12 彼女の過去と現在。
―私は、馬鹿だった。
今からちょうど1年くらい前、私たちは、悲しみに晒されていた。
ずっと一緒に活動してきた、高等部の先輩たちが卒業しなくてはならなくなった。強制的に。
みんな最初は泣いていた。
だけど、だんだんと受け入れていった。
私ひとりだけ、受け入れる事を拒んだ。
受け入れたら、先輩たちとの別れを認めた事になる。
別れたくなかった。
別に、恋愛感情で好きな先輩ががいたとか、そういう理由ではなく、ただ単純に、手本になる人を手放すのが嫌だった。
いっそのこと、中等部も廃部になればいいのに、とさえ思うようになった。
ある日、私の不満は爆発した。
先生に、突拍子もないことを言ってしまった。
全員の顔が硬直した。
佐竹先輩が走ってきた。
叩かれた。
怒られた。
優しかった先輩のこんな顔は見たくなかった。
…それぐらい、馬鹿だった。
悔しかった。
先輩に言われるまで気付けなかった自分が情けなかった。
家に帰ってから、ソファーの上でひとり、泣いた。
明日、先輩に謝ろうと思った。
神様は、意地悪だ。
先輩は、私が謝る前に、その意識(こころ)を無くしてしまった。
やるせなさだけが残った。
先輩の残したメモには、私を気遣う内容が書いてあった。
最後まで、私は先輩に迷惑をかけ続けてしまった。
《《《死んでしまおう。》》》
そして私は、校舎の窓から、身を乗り出した…。
―結局、私に死ぬことは出来なかった。
先輩の遺言を守るためには、死ねなかった。
そして私たちは、先輩の遺言を守るために、台本を書いた。
みんな実力の限界を感じて、どんどん止めていった。
私は止めなかった。
せめて少しでも、先輩に恩返しが出来るように…。そう思って頑張ってきた。
だけど、国語の成績3の、平凡な私には書ききる事は不可能だった。
諦めたくなかったけど、9割諦めた。これ以上は、自力で書けない…。
父のツテを使って、安い作家探すかな…。
…先輩たちに話しておこう。
数日後。
父の書斎に入ってみた。
一枚の紙が落ちていた。
どうせ雑紙の袋から落ちたんだろう。
…何が書いてあるのかな。
『××小説大賞』
何かの文学作品のコンテストの結果発表らしい。
元に戻そうと思った。
手を離した。
目が釘付けになった。
そこに小さく写っていたのは、同じクラスの男子の姿だった。
「なつみ先輩!!」
私は父の部屋から拝借してきた例の紙を見せた。
「この紙見てください!この特別賞受賞者!多分、うちのクラスの羽島です!彼に頼めば…!」
「わかった。先生に話しとく…。」
「羽島君、ちょっといい?」
「あ、うん…。」
「…脚本をやってもらえないかな…?」
「ええ!?」
「今度の舞台で、他校と内容が被っちゃったの…。」
…ごめん、羽島君。これは真っ赤な嘘。
「お願い、私たちを助けると思って…」
…これは本心。
…都合よく利用するだけでごめんね…。
私は、先輩の遺言を実現させるべく走り出した。
無理矢理かもしれない。
羽島君には悪いことをしているかもしれない。
…だけど、それでも私は、何も恩返しが出来なかった先輩に、少しでも感謝の気持ちを伝えたい。
見ていてください、先輩!!
きっと成功させてみせますから!




