楽土
広大な砂漠の中に山脈があった。その谷の至る所に石窟群があった。
一体どうやって掘ったのか。ほぼ垂直の崖に、あまたの穴が空いていた。
それらはすべて墓だった。その一つ一つにミイラが座していた。
いつの頃からか。
僧侶や聖人はこぞって石窟を掘らせた。
すべての人の罪を背負い、生きながら天に召される。それこそが最高の美徳と言われた、そんな時代だった。
彼らは浄人と呼ばれ、彼らのミイラは神仏に劣らぬ信仰を集めた。
しかしそれは一時のことだった。
年に数回だけ降る雨は、谷の赤茶けた岩肌に木の年輪のような模様を残した。
それは忘れられたこの谷にも、膨大な時が流れたのだと語っていた。
富む者は贅を尽くし、石窟の壁と天井一面に召された浄人が暮らす天界を描かせた。
かろやかに衣を翻す天人。
浄人の指先から蓮の花が咲き、そこから五色の雲がたなびく。
それを伝い浄人を迎い出でる神仏たち。
ルビーの紅。
トルコ石の蒼。
エメラルドの翠。
螺鈿の虹に、真珠の幽。
塗料の代わりに宝石を砕いて粉末にしたものをふんだんに使用して。
職人達は小さな窟の中に息が止まるほど美しい永遠楽土を作り上げた。
くる日もくる日も、からりとした熱風は岩肌を撫で下ろし、日輪は谷底まで容赦無く照った。谷底の窟には砂に埋もれたものもある。
美しい壁画もひび割れ、砕け、砂に同化していった。
彼らの魂は、あの消えてしまった楽土へたどり着けたのだろうか。
赤茶けた岩肌と砂に守られ、同じく赤茶けたミイラのその眼窩にも、砂はさらさらと溜まっていた。
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