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私、ワイバーンです。  作者: ムルモーマ
α. 番外編
80/87

故郷 1

2年ぶり位に番外編を投げる。

色違いの族長が族長と一緒に、元々暮らしていた、壊れてしまった巣まで行く話。

 発端は、長年の疑問からだった。

 ウスズミ――前世が一つのワイバーンの群れを纏め上げていた長で今はフェンリルと言う狼の幻獣――が、コハク――同じく前世が一つのワイバーンの群れを纏め上げていた長で今は九尾と言う名の九つの尾を持つ狐の幻獣――に話しかけた。

「なあ、どうして俺の群れを奪おうとしたんだ?」

 互いにワイバーンだった頃、ウスズミの群れを、コハクの群れは奪おうとした。

 しかし奪う事は出来ず、また全滅する事も無かった。

 互いの群れの総力は大体等しかった。互いの群れのワイバーンは沢山数を減らし、そして族長同士の闘いも引き分けに終わった。

 追い返す事も出来ず、追い出す事も出来ず、その二つの群れは交わった。

「ずっと疑問だったんだ。この姿になってから聞こうとずっと思っていた」

 コハクは思い出しながら答えた。

「……転生しても、はっきりと覚えているよ。僕がまだ小さかった頃だっていうのに。空も満足に飛べなかった時だというのに。

 僕の元居た群れは、鍾乳洞を住処にしていたんだ。生まれてから数か月の事だけど、あの中の景色も少しばかし覚えている。入り組んだ洞窟のその中で火を少しだけつけて見える光景はとても綺麗だった。

 光る石がその炎を反射して煌めいていた。きらきらとした淡い光。とても好きだった。

 けれど、そこは、地震が起きて崩れたんだ」


 それは昼間の事だった。

 僕は外に出て、姉弟達と無邪気に遊んでいた。何の変哲もない、温かい日が差す平穏な時だった。

 そんな時、唐突に地震が起きたんだ。

 最初は、ずっ、ずずずっ、と。弱い揺れだった。何だろう? と僕は思った。純粋に、特にそれに危険は抱かなかった。

 走っていた足を止めて、僕の母さんや父さんも、そんな感じだった。

 その直後、どん! と音がしたと思ったら、さっきとは比べ物にならない揺れが体を襲って。

 どどどど、どどどどど!! って言うように、激しく地面が揺れた。びき、ばき、と鍾乳洞の入り口から罅が入る音が聞こえて、その上の山の木々もばきばきと折れる音が聞こえて、そしてそんな中、母さんと父さんが吼えた。

 母さんと父さんがすぐ近くに居た姉さんと兄さんを咥えあげると、僕達に背中を向けて、ぐっ、と飛ぶ姿勢に入った。

 どうすれば良いのか察した僕と妹が、すぐに走ってそれぞれの背中に乗って、後ろで転んだ弟が見えた。動けない兄が見えた。

 父さんと母さんは、全員乗るのを待たずして飛んだ。

 鍾乳洞から急いで出てくるワイバーン達が見えた。その鍾乳洞の入り口が崩れて、悲鳴が聞こえた。

 崩れた鍾乳洞のその上の山全体の表面が、揺れているだけじゃなくて下に向かってずり落ち始めたのが見えた。

 ずずっ、ずずっ、と山の表面がそのまま、滑るようにして落ちてきた。僕は、父さんに必死にしがみつきながら、その大量の土砂が鍾乳洞の周りへとまるで水のように流れていったのを見た。

 いつも遊んでいた場所が、逃げ遅れた皆と一緒に埋もれていくのを見た。

 短い時間の、沢山の悲鳴を聞いた。

 地震が鳴り終えて、とても沢山の土煙が舞い上がって。それが一筋の風で払われて。

 見えたのは、あったもの全てが入り混じった、その新しい地面だった。ばきばきに折れた木々が、ごろごろとした岩が、そして、それらにぐちゃぐちゃにされた、逃げ遅れた子供から成獣までの、沢山のワイバーンの死体が、そこにあった。

