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私、ワイバーンです。  作者: ムルモーマ
3. 私が真実を知るまでの物語
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14. 箱の底

 暫くするとタルベがやって来て、中庭で寝そべって待っている私を見て手を振りました。

「とうとうここで殺しをやったか」

 私は目を細めました。

 この二人には私がやった事だと確信されているようでした。

「……否定しないのか?」

 もう、ファルにはばれています。否定したとしても意味はありませんでした。

「肯定した、と受け取って良いのか?」

 好きにしてくれ。

 そう思い、私は何も答えませんでした。

「俺が告げ……やらねえよ、だからその尻尾降ろしてくれ」

 咄嗟に向けた毒針を降ろすと、タルベはほっとした顔をして言いました。

「言わねえよ。言ったとしても、そんなワイバーンを連れていた俺にまで被害が及ぶんだから」

 そうですか。

 私は少しだけ喉を鳴らしました。

「で、何で戻って来た? あんな苦しそうに去って行って、またこの前と同じように過ごそうって思ってる訳無いよな?」

 ……ファルと話したりしたのでしょう。

 私に話し掛けて来る内容が大体同じでした。

 まだ、私が尻尾で地面をなぞった跡は残っていたので、私はそれを指してから後は黙りました。立て続けに二度も同じ事をするのも嫌でしたし。

 タルベも流石に、私が文字を知っている事に驚いていました。


 タルベもそれを見てから、私が反応しそうにない事を察すると黙りました。

 そして暫くすると、ファルがやって来ました。

「……もう少し、質問良いか?」

 頷くと、またファルは質問を重ねて行きました。

「最初、ここに来た理由は?」

 前世を知りたかったから。

「知る事が出来そうなのか?」

 多分。

「大体見当はもう、ついているのか?」

 そんなにはついてないけれども。

 そう、様々な事を聞かれ、私はさっきと同様、素直に全て答えていきます。

 尻尾で文字を書くというのは、自分が異常であるという事を自ら知らしめているようで余り気分の良い事ではなかったのですが、今の所この二人に頼るしかないのですから、我慢します。

