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私、ワイバーンです。  作者: ムルモーマ
4. 私の物語
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16. ドラゴン

 僅かな物音でも起きられるような浅い眠りに就くのを見て、ツイももうすっかり旅に慣れたのを実感しました。

 明日、帰路に着きます。

 もう、ここに居る必要はありません。何もする必要もありません。

 私の記憶にあったこの場所は、私のこれまでの生を記録して来た場所であった、という事が分かっただけで私は満足していました。

 帰路に着く事が分かれば、ツイは私を尊敬してくれるでしょうか。

 ただ、死ぬ前に疑問を晴らしに行きたかっただけなのです。満足したかったのです。

 アカと母を喪った事に対し、一旦距離を置きたかったというのもありますが。

 そうとは分からなくとも、元から礎になる事から逃げるつもりは無かったと分かって欲しいという願望はありました。

 だからでしょうか。

 帰る事には期待もありましたし、少し不安もあります。

 そんな変な緊張があって、私はどうも眠りに就く事が出来ませんでした。

 一旦私は、起きて少し辺りをぶらつく事にします。

 ツイが起きた私を眠たげに見ましたが、大した事はしないと察するとまた体を丸めて眠りに就きました。


 元々住処があったであろう、小さな跡地で私は腰を降ろしました。

 月は半分だけ顔を見せていて、青から赤へと色を変えて行っていました。

 ここで、私は暮らしていたのでしょうか。遥か昔も、今のように月を眺めたりしていたのでしょうか。

 そんな事をぼうっと思っていると、次第に眠れるような気がしてきました。

 自分の中でけじめが付いた、という感覚が、確固たるものではなくふわりとしたものではありましたが出来ていたのです。

 もう、私は満足していました。

 そうして立ち上がってツイの方へ戻ろうとすると、ざっ、ざっ、と足音を響かせて、一人、いや、一つが私の隣に同様に腰を降ろしました。

「……満足したのか?」

「ええ」

 ドラゴンは、続けました。

「私に頼めば、やってくれない事も無かったんだがな。あいつも私の事を重く見過ぎてる」

 ……あいつ?

