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私、ワイバーンです。  作者: ムルモーマ
1. 私が成獣するまでの物語
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7. コボルトが来た

 秋が本格的に来始めていました。夜はまた寒くなり、私達兄妹は身を寄せ合って寝ました。私の父と母も身を寄せ合うようにして寝ているのですが、それは寒いから、という訳ではないようでした。

 成獣になる頃には、この位の寒さならへっちゃらなのでしょう。


 私達の体は、日に日に大きくなっていました。けれどもそれで変わった事と言えば、食べ物の量が多くなった事と、父母が私達を巣である洞窟に戻すのに、二回往復しなければいけなくなったという事だけでした。

 まだ、炎も吐けませんし、尻尾からも毒針は生えません。勿論、空も飛べませんでした。滑空が出来るだけでした。

 いつになったら飛べるのだろうと、私はずっとわくわくしながら、半ば苛立たしくも待っているのでした。兄や姉も、そして他の子供のワイバーンも皆も同じだと思います。

 外に出る時には、滑空だけではなく飛ぼうとしているワイバーンを見かけない事はありませんでしたし、下に降りたら降りたで、助走をつけて飛ぼうとしているワイバーンも沢山いました。私も例外ではありませんでした。

 しかし、やはりそれ以外は大体同じでした。私は毎日オチビに喧嘩を仕掛けられ、勝ち続けました。その後、一緒に遊ぶ事が増えましたが。

 後、脚力も更に強くなって行動範囲も増したのですが、まだまだ川までは行けません。行ったとしても、行って帰るだけでその外に居られる時間は殆ど使い切ってしまうでしょう。

 そんなある日の事でした。

 朝早くに来客があったのです。


 来客は所謂、智獣と呼ばれる部類の二足歩行の知能を持つ獣達でした。元々は犬や狼だったであろう、二足歩行の獣です。

 要するに一般的にはコボルトと言われているであろう種族でした。彼らはワイバーンを連れてきていました。そのワイバーン達は全て老いていたり、どこか怯えているような様子で、多分戦えなくなってしまったから返す、という事なのだと私は思いました。

 私達兄妹は、それを洞窟の入り口に並んで見ていました。他の洞穴からも、子供が沢山顔を覗かせています。

 成獣のワイバーン達はと言うと、行動はまちまちでした。例えば、父はコボルト達の近くに身を降ろして立っていましたが、母はかなり後ろで飛びながら様子を見ていました。

 他にも、洞窟から子供と同じように見ているだけのワイバーンも居ましたし、無視して川で遊んでいるワイバーンも居ました。

 コボルトの方は、数は大して多くはありません。百は絶対に居ませんでした。彼らは武器を持っていましたが、槍や山刀等だけで、それ以外は大したものは持っていませんでした。弓矢を持っているコボルトは少なかったのです。……私はコボルトだったのでしょうか? コボルトは飛び道具を持っているのが普通だという知識は私の中にあり、しかしそれをおかしいとも思っていませんでした。要するに、これから起こる事を私は知っていました。

 これから起こるのは、一種の儀式です。

 コボルト達は戦場に立てなくなったワイバーン達を元の群れに返し、新たにワイバーンを得ようとしているのです。

 コボルトはワイバーンに自らが持つ力のみで、一対一で戦いを挑みます。ワイバーンはそれに全力で応え、戦います。そして、ワイバーンが勝てばコボルト、要するに挑戦者は死に、コボルトが勝てばワイバーンはコボルトに仕える事になります。

 また、ワイバーンを使い物にならなくしてはいけないので、使われる武器は刃引きされたり、ある程度の厚さがある布で覆われている事も私は知っていました。

 そして、近距離で戦わなくてはいけない事は明白です。弓矢何て大して役に立ちません。


 コボルトは今まで仕えさせてきたワイバーンを後ろに並べ、きちんと姿勢正しく並んでいました。その前では、ワイバーンが静かに、けれどもバラバラに立っていました。

 コボルトの一人が前に出て、頭を下げました。ワイバーンも一頭が前に出て、同じように頭を下げました。コボルトの方は今、前に出た方が族長だと分かったのですが、私は今、このワイバーンの群れにも族長が居るという事を初めて知りました。今、前に出ているワイバーンが族長だと言う証拠は全くありませんでしたが、私にはそう思えました。

 コボルト達は今まで世話になったワイバーンに何かを飲ませてから、首元で何かの作業してから、頭を撫でました。きっと、首元での作業はこれが自分達のワイバーンであるという証明の取り外しの作業だろうと私は知っていました。

 ワイバーン達は頭を撫でられた後、コボルト達が退いて誰も居なくなった草原を歩き、私達の群れへと帰ってきました。

 酷く疲れたように歩いて来るワイバーンも居れば、久々の仲間の方へ走って行くワイバーンも居ました。私はもし誰かを乗せて戦う事になるとしたら、前者のように終えたくはないな、と思いました。


