05 開演前の演劇部。
僕は講堂に戻ってきた。
…そこは講堂ではなかった。
これは、劇場だ。
なんということでしょう!
僅か10分経ったか経たないかの間に、機材が準備され、カーテンが変えられていた。
あまりの速さに、僕の脳内キャラがおかしくなった。
「遅いよ、羽島君。美奈子も。」
「「すみません。」」
…見事にハモった。
笑ってはいけない、しかし笑いが込み上げてくる。
…綾瀬先輩微妙に笑ってるし。
僕たちは顔を見合せ、苦笑いした。
先輩は切り替えて指示を出す。
「愛結と翔太は着付け!菜々美たちはメイクの準備して!その他は予定通り自分の担当に着いて!」
「「「「「はい!」」」」」
…うわぁ、凄いな…。
準備も大変なんだ…。
「羽島君。」
「はいッ!」
びっくりして変に裏返った声になってしまった。
「椅子を出すのを手伝ってくれない?」
…またパシりかぁ…。
「嫌ならいいんだけど…やってくれるよね?」
…怖い、先輩、怖い!
最初の上品なイメージはどこへ行ったのやら。
でもここで本音を言ったら確実にお先真っ暗…。
「はい。」
…パシり君確定。
はい、僕はなつみお姉様の下僕です!
「助かるよ、ありがとう♪」
ああ、なつみお姉様…黒い笑顔がとても眩しいです…。
そんなこんなで舞台が作られて行った。
会場のセッティングは終わった。
しかし、いつの間にか先輩は消えていた。
「綾瀬先輩、終わりましたけど?」
「じゃあちょっと待ってて。」
待つこと数分。
「お待たせ。」
着替えてメイクも済ませた先輩が出てきた。
「もうあと10分くらいで開場だから、悪いけど外で待ってて?」
―どうやら、今日は他校の演劇部を招いているらしい。
道理で外がうるさい訳だ。
「お客様係も外で待機。あ、ドアの開閉係は残ってね。」
僕が外に出ていこうとすると、
「待てよ、羽島。」
溝口の声が追いかけてきた。
「そこからは出れないぞ。裏から出ないと。」
…ああ、そうか。
お客様がたまっているのに出れないよな。
「ありがとう。」
「俺も外で待機だから、一緒に行くよ。」
溝口と並んで歩く。
「というか、何でお前ここにいるんだ?入部希望か?」
とんでもない!
入部したら僕は常に“なつみお姉様の下僕”になってしまう!
「いや、実は…」
僕は今までの経緯を語った。
「そうか…美奈子に捕まったのか…。頑張れよ。」
溝口は意味深な言葉を残して去っていった。
え、どういうこと?
入り口に回ってみると、既に列ができていた。
並んでいるのは、幼稚園から大学まである、この辺りでは有名なお嬢様校の制服を着た人ばかりだ。
…正直、ここの制服は見たくなかった。
この学校に睨まれるとなにかと面倒だから。
しかし、今はそんなことは言っていられない。
僕は人混みの中に紛れ込む。
前にいた人が振り返った。
「ごきげんよう。」
挨拶された。
「ごき…、こんにちは。」
慣れない僕は、ぎこちなく返す。
「今日はどんな感じですの?」
なんか聞かれた。
「…見てのお楽しみということで。」
適当に逃げた。
「あら、あちらの方は教えてくださいましたけど?」
お嬢様が指を指された方向には、溝口がいた。
みーぞーぐーちー!!!!!!
「す、すみません。自分は演劇部員ではないもので…。」
「あら、そうでしたの…。」
やっぱり…。
嫌な予感、的中。
僕ってこんな予感ばっかり当たる気がする…。
何でだろ…。
後日、溝口に話すと、
「それは偽お嬢様だな。」
と一蹴された。
「本物のお嬢様なら、ここには来ない。それに言葉が若干違う。『どんな感じですの?』じゃなくて『どのような感じですの?』だとおも…」
そんなもん、わかるかー!
「どうせお前のことだから、おどおどしてたんだろ?だから偽お嬢様にからかわれたんだろうよ。」
どうせ僕は、おどおど人間ですよー!
溝口に言われた通りだと思った、だけどなんか悔しくて僕はふてくされた。




