になってしまったの?

ごめんなさい。彼を奪ってしまってごめんなさい…!


「こんな奴に謝る必要なんてない!いこう!!」


彼は私を連れて歩き出し


「二度と俺に近づくな…!」


彼女を完全に拒絶した。母親に気を使って今まで我慢していた彼が、私のために彼女から私を守ってくれるのが嬉しい。

少し歩いた場所で彼は「怖い思いをさせてごめん」っと泣いていた私を抱きしめてくれた。私は首を横に振る…。


「あいつに呼び出されたんだろう?」


何だか勘違いしてる。


「…ちがっ…私が」


私は咄嗟に否定しようとするが…


「庇う必要なんかない。…あいつをそんなに追い詰めてたんだな…」


そう呟いた彼の表情を見て私は、これ以上言葉が出なかった。

笑った…今、確かに彼は微かに笑って…。


「大丈夫か?」


次の瞬間には、私を心配して覗き込む彼の顔がそこにあった。

きっと気のせいだったんだ。日が落ちて彼の顔が暗かったせいでゆがんで見えたんだ。

だって笑う所なんてなかったんだもの。


「大丈夫だよ。ありがとう」



この日から夏休みに入る二週間…工藤さんは学校を休んで会う事がなかった。


私は少しの罪悪感はあったけれど、気まずくなるのが嫌で彼女がいない事にほっとしていた。

夏休みは、宮元君と一緒に過ごせると楽しみにしていたのだが、母子家庭だという彼の事情によりバイトで殆ど会う事がなかった。

会えない夏休みは、毎日メールした。返信もあまりできないぐらい忙しい彼だったので電話もほとんどなかった。

もちろん何度も「ごめん」って誤ってくれていたので、我侭はいえなかった。

彼と両思いになれただけで十分だと思った。

そう…私は宮元君の彼女なんだから…。


やっと夏休みが終わって、彼に会う事ができた。嬉しくて彼のクラスにすぐに会いにいった。

走って息切れしていた私を見て彼は、苦笑しなら私の頭をなでてくれた。夏休み会えなくて不安だったけどそれだけで解消された。

工藤さんは、学校を転校していった。これでもう彼を苦しめる人がいない。

私は宮本君とのコレからの時間に心を躍らせた。


けれども夏休みが終わっても、工藤さんがいなくなってもあまり彼との距離は縮まなかった。むしろ遠くに感じる。

学校が終わっても部活にも行かずバイトをしていた彼には、私と一緒にいる時間などなかった。

少しの時間でも彼と一緒に居たかった私は、休み時間は彼に会いにいった。

彼のために毎日お弁当を持っていった。はじめは食べてくれた彼だったけど、遠慮してかお弁当を受け取ってもくれなくなった。

毎日のメールも返ってこなかったけど、欠かす事はなかった。

そんな毎日を彼の彼女として過ごしてもう3ヶ月。宮元君に別れを切り出された。

私は、泣きながら彼に縋った。けれども彼は「ごめん」の一言で私の話を聞いてくれなかった。

別れて『彼女』じゃなくなっても私は彼に会いにいった。

もう、彼しか私にはいなかったから…。友人なんて その時には誰もいなくなっていた。

一番近くにいた工藤さんを裏切ったのは私だったから。


毎日、休み時間に彼に会いに行く。けれど彼の姿は見えなかった。

メールも毎日した。最近は送り返される。アドレスも変わったらしい。

お弁当も毎日つくった。けれど、会う事が出来ないので渡す事もできない。

そんな事があっても私は諦められなかった。諦める事が出来なかった。


彼が主席ではなくなった。私は酷く動揺した。

彼に何かあったんじゃないか…もしかしたら、工藤さんがまた彼を…。

私が何とかしてあげないと…!彼の為に私が…!

友人がいない私は、母親に相談した。黙って聞いていた母の顔色が悪い。

母は「学校から、話はきてたけど」とか「いいかげん目を覚まして」とか

私の相談した内容が分かっていないのか、話にならない。

こんな事をしてる場合じゃないのに、私は彼の…。


彼の………なのに…





――――――――――――








早乙女 瞳が学校から、急にいなくなった。

留学だとか…なんとか 担任は口を濁していた。

『第二の工藤』と言われ、彼女をクラス中が傍観していた。

私、荻原 時子もその中の一人だ。

傍観して、彼女を止めようともしなかった。

まぁ…言っても止めたかどうかは分からないが…。


彼女は学校では彼の為だけに時間を使っていた。休み時間に教室にいることがなかった。

私から話しかける事なんて、彼女がいないのに出来る訳がない。

彼女から話しかけてくる事もなかった。

彼、宮元 圭吾にしか興味がないようだったから、当たり前なのかもしれない。


それよりも転校していった彼女は元気だろうか?

この間メールしたけれど、会えないと心配なものである。

久々に声も聞きたい。今日あった事を彼女にも報告しなければ…。


完璧な彼女ニセモノになれなかった彼女の事を。







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[良い点] 瞳視点・瞳の主観で語られているのに、瞳の人となり・何故女子嫌われるか等瞳自身がわかってないことまで、読者に伝わっていること。 [一言] 浮気するような男とか人の男を寝取るような女は好きじゃ…
[一言] 『人の男を横取りする女』というのは濡れ衣だった?わけですね。 恐らく悪意ある噂でそういうレッテル張られた、と。怖いな女子。 まあ、瞳視点なので >男に媚を売っているっと噂され 人の好きな人…
[一言] これは女子から嫌われても仕方ない子ですね。 自分を正当化して貴重な友人の恋人を奪った挙句、その友人が転校した後までその人が何かしたと思い込める被害者意識、自分を最低と言いながらも、奪った彼氏…
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