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第五話 事件発生

 僕はその日の夜、何の変鉄もなく、ニュースを聞き流しながら夕飯を食べていた。

「それでは次のニュースです。峯馬市警察署は『人が磔になって死んでいる』との通報を受け、現場に向かったところ、本日午前七時頃、峯馬市在住の二ノ宮一さんが自宅付近で変死体で発見されました」

 ん?峯馬市って……、まさかな、聞き違いだろう。……いやでも二回言わなかったか?そう思っていると

「章、うちの市で殺人事件だって」と姉貴が言った。

 聞き間違いじゃなかったのか!

「ちょっと音量上げて」

 僕は即座にテレビの前に移動した。

「怨恨などで殺された可能性があるとみて、現在も峯馬市警察署は、捜査を続けているということです」

 この町で殺人事件が起きるなんて珍しいな……。しかも磔?こりゃ気違いだな。

「やーね。何の取り柄もないこの町で殺人事件が起きるなんて。しかも磔なんて。どういう頭してるのよ」

「確かに……」

 でも何か引っ掛かるな。一応リリスに報告しておこう。


 僕は自室のドアを開けると、僕のベットに座って、閉じた本の上に手を置いてじっとしているリリスの姿が目に入った。

「何をしてるんだリリス」

「ああ章、暇だから適当に本棚を漁って本を読んでたのよ」

「お、おう……」

 いや、そうじゃなくて勝手に本を……と言おうとしてやめた。突っ込んでも疲れるだけだ。それにしても僕がリリスと居て丸くなってきたのは気のせいだろうか。

「これは興味深いわね……面白いと思うわ」

 SFか……やっぱ職業柄こういうものに興味が出るのだろうか。

「でもそれを読むよりもこっちを先に読んだ方が分かりやすいと思う」

「そう?でも途中だからこれを読み終わってからにするわ」

「そうか……」

 っていやいやいや、そうじゃないだろ。報告すべきことが僕にはあるのだ。


「リリスに一つ報告があるんだ」

「あら、何かしら?」

 僕は勉強机の椅子に腰掛け、市内で殺人事件が発生したことを伝えた。それが磔になっているようだ……とも。

「竜人が何か関わってるってことはないか?」

「可能性はなくはないわ。でも、その情報だけで竜人の仕業と考えるのは早急過ぎるわね。仮に竜人の仕業だったとしたら何か理由がある筈よ。魔法使い以外の人間を殺しても彼らにとって得は全くないんだから」

「……でも、奴らは人間を恨んでるんだろ?」

「そうだけど……魔法戦争は基本的に秘密裏に行われるものなのよ。だからそんな目立つ動きをすることはない……と思うのだけど……」

 それっきりリリスは黙り込んでしまった。珍しく自信なさげだ。こいつでも、こんな反応をする時があるのか。

「まぁいいや。明日の予定は決まってるのかリリス」

 まるでリリスがマネージャーか何かのようであるが。


 リリスはぶつぶつ喋りながら何かを考えているようだ。待っていると遅くなりそうなので僕は先に寝てしまうことにした。明日もこの調子なら久々に小説がちゃんと読めるので万々歳なのだが。


 ……そして次の日の朝7時頃。僕は目が覚めた。そして部屋を見渡すとリリスが居ないことに気付いた。姉はもう部活に行っている筈だし、両親はもう働きに出ている筈だ。別に僕の部屋に居なくても支障はないのだが、いつも最初にリリスと朝の挨拶を交わすのがここ最近の習慣だったので、居ないとどうも調子が狂う。


 僕はリリスの姿を探したが、何処にも居ない。ちょっと考えて、リリスが居ないのなら自由ってことじゃないか!と思い、僕は朝食を食べるのも早々に部屋で小説を読むことにした。

 10ページくらい読み進めた頃だろうか。なんだか嫌な予感がしたので身仕度を整えた。それからもう一度読もうと思ったところで、玄関のチャイムが鳴った。リリスが帰ってきたのだろうかと思ったのだが、あいつはアストラル体なのでわざわざチャイムを鳴らす必要はない。


