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第七話 強襲

「……なぁ、リリス、ここさっきも通らなかったか?」

 リリスは左手を顔に当てながら、腕を組んで、ただ黙っていた。

 僕達は明らかに異様な状況に巻き込まれていた。

 さっきから、この、時に取り残された世界から抜け出そうとしているのだが、何度出ようとしても、同じ所をループしてしまう。

「一回戻ってみないか?」

「……」

「おい、リリス」

「……ええ、そうね」

 少しの間があって、やっとリリスが返事をした。

 そうして戻ってみると、僕達はループすることなく、違う景色の場所に移動することが出来た。

「狐にでも化かされているのか……?」

「これは……まさか……」

「何か分かったのか?」

「先に仕掛けられたみたいね」

 意味が分からない。

「おいリリス、一体何を――」

「全く、あの恥さらしにも困ったものだ」

「……何だ?」

 見知らぬ声がしたので前方を見渡すと、病的に色の白い男性が立っていた。

「おい、リリス、人間が居るぞ、どういうことだ?」

 リリスはただ目を見開いている。

「くっくっ、我がただの人間に見えるか。まぁ無理もなかろう」

 男は小気味良さそうだ。

「あなた……竜人ね?」

「竜人!?こいつがか?」

「察しが良いな天使。少年、我が耳を見よ」

 男は自分の耳を指差した。

 耳の先端が尖っている。まるでエルフのようだ。

「これが俺が竜人と呼ばれる所以よ。正確には、竜人と人間のハーフだがな」

「……なんだと?」

 思わずリリスと顔を見合わせる。

「私も実際に見るのは初めてだわ……」

 竜人はそんな僕達の反応を見て面白がっているようだった。

「くっくっ、奇妙であろう。気持ち悪いであろう。驚くのも無理はない」

 別に気持ち悪いとまでは思わないが。

「……さっき恥さらしがどうとか言ってたな」

「ああ、言ったが?」

「……あの竜人、どうした……?」

 下手に解放されたら、まずいことになる。

「あの無能か、それなら我が始末したが……?」

「……!」

 予想外の返答だった。僕の中で強い憤りが沸き上がってくる。

「お前は……仲間を殺したのか?」

「不本意ではあったが、仕方あるまい。敗者は死、それが戦争のルールだ」

「不本意だった……?どういうことだ?」

「おっと、これ以上は話せないのでな。その答えはそちらが勝ったら話してやろうではないか」

 どちらにしても同士討ちをしたことに変わりはない。

 やってやろうじゃないか……!

 僕は魔法防御を練り始めた。

「貴様、名は何という?」

「……挺水章だ」

 男は右手をつけて執事のようにお辞儀をした。

「我が名はムドディール・ディアナ。正々堂々と戦い抜くこと、ここに誓う」

 ムドディールが近くにあった道路標識を折って手にすると、それは大斧に変化した。

「これが我が能力だ」

「手にしたものを武器に変換する能力ね」

「その通りだ天使。よく分かったな、いや、見れば分かるか」

「伊達に魔法専攻してないわよ」

 リリスが耳元に近付いてきた。

「章、無理はしちゃ駄目よ。この竜人は、今までの竜人のようにはいかない」

 リリスは若干焦っているように見える。

「魔法防御は十分に練ったか?少年」

 奴は随分余裕を持っている。今までの竜人とは態度まで違う。

「それでは、いかせて貰うぞ」

 奴はこちらに向かって走り出した。

 あんな重そうな武器を持ちながらこのスピードか……!

「章、避けなさい!後ろに跳ぶの!」

 一瞬怯んでしまったが、リリスの言葉で気付けられた。奴が大斧を降り下ろそうとしたその瞬間、僕は水流を使い後ろに跳び上がり、なんとか着地した。

「どうした!?僅かでも油断しようがものなら少しの迷いもなく肉塊にしてみせるぞ!」

 ムドディールは地面に刺さった大斧を抜こうとしている。

 今の隙に!と僕は思った。たった数秒の隙だった。

 合わせた両手から僕は激流を放出した。

 水流が収まると、最初に僕の目に入ったのは地面に刺さっている道路標識だった。どうやら武器を捨てて後ろに回避したようだ。

「隙を突くとはなかなかやるじゃないか。そうか、今のが最大火力か」

 奴が落ち着いた口調で言う。

「まさか……俺の水流を看るためにわざとやったのか?」

「当然だ。あんな明らかな隙を見せるはずがないだろう」

 自分が愚者であることを思い知らされる。

「だが貴様の戦い方を看る為でもあった。レベルの低い奴等を相手にしてただけあって、ゲリラ戦を好むようだな」

「章、地の利を活かすわよ。奴が戦う体勢になったら屋根の上に跳びなさい」

 リリスは少しも慌てずアドバイスしてくれた。自然と僕も落ち着いてくる。

「いいだろう。戦いとは隙の突き合いでもある。貴様のやり方に、合わせてやろうじゃないか」

 奴は今度は電灯の柱を握り、折った。握った電灯が、武器に変わる。気が付くと、奴は大きな鎌を持っていた。

「行くぞ!」

 奴がこちらに向かって走り出す。

 十分に近付いてきた所で、僕は水流で急上昇した。

 奴を見ると、武器が電灯に戻っている。奴がニヤリとしているのが見えた。

 何をする気だ……?

 そう思った。

 屋根の上に着地するかしないかという瞬間だった。僕目掛けて、炎を纏ったナイフが飛んできた。

 まずい、避けられない!

「跳んで!」

 僕はリリスの言葉に従って、着地することなく水流を屋根に叩きつけて、自分の軌道をずらした。それから僕はバランスを崩して後ろから木に突っ込み、地面に叩き付けられた。すると燃え盛るナイフが何本も時間差で飛んでいくのを見た。あれが刺さるよりは多分マシか……。

「章?大丈夫?」

 僕は起き上がった。

「痛っ……こりゃ左足いっちゃってるな……」

「……ヒール」

 リリスが魔法で傷を治してくれた。

「いい?私の回復魔法は一度空間に入ったら三回までしか使えないの。だからあと一回。出来るだけ危険は避けて」

「……分かった」

「さぁ、ムドディールが来る前に立ち上がりなさい」

 リリスはそう言うと、辺りを見回し始めた。

 僕は立ち上がると、辺りを警戒した。

「……近くに奴は居るのか?」

「近付いてくるわよ」

 僕はいつでも応戦出来るように構えた。しばらくすると、奴の姿が見えた。

「マルチスキル……まさか体現する竜人を見ることが出来るなんてね」

「そう、これが我を人間と竜人のハーフと言わしめる力よ。属性魔法は人間の特権だからな。しかしさっきの高さから落ちて無傷とはな。治癒魔法でも使ったか?」

「……ええ、そうね」

「これはこれは厄介な奴に当たったものだ。いくら殺しても死なぬか」

 ムドディールは小気味良さそうに笑っている。

「……何故、表に出てきた?」

 僕はムドディールに疑問をぶつけた。

「何故、とは?」

「何故不意討ちしようとしない?」

 竜人は高らかに笑い、こう言った。

「まるで悪役だな。我は戦闘に対してプライドを持っている。不意打ちなぞ、するわけがなかろう。では、再びあいまみえようではないか」

 竜人は木の枝をへし折り、ハンマーにして近付いてきた。

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