 その地面はどこも、何も動かなかった。地震の後は、翼の音さえも聞こえなくなるような静寂があった。

 逃げ遅れて、運良く生き延びたワイバーンは一匹として居なかった。

 そして、群れは二つに分かれた。

 ここに残ると決めた群れと、新天地を探しに行くと決めた群れ。族長は、自分がどちらに行くか、それを自分の意志ではそれを決めず、数の多かった方、新天地へと向かう群れを率いる事にした。


 母さんは、ここに残る事を決めた。父さんは外へ出る事に決めた。

 どちらも折れなくて、そして僕達姉弟も決断を迫られた。

 僕は、沢山の死体が埋まったこの場所に残るのが怖かった。何子供ながらにして、そこに溜まっているような恨みとかが感じられるようで怖かった。てい

 だから、父さんと行くことにした。僕と姉さんが、父さんに付いて行く事にした。

 妹と兄さんが残る事を決めた。

 それが、今生の別れだった。


「まだ、生まれて一年経ってない時の事なのにね。僕は良く覚えてるよ、その時の事を」

「……」

 ウスズミはそれに対して何かを言う事は無かった。

「そう言えば、僕はまだ、あの場所に残った皆がどうなってるのか知らないんだよなあ」

「……それがどこなのか、覚えているのか?」

「はっきりとは覚えてない。でも、どうやってウスズミの居る場所まで辿り着いたのかまではある程度覚えているから、そこから逆に辿れば行けると思う」

「じゃあ、行ってみないか?」

 僕は、頭の中に浮かんだ不安を振って、頷いた。

「……うん」

 どうなっていようとも、見なければ分からない。見なければ結局、この長い永い生の中、ずっと気になり続けるだけだ。

 僕とウスズミの今の父さんと母さんにそれぞれ了承を取ってから、まず、僕達は共に過ごしたあの崖へと向かった。


 別に急ぐ事も無いのだけれど、時々走って飛ぶ。翼も無いのに飛べるし、脚もワイバーンだった時より華奢なのにとても速く走れる。

 正直、何か変な気持ちというか。前の族長を食べてまで手に入れた力より、特に何もする事もなく数年しか生きていないこの体の方が強い。

 少しだけ、ワイバーンとしての生を否定されている気がした。少しだけ、けれどそれは確実に。

 途中、ウスズミがきょろきょろと辺りを見回す事が多いのに気付いて、それが気になって聞いてみると「俺はあの崖の周りでしか生きて来なかったからなあ、外の広い世界ってのがまだ、珍しいんだ」と言われた。

「根無し草で放浪を続けるよりはよっぽど良いよ」

「でも、俺には気付いたら、そうする自由も無かったんだ。外から来たお前が少し、羨ましかったよ」

 ……そうなんだ。

「まあ、今こうして外の世界を見られてるなら良いじゃないか」

「ああ、そうだな。……とても良い事だ」

「うん」

 物を食べる必要もそこまで無かったりするけれど、流石に食べないのは気持ち悪くて、ウサギとかシカとかを殺して食べる。

 ただ、まだ自分の膨大な魂を隠したりとかそういう事は出来ないから、身を潜めても何の意味も無くて。智獣が弓矢で獲物を射るように遠くから魔法を放って仕留める。

 それもそれで、緊張感はあると言えばあるんだけれど、殺した感触が自分の体に直接残らない事に少し違和感があった。

 ワイバーンだった時は、踏んだり、噛み砕いたりして殺す時の感触は必ず、肉体に残るものだったから。

 この体に慣れていないとか、そういう訳でも無いんだけれど、前の体と余りにも違い過ぎるのはやっぱり、何か変なしこりが残っている。

 いつか、それも消えるのか、僕にはまだ分からない。


 山を越えれば、僕とウスズミが長年過ごした崖が見えてくる。

 そんな時に、僕とウスズミは同時に気付いた。

「……誰か、居るな」

「うん。多分、三匹?」

「そうだろうな」

 幻獣と、魔獣や智獣との一番の違いは、肉体に内包している魂の量だ。力の源であるそれは魔獣や智獣には恐怖として感じられるし、幻獣同士でもどこに誰が居るのか、ある程度近くなら目や耳を使わなくともある程度分かる。