 宅配便かと思って玄関のドアを開けると、僕のクラスメイトでありもう一人の魔法使い、結城詩織が玄関の前に立っていた。

「いきなり来てごめんね、ちょっと話したいことがあって……」

 話したいこと……といえば、もう一つしかない。

「大体察しはついたよ。何処で話す?中入る?」

 結城は首を振った。どっちを否定したのか気になるところだが。

「あ、ごめんね、わ、私の家で話したいんだけど……」

「分かった。すぐ用意する」

 身仕度を調えておいて良かった……。リリスはフォトンベルトの影響で第六感が進化しているといったが、こういうところで役に立つものなのだろうか。僕は携帯や小説その他を小バッグに入れて家を出た。


「いきなり家に来ちゃってごめんね、連絡先知らなかったから」

「僕は自宅の電話でも全然良かったんだけど」

「えっ?自宅の電話?」

「ほら、連絡網」

「あ、そっか……そうだよね」

 結城は照れ笑いを浮かべていた。抜けているところがあるが、リリスよりはよっぽど好感が持てる奴だと思った。

「あれ?リリスさんは?」

 僕は今更かよ!と突っ込みたくなる気持ちをぐっと押さえた。まぁ説明し忘れてた僕も僕なんだが。

「なんか今日朝起きたら居ないんだよ。全く、何処行ったんだか」

「そうなの?勝手に出てきちゃって大丈夫なの?」

 勝手に出てきちゃってって言われてもなあ。保護者じゃないんだし。と心の中で言っておく。

「多分大丈夫だと思うよ」

「そ、そう……」

 と、こんな話をしていたら結城家に着いた。近所だからあっという間だ。

「ただいまー」

「お邪魔します」


 僕はそれからすぐに部屋に案内された。相変わらずテレサさんは部屋の隅で体育座りをしていた。まさか一日中あのままなのだろうか。ん?いや、よく見るとこの前と位置が違う。うーん、謎だ。