「……でも、貴方はいつもどこに居るか分からないじゃないですか。いつも姿を変えて。

 それよりも、あいつって誰ですか?」

「探す努力をしてくれればその内こっちから現れるつもりだった。

 確かに、私は智獣や幻獣、魔獣に対しても力を貸す事はしないが、一つの生命の軽い願い位は叶える事もある。

 死ぬ前に鱈腹飯を食いたいとか、子供だけは生き延びて欲しいとか。私が気紛れに歩いてた場所に居た生物にしかやらないが、その位は引き受ける。

 大して長く生きられる器を持っていないのに、長く生きてしまった君の願いだって、私を探してくれれば叶えるつもりだった。

 それと、あいつの件に関しては、どうせ後一回、君には来世があるのだからその時に知った方が良い。今知ったとしたら、君には不幸しか訪れない」

「…………そう、ですか」

 理由は分かりませんが、従った方が良いのでしょう。

 ドラゴンの言う事に、意味の無い事何て無いですし。

「それと、助言を一つ、言っておこう。

 後、八だ。それだけで、分かるな?」

「……ええ」

 その数は後、私が食べなくてはいけない智獣の最低の数だと思えました。

 その後、私は言いました。

「質問、良いですか?」

「何だ?」

 そう聞き返すように言っていますが、私の心の中も既に読んで、知っているかもしれません。

「貴方は、そんなに永い時をたった一人……一つ?」

「一つ、で良い。私自身、その一つとして生きている自覚は無いが」

「ありがとうございます。

 ……一つとして生きて来て、寂しくないんですか?」

 魔獣とも智獣とも、幻獣とも根本的に違う、たった一つとして、私よりも遥かに長い期間生きて来た生物という括りにも入るかどうか曖昧な個体。

 気に入っている姿はあるものの、決まった姿は持たない。

 何よりも強く、唯一魂を無理矢理操作出来る程の力を持つ。

 それがドラゴンです。

 その問いに、ドラゴンは即答しました。

「私にも友達は居る。私よりも凄い者も居れば、私よりも矮小な者も。

 意志疎通も出来る。

 ……会いに行く事は出来ないが、私は孤独ではない」

 はっきり言って、それは意外でした。

 ドラゴンよりも凄い個体が居る。ドラゴンよりも矮小な個体が居る。

 確かに、それは当たり前ではありますが。それらと会話が出来る、意志疎通が出来るとは私も知りませんでした。

 そう驚いていると、ドラゴンは呟くように言いました。

「……恨んでは無いのだな」

 反射的に、私は聞いていました。

「何をですか?」

「四つ目の方法、私に頼むという方法を、君のみならず私自身が知っていながら、私が手を差し伸べなかった事を。

 それ程に、その永遠に対しては苦悩していると思っていたが」

 私は、少しの間考えてから、言いました。

「……その四つ目の方法は、私にとっては神頼みに等しかったのです。

 貴方が神、と言っても普通の生物には差し支えないですし。

 その方法はあると知っていても、頼る気はありませんでした。……頼られる気も、多分無かったと思います。

 結局、これは私自身がやってしまった事なのだろうと、記憶のどこかで私は知っていました。

 私が自分で自分をこんな事にしてしまったのですから。それは私自身が解決しなければいけない事でしょう」

「……そう、か」

 暫くの間、静寂が訪れました。

 赤くなった月を見ながら、そこにも居るのだろう、と思いながら。

 そして、ドラゴンはまた言いました。

「だが、礼を言うべき相手は居る。

 来世で思い出したら、礼は言っておくんだな」

「はい」

 返事をしながら何となく、もうドラゴンはここには居ないと思いました。

 姿を見なかった事を後悔もしましたし、それで良かったとも思いました。


「……ヴ……ア゛-、アー」

 喋る事ももう、出来なくなっていました。

 本当にドラゴンがここに来ていたのか、それともドラゴンが私に夢でも見せていたか、本当にただの夢だったのか、私には分かりません。

 本当にその会話の時間は、振り返ると夢のような心地の中であったように思えるのです。

 喋れない私が喋れている事に疑問を抱いていなかった事も、格が違いすぎる相手に、ただの敬語で普通に喋っていた事も。

 しかし、信じるに値するとは思いました。

 夢だと思うには記憶は鮮明に残り過ぎていましたし、それは本物だという事も私はどこかで分かっていました。

 後八人、私は食べれば良い。そうすれば、この永遠から逃れられる。

 ……本当の死を迎える、というのはやはり、辛い事でもありますが。

 姉さんの事を思いながら、これまでどのようにして生きて来た想像してみながら、それでも完全なる死を迎えたいという思いが完全に確固たるものではないのです。

 死は、拒絶するものです。そしてまた、受け入れなければいけないものです。

 ただ、私はあの族長のように受け入れる事は出来ないと思えました。こんな魂を持つ羽目になった身としては、当然なのかもしれません。

