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私、ワイバーンです。  作者: ムルモーマ
4. 私の物語
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13. 些細な事柄

 試練が行われている森を見ないようにしながら飛んで行き、山脈へと向います。

 海を越える必要があるのですが、その距離はワイバーンなら飛んで越えられる位の距離だったような気がしました。

 問題はこの場所がどこなのか、という事だけでしたが、それももう解決していました。

 泥棒狩りをもう二十年以上も続けて来たその中で、私は広い地理を記した地図をその泥棒から見つけた事があったのです。

 それは私の断片的な地理の記憶を繋げ、何か所かの、きっと私が前世で長く過ごしたような場所を思い出すに至りました。

 私が今からする事は、智獣の娯楽である旅行みたいなものでしょう。

 行先も分かっていて、行き方も確立しています。安全はありませんし、目的も娯楽では無いのですが。

 ……いや、娯楽みたいなものかもしれません。

 薄く掛かっている雲の中を進み、すぐに私は稜線に辿り着きました。

 一旦、私はそこで着地して、一息吐きました。


 確実に私は衰え始めていると、自分の疲労具合を感じて思います。

 ただここまで来ただけなのに、僅かながら私は疲労を感じていました。気力で補える程度の疲労ですが、そうであるとしても私の限界は狭まっていると言えます。

 体にはまだ特に何も変化は無いのですが、これからきっと、私も本当に老いていくのでしょう。

 皺や染みが付き、更に弱っていき、そして空も殆ど飛べなくなっていくのでしょう。

 嫌だとは思いますが、拒絶するような気持ちはありませんでした。若返りたいとも思いませんでした。

 もう一度、私は息を吸って吐き、雪が僅かに積もりつつある地面から顔を上げて前を向きます。

 これから私が行く方には雲は掛かっておらず、静かな森がずっと地平線まで、数十年前と同じように広がっていました。

 ……四つ目の、ドラゴンに頼むという方法が何故ほぼ不可能なのか。それは、私の異常が小さ過ぎるものだからです。

 この森の一つの木が病気になり枯れるとしても、誰も助けないように。

 ある種の生物が絶滅に瀕したとしても、ドラゴンは動きません。

 自分自身の事も良く分かっていない、この星で一番の力を持つドラゴンは何にも力を与えないと決めているのです。

 私が不死になった方法は誰にも広めていないという事は私自身覚えていましたし、広めたとしてもその方法を出来る智獣は極僅かでしょう。

 私という一つの生命に対して何かしてくれる何て、有り得ないとしか思えないのです。

 そもそも、変身も出来るそのドラゴンがどこに居るのかという事も、殆ど誰も知らない事なのですが。


 飛び立とうとすると、後ろから羽ばたく音が聞こえ、私は振り向きました。

 ツイが、私の方を失望するかのような目で見ていました。

「ヴルァッ!」

 逃げようとは思っていないのですが。

 伝わりはしないでしょう。また、戻って来るつもりだとは。

 ツイは本気で私を戻しに掛かろうとしていました。親が逃げる何ていうのは嫌なのでしょう。

 ただ、まだ私の子供達全員は、私に勝った事はありません。

 智獣を食らい続けて来た私よりも上に居るのは、単純に私よりも戦いの才能があり、智獣もそこそこ食らっているワイバーンか、族長のみです。

 ツイの戦いの才能は私と同程度でした。しかし、ツイは智獣を一匹も食べていませんし、私よりも喧嘩、戦いの経験も少な過ぎます。

 まだ僅かながらしか衰えていない私は、負ける事はありません。

 ツイは私が動かないのを見ると、空中から馬鹿正直に首筋に噛みつこうとしてきました。

 戻せないなら、殺すのも厭わないとでも思っているのでしょうか?

 成長していくのを見ていると、ツイの性格は自分が正しいと思った事は絶対に正しいと思うような節があるように思えました。

 一言で言えば、傲慢です。

 そんな性格が災いしてか、十歳を超えた今でもツイには番が居ませんでした。

 私は首に噛みつかれる直前、体を伏せてその噛みつきを躱します。腹の下に潜り込む形になり、目の前には尻尾の先の毒針がありました。

 体を捻ってそれも躱し、ツイは地面すれすれからまた上空へと飛びました。

 次は火球と毒針が飛んで来ましたが、私にはどう動けばそれら全てを回避出来るか、完璧に予測出来ました。

 沢山智獣を食べた私は、複数の動く物を正確に捉える事さえ容易な事となっています。

 全てを躱すと、ツイはすぐに焦りを見せました。

 殺すつもりで攻撃をしているのに、全て躱されたらそうなるでしょう。毒針と火球も容赦なく急所目掛けて狙って来ていましたし。

 すると、次にツイは地面に降りて翼腕を前に出して防御の姿勢を見せながらゆっくりと近付いてきました。

 カウンターでも狙っているのでしょうか。

 全部見切られるなら、先に攻撃させてしまえば良いとでも?

