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私、ワイバーンです。  作者: ムルモーマ
1. 私が成獣するまでの物語
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5. 気になる行方

 秋を迎える頃、やっとマメが外へ出る事となりました。マメは今でも体格は兄妹の中では一番小さかったのですが、いつも骨を齧っていた性か、噛む力は私達の中で一番強くなっていました。肉に食らいつけたらもう、他の全員が諦めるか、それか肉が引き千切れるまでずっと齧り付いたままでしたから。もし、本気で殺すつもりの喧嘩をするとしたら、マメに噛みつかれたら一巻の終わりでしょう。まあ、それ以外はそれと言った強さも無いのですが。

 母はマメを外へと連れ出しに、大きな鼻で優しく突きました。マメはその瞬間、ぱっと立ち上がって崖へと走り出しました。

 表には出していませんでしたが、自分だけ外に出られないというのはマメにとっても大きなストレスとなっていたようでした。きっと、耐えている時間が誰よりも長く、肉も満足に食べられなかった分、私よりも遥かに溜まっていたのでしょう。

 母は慌てて追いかけ始めました。どすどすどす、と大きな音を立てながら洞窟の入り口付近で寝ていた父を飛び越えて、ちょこちょこと崖に走っていくマメに追いつきます。

 きっと皆、マメも崖の縁で止まるだろうと思っていた筈です。五匹の内、私を含む四匹の兄妹が無事に飛びましたが、全員飛ぶ前はその高さに怯えていましたから。母もそう思っていたと思います。父は、母が跳び越えてもぐっすり昼寝を貪って目を覚まさなかったので知りません。

 また、それに加えてマメは自分から喧嘩を挑む事も無く、噛む力は強いとは言え、兄妹の中では今でも喧嘩は一番弱かったのです。度胸もそんなに無いと思っていました。

 しかしマメは走ったまま止まらずに崖からジャンプして、誰よりも翼を華麗に広げて空へと消えていきました。母は崖の縁で止まりました。母の口は驚いて開いていました。私の口も開いてました。ふと、周りを見ると一緒に遊んでいた姉さんやハナミズ、ノマルの口も開いていました。

 母は我に返ると、急いでマメの後を追って翼を広げて飛び出しました。

 私達はもう少しの間、唖然としていました。


 その次の日から、私達は兄妹五匹で空を滑空して毎日他の子供達と遊びに草原へと行きました。

 しかし、カラスだけが失敗してしまったのが心残りで、それを遊んでいる最中に忘れる事もあるのですが、時たま思い出して少し切ない気持ちにはなってしまうのでした。……本当に、カラスは死んでしまったのでしょうか。私はそれが気になって仕方ありませんでした。

 一応、完全に死んだかどうかは分かりませんが、確定的推測にまで死んだかどうかを持ち込む方法はあります。

 けれども、私はそれをする気には余りなれませんでした。はっきりさせたくない訳ではありません。

 方法としては崖のすぐ下に行き、ワイバーンの子供の死体があるかどうかを調べれば良いのです。沢山あれば、失敗した子供は死んでいくと分かりますし、殆ど無ければ他の巣に引き取られたか、子供ながらどこかへ去って行ったとも取れます。

 ……しかし、そこは、崖に掘られた洞窟を巣としている私達の排泄物が頻繁に落ちて来る場所なのです。

 体にそれが引っ掛かってしまう可能性がとても高いのです。それは私にとってはとても、とっても嫌な事でした。

 けれども、はっきりさせたいという気持ちは日に日に増していきました。気持ちは揺らいでいきました。


 雨の日、つまらなく洞窟の中に一日中居た日の後、とうとう私はその知りたい欲求を満たす事にしました。昨日のつまらない一日がその最終的に決断するきっかけになったのだと私は思いました。

 晴れているけども雨上がりのじめじめとした空気の中、私達兄妹と父は外へと繰り出しました。

 飛ぶのが一番上手いのは私で、次はマメでした。マメは滑空する時は、羽ばたいて空を自由に飛ぶ事は出来ないにせよ、曲芸飛行を何度も繰り返して、上昇下降を何度も繰り返していました。それの度が過ぎて、一回だけ他のワイバーンにぶつかってしまった事があるのですが、マメはその時も体を一回転させた後にすぐに何ともないように飛行に戻っていました。その後、父に怒られていましたが、それからも控えめになったとは言えません。