 ワイバーン達が、旧友との再会を楽しんでから少しの時間が経った後、場は自然と静まり返って行きました。

 とうとう、始まるのだと私は直感しました。

 ばさっ、ばさっ。ひゅるるるる。

 上空から見守るワイバーンの羽ばたく音と、風の音以外、何も聞こえませんでした。

 私に見間違えが無ければ、ワイバーンの族長とコボルトの族長が一定の距離まで近づいて行きました。

 双方がにらみ合っている内に自然とワイバーンとコボルトによる輪が出来ていきました。

 そして、戦いの儀式は唐突に始まりました。


 コボルトが持っていた武器は、槍と山刀です。槍は先が刃ではなく、白く丸い石のようなものになっていました。山刀は、少しだけ湾曲している平べったい長刀でした。

 コボルトはまず、槍を突き出しました。ワイバーンの方はそれを後ろに跳んで躱します。コボルトはそれに追撃しようと走り、ワイバーンは体を丸めて更に後ろへ倒れました。尻尾が股に入っていたのが見えました。

 コボルトは何故か、そのワイバーンに対して真直ぐ走るのを止めて横へと飛びました。何だろうと、私は思いましたが、ワイバーンには毒針という飛び道具がある事を思い出しました。

 きっと後転しながら毒針を飛ばしたのでしょう。

 更に、ワイバーンは後転が終わる前に体を一気に回転させて、その体躯全てを武器として、自分の体勢を立て直すと同時にコボルトを寄せ付けようとしませんでした。

 位置は変わったものの、両者はまた同じ距離を保ったまま立ち合いました。

 そして今度はワイバーンが仕掛けました。息を吸い込みながら尻尾をコボルトへと向けました。毒針を飛ばしたのでしょう。コボルトは槍を捨て、山刀を手に取りその毒針を弾いたように見えました。

 息を吸い込んでいるのは火球を放つ準備です。

 槍で距離を置きながら戦うより、至近距離で倒した方が良いと踏んだのでしょう。火球も至近距離で躱せれば、その放つ時に出来る大きな隙を突く事が出来ます。

 ワイバーンは後ろへ下がりつつ、毒針を何度も放ちます。コボルトはそれを弾いたり躱したりして、すぐに距離を詰めました。

 しかし、距離を詰められたワイバーンは火球を放ちませんでした。その代わりに、ここまで強く響く雄叫びを上げたのです。グアアァァッ!!

 周りで見ていたコボルトは思わず耳を塞いで体を縮こまらせ、ワイバーンも頭を地面へ付けてその声から逃げようとしました。

 そして戦っていた族長のコボルトは、その雄叫びを誰よりも間近で聞いて、耳を塞ぐ前に体の何かが狂ってしまったように見えました。

 雄叫びが終わった直後、コボルトは重心が定まらないようで、ふらふらとしていました。立っているのもやっとなのでしょう。けれども、諦める意志は微塵も感じられませんでした。

 山刀を握る手はまだしっかりしているのが見て取れたからです。

 ワイバーンはコボルトに歩いて近付いて行きました。ワイバーンもその窮地に立たされたコボルトを警戒しています。もし、不用意に近付いたら強い一撃を食らってしまうでしょう。

 ワイバーンは、コボルトの平衡感覚が戻る前に動きました。さっきも見たような、体を一気に強く回転させ、全身を武器とした攻撃です。

 遠心力によってワイバーンの長い尾が大きい円を描き、いきなり放たれたその攻撃を、ふらついていたコボルトは避ける事も受け止める事も出来ずに一気に吹っ飛びました。山刀を尾に当てようとしたのが微かに見えましたが、意味は為さなかったようでした。

 コボルトの体は闘いの円の中を一直線に飛んで行き、何度かバウンドしてその後にごろごろと転がり、観戦していたワイバーンの足にぶつかって止まりました。山刀は未だに手にありましたが、刃がへし折れているのが見えました。

 そのワイバーンや同じく周りで見ていた他のワイバーンやコボルト達は、そのコボルトから離れます。

 決着はどう見ても着いていましたが、コボルト達は族長を助けようとはしませんでした。これから行われる事も儀式の中の事なのでしょう。

 勝者である同じく族長のワイバーンは歩いてコボルトの真正面で止まりました。もう、警戒はしていませんでした。

 ワイバーンはもう一度雄叫びを上げました。ウルラララッ。先ほどのような耳をおかしくするような大きさはありませんでしたが、それはとても雄々しい声でした。

 そして、勢い良くワイバーンはコボルトの頭に齧り付きました。

 一瞬の痙攣の後、コボルトの体はだらりとしました。ワイバーンは首を力で引き千切り、頭を失ったコボルトの体は血を勢い良く噴き出しましていました。頭を噛み砕き、飲み込んだワイバーンは、残りのそれをご馳走のように、そしてやはり儀式のように勢い良く血を飲み、食べ始めました。厳しい儀式だな、とかそういう事よりも、私は美味しそうだなあ、と最初に思いました。

 周りのコボルト達はワイバーン達と同じくただ、それをじっと見ていました。ここからは距離が遠くて流石に表情までは分かりませんでしたが、何となく私にはその感情は分かる気がしました。

 あくまで、何となくでしたが。


これからは、ある程度は5で割って1余る日に投稿しようと思います。

要するに、1、6、11、16、21、26、31日に投稿します。時間は不定で。

平均2000文字/日なので、その位でないと章が終わった時とかは間に合いません。

蛇筆ですが、すみません。

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