 質問は二十、三十の数を越え、尻尾を動かすのも疲れて来た頃、ファルは黙りました。

 そして、少しだけした後、言いました。

「……鉄格子を破壊し易くする位の酸を渡すだけなら、協力しても良い」

 条件があるな、とその時点で察しつつも私は顔を上げました。

「前世が分かったら、必ず教えに来る事」

 私は少しだけ悩んでから頷きました。

 自分を抉るようなそんな前世だったら、どうしたら良いのでしょう。

 単にその約束を無視するという手もあったのですが、ファルと目を合わせると、その考えは出来そうにありませんでした。

 その目は、好奇心に負けて自分が人殺しになるかもしれない事の手伝いをしてしまうという、酷く複雑な表情をしていました。


 話が決まれば、後は時間は大して掛からないようでした。

 ファルは少々そちらの方にも詳しいらしく、タルベが「薬も作っているからな、あいつ」と言ってました。

 それからまた、私がただ中庭でぼうっとしていると、タルベが「なあ、久々に外に出ないか?」と誘いました。

 しかし、私は首を振って断ります。

「どうしてだ?」

 文字を書けると知ってか、私に理由を聞いてきます。

 答えたくはありませんでしたが、悪く思われても困るので私はまた文字を書きました。

「……助けるまではしたくない、か」

 今、私自身の事を思い出してしまっても、姉さんの事に集中出来なくなっては困るから、というのが主な理由でした。

 また、要らない事をこれ以上思い出したくない、という事とかもあったのですが、それは面倒だったので書きませんでした。

 それにもう、思い出す為には町を歩いたりする必要は無いような気がしました。何か、本当に僅かな事で思い出すような、そんな気がしていましたし。


-*-*-*-


 私自身は狩りをして肉をファルやタルベに偶に渡す事以外は大して何もしませんでした。町を回ったりもしませんでしたし、ロがここに来るという事もありませんでした。

 代わりにまた私が来たというのを聞いて、子供が数人態々ここまで来て私の体で遊んだりという事はあったのですが。

 それをあやしながら、本当に私が智獣を殺したという事は疑われていないのか、と半ば驚きもありました。

 もし、もうこの近くで五人も智獣を殺し、そしてこれからも殺す可能性が高いと知ったら、この子供達はどう思うのでしょうか。

 その親達がタルベに「賢いワイバーンですね」と言われると、タルベも苦笑いしていました。

 タルベもファルも、そして私自身も、私がワイバーンでないともう思っていました。

 けれどもやはり、私はそれでもあの群れに戻りたいと今でも思っていました。

 私自身の事を知ったら知ったで、それは胸の奥に隠しておこうと、半ば決めていたのだと私はそこで気付きました。


 そうして数日が経った早朝、ファルは私に手提げが異常に長い鞄と鉄の板を持ってきました。私の首に引っ掛けられるようにしてあるのでしょう。

 ファルはその鞄の中からガラスの瓶を一本取り出し、私の前でそれを見せてから鉄の板を置いて、言いました。

「毒針でこれを打ち抜けるか? ガラスは結構脆く作ってある」

 頷くと、ファルは鉄の板の上にそれを置き、鞄も持って離れました。

「離れた所から撃て。有害な気体が出る」

 私は立ち上がり、少し距離を取ってその瓶に向けて毒針を放ちました。

 がん、と音はして、皹が入って中から液体が出たものの、完全に瓶は壊れませんでした。

 これは、強く放たないと駄目でしょう。

 もう一度、今度は尻尾を噛んで毒針を放ちました。すると、今度は派手に音を立てて瓶は壊れました。

 そのまま薄い鉄の板に刺さった毒針は、その酸によってすぐに溶け、鉄の板自体もじゅわじゅわと見る間に溶けて、酸は地面にすぐ到達して、雑草も溶かし始めました。

 これなら、壊し易くする以上の効果があるかもしれない。

 はっきりと、目に見える希望が出てきました。


「瓶はあれを含めないで七本作った。十分か?」

 量からしても、鉄格子を壊し易くするのには十分そうでした。

 しかし、出来るだけ作れれば、と頼めれば頼みたかったのですが、流石にそこまで図々しくは出来ません。

 私が頷くと、ファルは強い口調で言いました。

「鉄格子を即座に溶かし始める位の強いものだ。

 気化した気体も出来るだけ吸うな。内臓が焼け爛れる可能性もある。

 勿論体に触れたら酷い事になる」

 もう一度頷くと、ファルは諦めたような顔をしました。

「智獣だったなら、分かるだろう? 私が何をしようとしてるのか。

 ……いや、好奇心に負けた私が言う事じゃないか?

 …………。

 如何に君に高尚な理由があれど、君が今からしようとしている事は、正当防衛でも何でも無い、罪だ。

 私はそれに加担するんだ。

 君が見つかって捕まったとしたなら、確実に死ぬ。殺される。

 こんな薬品を作れるのも、この町にはそんなに多くない。私だって、完璧に無関係では居られない。

 その罪、リスクを、私に背負わせるんだ。

 ……本当に、私の言う事じゃないな。私が自分で決めて、進んでやるんだから」

 瓶を鞄の中に入れながら、ファルはそう自嘲しました。

「で、今夜にでも決行するのか?」

 私は地面に、不死鳥が来る日に、と書きました。

「成程、目を背けさせる訳か。でもまだ先じゃないか。その日まで預かっておくか? それとも、もっと多く作っておくか?」

 いや、と私は首を振りました。それは、私が持っておいた方が良いでしょう。

 それに目的の物が手に入れば、もうここに居る必要もありません。

 私は少しだけまた、文字を書きました。

 不死鳥が来る日の確認をしたいというのと、それまで違う場所に居るという事を伝える為です。

「不死鳥が来る日は、後三十五日後だね。……満月に近い日だ。人が出払っているかもしれないとは言え、目には付きやすいぞ」

 どうせ助けようとしたら、見つかってしまう事はほぼ確実なのです。それなら、新月の時よりも人が出払っている時の方が良いでしょう。

 私は分かっている、と鼻を鳴らしました。

「……そうか。

 まあ、一つだけ言っておこうかな」

 ファルは私に歩み寄りながら、指を一本立てて、言いました。

「死なないでくれ。

 君の正体を知りたい気持ちは罪を犯すよりも強いもので、勿論それもあるが、君自身を私は少し気に入っている。

 タルベだってそうだろう。

 だから、な。

 それに、二度目の生だとしても、死を軽んじる必要は無いだろう?」

 何かまた変な感じがしましたが、今は無視するべきだと思い、私は答えました。

「…………ヴゥ」

 とても危険な事だとは、重々承知しています。失敗したら、ロか私、それか姉さんの全員ではないにせよ誰かがきっと死んでしまう事も、また、魔獣に慣れた智獣達が居る場所だとも。

 しかし、彼らは魔獣を狩るのに慣れた人達ではありません。そうだったら私はこの町に入る前に死んでいるでしょう。そこに居るのは特上という強さにも入らないワイバーンを三人掛かりでも倒せない智獣達です。

 儀式に参加出来るような強い智獣達では決してありません。

 上手くいく見込みは十分にありました。

「……さて、もう行くか?」

 ファルは私の前で鞄を首に掛けようとしましたが、私は首を振りました。

 夜になってからでないと、鞄を持っている事は目立ってしまうでしょう。

 私は夜に、と短く書いて座りました。


-*-*-*-


 また一日を掛けてドラゴニュートの所へと戻り、鞄を隠して私はその日をゆっくりと待ちました。

 出来るだけ、自分の事を考えないようにして、ただ姉さんを助ける為に頭の中でどうやったら良いか考え、体を動かしました。

 ロの戦い方はやはり少し雑だったので、そこを出来るだけ直させたりもしました。

 毒針を強く飛ばす方法も教えました。

 他にも大狼とも喧嘩をしたり、私自身も毒針の練習をしたりと、様々な事をしました。

 しかしそれは、本当に姉さんを助ける為ではなく、とにかく何かをしていないと、本当にこんな時に思い出してしまいそうだった、という方が理由として強かった事に私は気付いていました。

 私は思い出す寸前になっているであろう今、自分自身の過去に怯えていました。

 原因は勿論分かりません。

 思い出そうとしていたのに、今となってはそれが怖くて無理矢理蓋をしている。

 ……何でしたっけ、そんな恐怖が詰まっているものを例えたような箱があったような気がしたのですが。

 最後に残っているものは、明るい物だったような。

 そうであると、嬉しいのですが。

 でも、今は蓋をしておきましょう。また、自分自身の事を知る為に動くのは、姉さんを助けてからでも遅くはないのですし。


とうとう、0時予約が出来なかった。

見直しもしてない。

修正する場所あるかな。

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