 そんなマメを見ていると、マメは大勢で遊ぶより、自分一匹で遊ぶのが好きなんだろうな、と私はこの頃思うようになりました。

 私は自分の飛行の練習の為にも、わざと体を丸めて落ちて行くマメに付いて行きました。マメを除く四匹で外に出ていた時は、マメを弟だと思ってしまう時もある程でしたが、今はそんな事はありませんでした。


 無事にいつも通り、大地へと私達兄妹と父は着地しました。良く言えば瑞々しい、悪く言えばぐしょぐしょな地面にゆっくりと足を付けて、私は周りを見回しました。

 私達兄妹の体や、今ここに居る他のワイバーンの子供達も、大きさとしては子犬よりは明らかに大きくなっていました。子牛位の大きさでしょうか。

 子牛なら見た事も、もうありました。私達が大きくなるに連れて母が獲って来る獲物も、大きくなっていったからです。生きたまま持ってくるという事も未だにありましたが、子牛とかになると、狩りではなく一方的な殺戮と言った方が言葉としては合う光景になりました。

 それと、私達兄妹の体に関してです。ワイバーンが口から炎を吐け、尻尾から毒針を飛ばせる事は知っていたのですが、まだまだどちらも先のようでした。歯も牙と言えるまでには生えていませんし、大人達が偶にやっているように炎を吐こうとしても、ただ虚しく息が出るだけです。それに、尻尾も少し尖っているだけで、ふん、と尻尾を振り回してみても、何も出る事はありませんでした。

 さて、と。私は兄妹達が思い思いの場所へ散らばって行くのを見てから、崖の方に目を向けました。今も一つの洞窟から糞尿が落ちて行くのが見えます。

 何度か近くまで行った事はあるのですが、その時点で臭いは酷いものでした。今日は雨の日の翌日ですが、臭いはマシになっているか、それとも一層酷くなっているか、少し怖く思いながら私はそのワイバーンが余り居ない方に向って歩き始めました。


 兄妹達には、いつの間にか他のワイバーンの友達も出来ていました。マメにも、仲が良いワイバーンが一匹だけ居ます。けれども、私は自ら他のワイバーンに接しようと余り思わなかったのもあり、毎日気紛れに過ごしていたのが災いしてか、友達はまだ居ません。喧嘩を良く仕掛けて来るワイバーンなら居ますが、それを友達と言って良いのかどうか、私には測りかねます。まあ、いつも私が勝っているのですが。

 歩いている内に、とうとう臭いがしてきました。わざとこの場所で遊んでいるワイバーンも居る事は居ますが、極少数です。

 姉さんは何故か毎日帰る前に、この辺りの臭いを嗅いでから帰っているのですが、何故かは分かりません。余り考えられませんが、姉さんはそういう臭いが好きなのでしょうか。

 私の歩くスピードは自然と遅くなっていきます。やっぱり止そうかなとも思う気持ちも湧き始めています。涼しくなってきている季節な筈なのに、ここから先は妙に暑そうでした。腐ったものが熱でも発しているのでしょうか。

 そんな時でした。私は後ろから走って来るワイバーンの存在に気付きました。振り向くと、いつも喧嘩を仕掛けて来るワイバーンでした。因みに雄で、私は心の中ではオチビと呼んでいました。もう一つ言っておくと、私に一番最初に喧嘩を仕掛けて来たワイバーンとは違います。

 オチビはマメよりはほんの少し大きいのですが、すばしっこかったり、良く体を丸めたりしているので、マメと同じ位の小ささの印象が私にはありました。

 私は追って来るオチビに対して、わざと逃げる事にしました。しかし、崖下の方に向ってですが。オチビがこの臭いによって追って来なくなる事を私は願っていたのです。

 けれども、オチビは臭いを嗅いでいないのか、それとも臭いを気にしていないのか、そのままのスピードで私に迫ってきました。私の方が脚力は弱いので、その内追いつかれてしまうでしょう。

 下を見ると、虫が湧いているのが見えました。こんな所で喧嘩はしたくないので、私はオチビが追って来ない事を願って更に走り続けました。臭いは一層酷くなっていました。

 きっと、雨の性だと私は後悔しながら思いました。

 走り続けても、オチビは全く止まろうとしませんでした。もしかしたら、初めて私が逃げ出したので絶好のチャンスとでも思っているのでしょうか。

 もし、そうだとしたらとても嫌なのですが。私はとにかく臭いがきつい方へと逃げました。目からは臭さで涙が出ていました。吐き気も少ししていました。

 オチビの方を振り向いている暇はもう無いのですが、オチビはそんな気持ち悪さを感じていないのでしょうか。

 差は刻一刻と縮まっていました。


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