誇り
今更の、ちょびっとだけの+α。
母の話。
灰色の空。私が片目で最後に見る空はそんな、私の体色と似た色だった。
多くの透明な水を含んだ雲の色。何でそんな色になるのか、どうしてそもそも水は透明なのに、雲は白いのか。結局、最後までそれは分からなかった。
そんな雲とは別に、私の体はもう乾ききっていた。
番は今、どうしているのだろう。考えるまでも無かった。私より一足先に、死んでしまっている。
……。
…………。
帰って来なかった。いつまで経っても。私が老いを感じる頃になっても。私が空を飛べなくなっても。私が何の役に立たなくなっても。
私の番は帰って来なかった。
残ったのは私の誇らしい、たった一匹、最後まで生き残った娘だけだった。
生まれた時から変わった娘だった。妙に賢く、妙に強かった。
ただ力が強かった兄とは違い、弱かったが芯があった兄とも違い、ただ狡かった兄とも違い、何の変わった所の無かった兄とも違い、帰って来なかった事が最も残念だった、心も体も強かった姉とも違かった。
そして、今まで生まれてきた、死んでいったどのワイバーンとも違かった。
生き残るかどうかは微妙だと思っていた。
けれど、最後まで生き残ったのはその末娘だけだった。
強いだけじゃなく、変わっている程の賢さがあったから、生き延びたのだろう。
死ぬ間際の今でも、あの時の事は鮮明だった。交尾の時の番の息遣い、肌の感触、雄の猛り具合、絶え間ない、何よりも満たされる悦び。
子が腹の中で育っていく期待の感覚。産んだ時の何とも言い難い嬉しさ。
生まれ、育っていく時の混ざった感情。
崖から落ちて行く兄。対称的に思い切り空に飛んだ兄。
二足の犬に負けて、行ってしまった番。
友を喪って何度も泣き叫んだ、末の妹。正直意外だった、生き残った末の兄と、生き残らなかった姉。
たった一度きりの子育て。その時はまだ、三匹、生き残っていた。
そして、番と死んでしまった兄。ただ、番も得ずに死んでしまった兄。
片目を失い、一時期どこかへ消え、いつの間にか帰って来た時には、その目を何故か取り戻していた、唯一生き残った末の妹。
そして、族長の番の一匹とまでなった末の妹。
……私は、血を繋ぐ事が出来た。辛うじて一匹だけを繋いだ末の兄と、族長と何度も子作りをした末の妹。私はこれから死のうとも、私の全てが無くなる訳じゃない。
私は、繋がって行く。番も、死んでしまったのだろうとは言え、番も繋がって行ったのだ。
私は、父と母の血を受け継いでも、生き残ってもたった一度しか子を作る事が出来なくとも、私は、消える事は無かった。
たった六匹しか産めず、そして試練が余計に一回あっても、受け継いだ血が生き延びた。娘は生き延びてくれた。更に、族長の番とまでなった。
それは、誇りだ。私にとって、何よりも大きい誇りだ。
それだけで私は、これからも頑張れる。
死んだ後、私はどうなるのか。どこかへ還るのだと思う。私の肉体は土に還り、木々を育てる。育った木々は獣に食われ、それを私達が食べる。巡り巡る。
そして肉体とは違う、私の何かはまた、土とは違うどこかへ還るのだと、体のどこかが知っているような気がした。
どこかへ。
死んでいった皆が、誰しもが平等にそのどこかへ行くのだと。
きっと、それも肉体と同じように巡り巡る。番とも、もしかしたら会えるかもしれない。もしかしたらまた、巡った先で番になれるかもしれない。
そして、私が死んだ後も私の血は生き続ける。
ずっと、ずっと、私が生きた時間何て比べものにならない位に。
だから、もう、私は何も要らない。血を残してくれた末の兄と妹には感謝しかない。
出来れば、また番に会いたかったとは思うけれど。
願えるのなら、私が還った後また、番と会える事を願いたい。
……。
…………。
………………………。
空を見上げた。相も変わらず、灰色の曇り空だった。
私が森の中に入れば、もうこの曇天だけの空は見れない。
それは誇りだった。
一応、まだ書ける話はある事はあるけど、(今自分が書いてたり、この先書く話が芳しくない事がずっと続かない限り)書かないと思う。