 まあ、悪くは無いと思うのですが、こう見え見えだとこっちも困ります。私には殺す気何て無いですし、戦うつもりも余り無いですし。

 十分近付いて来た所で、何も反応しない私に対して歩みを躊躇ったその瞬間、私は毒針を数本飛ばしました。

 ツイは全てを弾けずに、一本の毒針を腹に受けました。


-*-*-*-


 数日間、私はツイを連れて飛びました。

 稜線にて、動けなくなっても私を睨み続けるツイを見て、私はツイを連れて行く事にしたのです。

 放っても付いて来ると思ったのが一番の理由ですが、もう一つの理由として、外でツイの番が見つかれば良いと思ったのがありました。

 常にずっと、ではありませんが今もツイは私の方を睨みながら付いて来ています。

 初日は何度も何度も、それはもう、私を遠くに行かせないかのように私に攻撃を掛けて来たのですが、結局それは、全部を軽くあしらっていると逆立ちしても敵わないと分からせる結果になるだけでした。

 なので、二日目からは偶に仕掛けて来るとは言え、頻度はとても少なくなりました。

 巣穴以外の場所で夜を過ごすというのに慣れてなく、寝不足らしかったのも一つの要因らしくありましたが。


 まず寄り道でドラゴニュートの所に寄ろうと思ったのですが、それは帰りにしようと決めました。

 そもそもあのドラゴニュートがまだ生きているのか、そしてロはまだそこに居るのか、それは分かりませんが、確かめるなら帰る時の方が良いと思ったのです。

 そして数日間、下を馬車が通る事や、魔獣に乗った智獣を見る事はあれど衝突はせずに、順調に下の道を辿って進んでいきました。

 地平線の先からあの町が見えて来て、久々に私は頭痛を覚え、一旦降りる事にしました。


 あれから二十数年間か、三十年以上かの年月が過ぎました。

 それでも昨日の事のように思い出せます。忘れる日は本当に今までなかったのですが、やはり驚きでもありました。

 ずきずき、と私の頭が一層強く痛みました。私にとって、もうあの町自体がトラウマのようになっているのかもしれません。

 この、町からやや離れたこの場所で隠れている事さえも辛い感覚がしました。疲労もあり、体にも堪えてきます。

 そんな私を、ツイが変な目で見ていました。心配しているかどうかが分からないのが残念ではありますが。

 きっと帰ると決めるまで、ツイは私の事を母親として見てくれないのでしょう。

 ……もう、夜が近付いて来る時間です。

 この町を境に北西に進んで行きます。そしてきっと、十日間位飛び続ければ海に辿り着きます。

 このままさっさとこの場所を去りたい気持ちが強くありました。しかし、ここから先は私は行った事はありません。

 一旦少し戻るのも、ツイの事を考えると余りしたくありませんでした。

 ここから先は、少し慎重に行きたい。けれども、ここには留まっていたくない。

 町の中に入る何てもう、私にとっては論外の選択肢でした。ファルとの約束を果たしていないままで、少しそれは心残りではあったのですが、それを含めても論外でした。

 私は少し悩んだ末に、ここを越えてしまう事にしました。

 一つだけ、確かめたい事を確かめてから。


 ……とは言え、確かめたい事はもう予測が付いているのですが。

 魔獣を家畜のように扱っている職業は、今でもあるのか。

 それは、智獣を乗せて走ったり飛んでいる魔獣を見た時点で、落胆しながらも理解しました。

 元々、頭を殺したとしても、そこで働く智獣達を沢山殺したとしても、需要があるものを無くす事は出来ないとも分かっていました。

 でも、綺麗になくなっていればと希望的に思っていました。

 姉さんを殺した翌日のような強く響く頭痛を我慢しながら、私は町の上空を飛び、下を眺めました。

 篝火が焚かれ、所々が強く光っています。智獣の何人かが私とツイの方を見て指を指しているのも見えました。

 そして、私は檻があった方に目を向けました。

 予想通り、残念ながら檻はそのまま存在していました。智獣がどこかから取って来た肉を檻に投げ入れるのも見えました。

 ああ。本当に、私のした事は何にもならなかったんだな。

 一発だけ、私は肉を檻に投げ入れていた智獣に向けて火球を放ち、町の上を通り抜けました。

 火球はそこまで届かず、途中で燃え尽きて消えました。

1日投稿間に合った。

やっぱ16じゃ終わらないなぁ。

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