「ん?どうしたの?」

「いや、何でもない」

「……」

「……」

「……」

 ……暫しの沈黙。誰も話し出さない。

 リリス、何故居ない。


「……リリスは」

 意外にも沈黙を最初に破ったのはテレサさんだった。体育座りのままこちらに顔を向ける。

「天界の図書館に居ます」

「天界の図書館……ですか?」

 そんなものがあるのか……。天界のことはよく分からないな。

「はい。リリスは天界の図書館で、黒魔術についての本を読んでいます。いえ、読み朝っている、といった表現の方が正しいかもしれません」

「それは今回の事件と関係あるんですか?」

「はい。大いにあります。章は、死体が磔になっていたことは知っていますね?」

「ええ、昨日の夜のニュースで……」

「リリスは磔を材料にした黒魔術について調べているのです」

 リリスって意外と……。

「でもその数は一つや二つではありません。リリスは磔を材料にしたあらゆる黒魔術を調べているのです」

「……リリスって、意外と仕事熱心なんですね」

 しまった、つい口に出してしまった。テレサは微笑を浮かべた。目の端で結城が口元だけ笑っているのが見えた。僕は慌てて次の言葉を探した。

「えーっと、つ、つまり、今回の事件は竜人関係であると?」

「……正しくはそうではありません」

テレサさんは極めて冷静に言った。

「……というと?」

「今回の事件はイレギュラー――悪魔勢力――による犯行と私達は見ています」

 悪魔勢力……そうだよな、天使が居るのだから悪魔が居てもおかしくない。

「悪魔ってどんな奴らなんですか?」

「一言で言うと、天使に恨みを持ち、全力でその妨害をする者逹……というところですね。詳しく話すと長くなりますが……」

 僕は気を遣ってそれ以上いことにした。


「でも不思議ね。魔術はテレサたちの専門分野なんじゃないの?」

 結城が発言した。

「私達が得意とするのはいわゆる表の魔術。悪魔達の得意とする黒魔術は専門とはしていないのです」

「あ、そうか……うん、そうだよね」

 本当に解ってるんだろうか。

「さて、これで一通り話はしました。次は現場検証といきましょう」

「実際に現場を?現場は封鎖されてるんじゃないんですか?」

 テレサさんは表情筋をぴくりとも動かさずに続けた。

「私の能力の応用で可能です。少し失礼します」

 テレサさんは立ち上がると、結城と僕のおでこに手を当てた。

「目を瞑って下さい」

 僕は言われた通りに目を瞑った。すると、何か視界がもやもやし始めたと思うと、夢でも見ているかのようにはっきりとしてきた。 これは……どこかの道路?警官が居るな。

「絶対に目を開けないで下さいね。視界が二つあると情報量が多すぎて気持ち悪くなりますから」

「分かりました」

「うん、分かった」

 僕と結城はほぼ同時に返事をした。

「それでは動いていきます」

 視界がスライドしていく。

「ここが現場です」

 ドラマでよく見るような殺人現場だ。一つの異様なものを除けば。

 二つの木材で作られた逆さまの十字架が立てられている。意外としっかりしているようだ。木には、まだ血が残っていた。

 そしてまた視界が曖昧になり、テレサさんがおでこから手を離すと、完全に視界が途切れた。


「……何か気付きましたか?」

 正座になったテレサさんが訊いてきた。

「生々しい」

 それはただの感想なんじゃないだろうか。

「うーん、逆十字でまだ血が残っているとしか……」

「そこなのです」

「そこって何処?」

 いや、お前じゃない。

「血が残ってるのです」

「……それが何か重要なんですか?」

 僕は素直に疑問を口にした。

「人が殺された場所なんて、ごまんとあります。血が残っていることが重要なのですよ」

「つまり血が残っている逆十字が黒魔術に重要だと?」

「そうなのです……これは魔術全般にいえることなのですが、血液はかなり重要なのです」

「……確かに僕が魔法を使えるようになるための儀式でも使いましたね」


「えっ、挺水君は血液で儀式を……?」

 怖がられてしまった。

「いや、違うんだ。僕は赤ワインで代用したんだけど……」

「あ、なら私と一緒だね」

 誤解が解けて何よりだ。

「それで、どんな儀式なんですか?」

「それはリリス待ちです」

「えっ、テレサ分からないの?」

「分かりません」

 清々しいくらいはっきりとしている……。

「ちなみにリリスは今日の昼までには戻るそうです」

「仕方ないね、じゃあリリスさん待とうか。あっ、そうだ、人生ゲームあったんだ、皆でやらない?」

 正直言うと小説を読みたい気持ちで一杯だったのだが、仕方ないのでやることにした。

「じゃあ今から用意するね」


「その必要はないわ」

 こ、この声は……!

 リリスが壁をすり抜けて入ってきた。

「来ましたね、リリス」

 テレサさんが言った。

 おや、なんだか結城がしゅんとしているぞ。何でだろう。

「今から血液の付いた逆十字が必要な黒魔術を紹介するわ」リリスは空中に字を書き始めた。

「おお、魔法っぽいことやれば出来るじゃないか。でも空中に書かれても読みにくいんだが」

「あら、じゃあ透明化しない方が良かったかしらね」

 さっき文字を書いたところが段々と白くなっていく。こ、これは……!

「おや、リリス、そのホワイトボードは何処で?」

「さっき天界から借りて持ってきたわ」

 俺のときめきを返せリリス。


「さて、まず挙げられるのがこれね。黒ミサ。生け贄を媒体にして悪魔を召還し、その周りで子供の肉を食べたり、乱交したりするの。……って詩織ちゃん大丈夫?」

 結城の方を向くと顔面蒼白になっているのが見えた。今にも気絶しそうだ。

「リリス、僕達には……少なくとも結城にはまだ早いんじゃないか?僕も気持ち悪くなってきたし……」

 リリスは溜め息をついた。

「仕方ないわね。まあ、私が知ってるだけで十分かもね。ちなみに、さっきの魔術は却下よ。魔術の痕跡が無かったから」

「お前実際に現場行ったのか?」

「ええ。どうせ常人には見えないしね。その結果として、これを断言させてもらうわ」

 リリスはホワイトボードに大きく字を書くと、「これは連続殺人事件に発展するわよ」と言った。

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