 終わりたくない。

 そんな心境は、終わりを迎えられると思う時、常に心のどこかにありました。

 しかし、覚悟は本当にしなくてはいけません。もう、私はあの群れでこの永遠の生に終止符を打つと決めたのです。

 幻獣に転生して、終わりを迎えると。

 歴代の族長達のように、そして年老い、何も出来なくなったワイバーン達のように、最終的に次の代への礎となって死ぬと決めたのです。

 堂々と、次を担う子供達に殺される覚悟をしなければいけません。

 決めたとは言え、覚悟はまだ、余り出来ていません。

「ヴー、アーッ……」

 もう一度、もう喋れなくなっている事を確認してから、私は立ち上がりました。


-*-*-*-


 狩りをして、口周りに付いた血を舌で拭ってから私とツイは来た道を戻り始めました。

 ツイは、そこでやっと、私がただここに来たかった事を理解したらしく、それでもまだ私が本当に群れに帰るのか疑問があるような目で私の方を見てきました。

 まだまだお預けか、と私は落胆しました。

 ここまで来るのに、大体二十日間から三十日間位はありました。

 その時間、また待たなければいけないとは少し悲しいものがあります。

 その位信用してくれても良いじゃないか、と私はツイを見る度に暫く思っていました。


 争いが起きている場所の近くを少しだけ通り、ツイが目を離せないで居るのを急かしました。

 リザードマンが今度はワイバーンに乗って追い掛けて来て、仕方なく翼の片方を破ってワイバーン毎墜落させると、ツイがそんな私に困惑しました。

 いつの間にか鉤爪が元に戻っているのに気付き、ドラゴンがやったのだろうと何となく思いました。

 盗賊に襲われている智獣の商人達を見て降り立つ事にし、盗賊を皆殺しにしてツイにも智獣を食べさせました。保存食用の噛みごたえのある肉を智獣の商人から貰って食べ、それからまた、盗賊の金品を袋に詰めて首に引っ掛けて持って行きました。

 ツイは、何故そんなものが必要なのか分からないまま、大事そうにそれを持つ私を不思議に見ていました。


 海の匂いが見えて来た所で、私とツイは海沿いの見晴らしの良い場所に行く前に降り立ちました。

 ツイに番が見つかれば良いな、とも思っていたのですが、流石にそうはいかないようです。

 ワイバーンに関して、群れで暮らすのが多数なのか、それとも今の私達のようにぶらぶらと生きるのが多数なのか、私は知らないのです。

 ワイバーンは戦争で使役されているのと、後リザードマンの相棒としてしか見ていませんでした。

 もしかすると、ワイバーンと言う種は数が少ないのかもしれません。

 魔獣の中での空の王者とも言えるであろう種としては、それで丁度良いのかもしれませんが、母親としては死ぬ前にツイに番が出来れば良いな、と結構思っていました。

 ツイはそんな私の心情何て知らずに、むちむちと猪の肉を食べていました。


 早朝から高く飛んで海を越え、飛鮫に襲われる事無く無事に私達はこの大陸へ戻ってきました。

 港町ではその飛鮫さえもが狩られて市場らしき場所に並んでいるのが見えます。

 魔獣としては、弱い方です。いや、陸に出て獲物を襲うにしては弱いのでしょう。

 普通の獣なら難なく狩れるでしょうが、道具を使い、魔法を使う智獣を襲うのにはその能力では不足しています。

 攻撃方法は噛みつきだけ。腹を攻撃されれば肋骨が無い為容易に死ぬ。唯一の攻撃方法は一撃必殺とは言え、流石に足りません。

 素直に海に潜っていればいいのに、と私は獲物になってしまった飛鮫を見て思いました。

 そして私はそこに金品の入った袋を落としました。あちらの大陸とは違い、種類数多な智獣達がそれに近寄って中身を確かめます。中身が確認された所で私はそこに降り立ち、魚の入った籠を一つ足で掴んでさっと持ち去りました。

 帰る前にやりたかった事はそこそこあるのですが、一つにその海の魚を食べる事がありました。

 それの為に金品は必要だったのです。海で狩りは出来ませんし、本当に無言で持ち去ろうものなら智獣から攻撃をされるかもしれませんし。

 金品があったとしても攻撃はされたかもしれませんが、可能性はぐっと減ると見込んでいました。

 そして上手く行きました。少し運任せの部分もありましたが、上手く行ったなら良しとしましょう。

 ツイは、何か良く分からないまま私の奇行を眺めていましたが、ただ、それを見てから私は真似しない事を願いました。

 一旦ツイを置いてからやれば良かったと、今更になって後悔しました。

 まあ、海の魚を食べられる期待感にすぐに掻き消されたのですが。

遅れた理由:

友達と4時半までスマブラやってた。頭痛が痛いと、頭痛がする時に無意識に言ってる事があるこの頃。

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