「誰だろうね?」

「まあ、あの群れに所縁のある者だろうけどな」

「先代の族長とか?」

「後は、逆に俺らの後世の奴等だったりな。もう、それくらいの時間は経っているだろう」

「ああ、そうか」

 頂上まで着くと、その三匹が固まって群れを眺めているのが見えた。

 それに気付いた麒麟が、恐る恐るというように話しかけてきた。

「あ、あの、もしかして貴方達は」

 ウスズミはその麒麟が何者なのか薄々勘付いたようで、目を合わせて口を開いた。

「……リエン、か」

「…………ワイバーンだった時は、本当に、ありがとうございました」

 リエンと呼ばれた麒麟は深く礼をして、それからウスズミも話を始めてしまった。

 すると、どうも暇になってしまった。

 あの麒麟はウスズミが言っていた、遥か昔から転生を繰り返していたっていう何かなんだろう。

 内包する死を持たなくなってしまった生き物。それを持ち直した、最後の生がこれまた長い永い、幻獣としての生か。

 どういう気持ちでその最後を生きるのか、あんまり想像もつかなかった。

 ワイバーンの群れを懐かしく眺めていると、残りの不死鳥と猫又がこっちにやってきた。

「貴方は……」

 不死鳥が話しかけてくる。

「聞かない方が良いと思うけどね」

 僕は先に念押しをした。

「貴方が誰なのか、私には大体想像がついてます」

「ああ、そう」

「攻めてきた、橙色のワイバーン達の族長、ですね?」

「そうだよ」

「何故、そんな事を」

 はあ、と僕はため息を吐いた。単純に、またあの時の記憶を話さなければいけないという煩わしさからだった。

 良い記憶ではない、それを。


 僕が話し終えると、不死鳥は特に何事も言わないまま黙った。多分、この不死鳥はウスズミの次の族長だろう。猫又の方は全く分からないけれど。

 ウスズミの次の族長だったこの不死鳥は、僕達の群れが攻め込んできた時も、番を守り切ったほどの実力者だったはずだ。本当に強い恨みは抱かれていないと思う。

 そんな事を思っていると、ウスズミの方も話は終わったようで、僕に聞いて来た。

「やって来たのは、あの崖の向こうからだったか?」

「うん」

「じゃあ、行こうか」

 あっさりとウスズミは言った。

「もう良いの?」

「付いて来られてもお前にとっては居心地が悪いだけだろう?」

「え、ああ、うん」

「それに、時間は幾らでもあるんだ。今、全てをちゃんと話したりする必要もないだろうよ」

「そうだね」

 想像しただけで、どれだけ時間が掛かるか。

「じゃあ、またな」

 ウスズミは皆に顔を向けてそうあっさりと言うと、空へと飛んだ。僕もそれに続いた。

それから宣伝。ぶっちゃけ言うと宣伝の為に新しく書いた。これの構想は元からあったけれど。


ドラゴンの麓で見る空々

https://ncode.syosetu.com/n3514eu/

強大なドラゴン達の元でそれぞれ暮らす眷属達の群像劇です。

小さな事から大きな事まで色んな理由がそれぞれあって眷属として暮らしている人間やら魔獣やらが、ある時から気付かない内にそのドラゴンの秘密とか色んな事に巻き込まれていく――みたいな感じになります。


世界観はこの話からウン千年後という設定があったりするけれど、裏設定みたいなものだしここで言っちゃう。


こっちの話の続きは、そのドラゴンの話の節が出来る度に投稿して行こうと思ってます。

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